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【コラム】ワインと私の休暇と冬のパリ

夏も冬も、私の心は常にパリに吸い寄せられていた時期がありました。仕事で世界を飛び回る日々の中で、休暇には必ずと言っていいほどパリの路地に足を運んでいました。何もするつもりがない、ただ時間が流れるのを感じる静かな休日。そんなパリの日々の中で、ワインとともに刻まれた特別な思い出を今回は皆様と共有したいと思います。

フライング・ファーマーとして、ワイン用のぶどう栽培の現場での経験は豊富に持っていますが、ワインそのものに関する知識はまだまだ。だからこそ、私はプロのワイン鑑詞師のような深い解析ではなく、土と向き合い、ぶどうとともに過ごす日々から得る、生の感想や思いを中心に綴っていきたいと思います。

専門家としての顔とは別に、ワイン愛好者としての素直な感想をお楽しみいただければ幸いです。

パリのテーブルに添えられたワインの物語

ワインのない食事は味気ない。

これは私が心から感じることであり、多くの料理との組み合わせが豊富に存在するワインは、食事の時に欠かせない存在となっています。確かに、近年はアルコールから離れる動きが見られる一方で、私はワインを含むお酒が持つ、食事や会話をより豊かにする力を信じています。

そして、そんな私がパリで経験したワインとの心温まるエピソードを、ここで皆様と共有したいと思います。どんな料理にもワインが添えられるあの日々を、一緒に振り返ってみませんか?

冬のパリで必ず訪れたのが、まずフォーブルサントノーレにある魚屋さんです。こちらで注文すると、選んだ魚介類をその場で調理して提供してくれるシステムになっているのです。

私は毎回、魅力的なシーフードの盛り合わせを注文していました。新鮮なカキ、軟らかいタコ、プリプリのエビ、そして季節ごとに変わる地中海の魚たち。それらはシンプルにオリーブオイルとハーブ、そしてレモンで味付けされています。


この場所の特別なのは、その新鮮さを最大限に活かす調理法と、なによりも、その場の雰囲気でしょう。冷たい空気の中で、蒸気をあげるシーフードの美味しい香りが店内を包み込み、冬のパリの賑やかな通りに面した窓から、街行く人々の様子を眺めながら、熱いワインやシャンパンを片手に楽しむ時間は何物にも代えがたいものでした。

さらに、店のスタッフも非常に親しみやすく、訪れるたびに「また来たの?」と笑顔で迎えてくれました。その暖かさが、冬の寒さを忘れさせてくれる魔法のようだった。彼らとの会話の中で、フランスの文化や日常、そして新しいワインの情報などを教えてもらうこともしばしば。それがまた、私のパリ滞在をより深いものにしてくれました。

毎回、この魚屋を訪れる度に、新しい発見や出会いがあり、それは私のパリでの思い出の中でも、特別な場所として心に刻まれています。そして、帰国後もその風味や雰囲気を思い出す度に、またパリに戻りたくなるのです。

冷たくてクリアな空気に、フランス特有の香ばしいバゲットの香りが漂い、その中で待望の牡蠣がテーブルに運ばれてきた瞬間、その光景と香りに心奪われること数え切れません。その牡蠣の盛り合わせの中心には、シャイニーな氷が敷かれ、その上に整然と並べられた牡蠣がキラキラと輝いていました。

牡蠣を一つ口に運ぶと、まず感じるのは、冷たさと海の塩味。その後、甘みが口の中に広がります。パリの牡蠣は、日本のものとはまた違った、独特の味わいがあります。それは、少しミネラルを感じるような、淡白で繊細な味わい。その繊細な味わいを引き立てるのが、辛口の白ワイン。ワインの酸味が、牡蠣の旨味を更に際立たせ、口の中で完璧なハーモニーを奏でていました。

バゲットは外側はさっくりとした食感で、中はもっちりとしていて、牡蠣と一緒に口にすると、その組み合わせの美味しさに驚かされます。牡蠣のジューシーな部分と、バゲットのふんわりとした部分が一体となり、一口ごとに至福の時を感じることができました。

店の雰囲気も手伝って、時間はあっという間に過ぎていきました。周りの客たちも同じように、美味しい食事とワインを楽しみながら、笑顔で会話を交わしている様子。その光景は、まるで映画のワンシーンのようで、心温まるひとときでした。

そうして、ワインボトルが空になる頃、満足感と幸福感に包まれながら、店を後にしました。パリの街を歩きながら、また次回を楽しみにしている自分がいました。その夜の記憶は、今でも私の中で特別な場所を占めています。

お次はマドレーヌ地区にあるポトフ専門店、日本語に直訳すると「ポトフの王様」という名前の老舗のお店には赤いチェックのテーブルクロスが可愛いとてもカジュアルな雰囲気のお店があります。

「ポトフの王様」という名前が示す通り、この店のポトフはまさに王様級。老舗の名に恥じない絶品の味わいが、ここマドレーヌ地区でも特に一際目立つ存在となっています。店の外観はシンプルながらも、赤いチェックのテーブルクロスが目を引く、どこかノスタルジックな雰囲気を持っています。

店内に一歩足を踏み入れると、そのカジュアルな雰囲気に包まれる。しかし、そのカジュアルさが逆にパリっ子たちや観光客を惹きつけ、一年を通して常に活気に満ちています。狭い店内には、大きな鍋がいくつも並べられ、その中でゆっくりと煮込まれているポトフの香りが漂ってきます。

この香りだけで、訪れた多くの人々の胃袋をがっちりと掴んで放しません。そして、テーブルに運ばれるポトフは、見た目も美しい。肉や野菜がしっかりと煮込まれ、その深い味わいは一口食べるだけで、多くの人々を魅了します。

フゥフゥと冷ましながら、一口食べると、まるで家の味を思い出すような優しい味わい。しかし、それでいて十分に深みがあり、食べ進めるにつれてその美味しさが増していくように感じられます。特に冬の寒い日には、このアツアツのポトフが体の芯から温めてくれるため、多くの人々が訪れます。

パリっ子たちはもちろん、遠くから訪れる観光客たちも、この店のポトフの虜になること間違いなし。言葉の壁を感じさせないその美味しさは、多くの人々にとって、パリの思い出の一つとなっていることでしょう。

カラフに注がれた、その深い赤色のハウスワインは、疲れた日の締めくくりとして完璧なものでした。私の目の前のボウルには、熱々のポトフが。その香ばしい蒸気と、ワインの芳醇な香りが絶妙に合わさり、私はすでにその瞬間から満足していた。

しかし、そんな私の満足感を一気に超えてしまう出来事が、目の前で繰り広げられました。隣のテーブルに座る、白髪を首に巻いたマダムたち。彼女たちの目の前には、骨まで柔らかく煮込まれた牛の髄が。その輝くような脂の層と、赤ワインの色が、暖かい照明の下で完璧にマッチしていました。

マダムたちは、骨の髄をバゲットに乗せ、一口大に切り取り、それを口に運びます。その動作一つ一つに、彼女たちの経験が感じられ、私はただただその姿に見とれていました。そして、彼女たちが口にしたその一口が、どれほど美味しいものであったかは、彼女たちの顔に満足感として表れていました。

私は、その瞬間、パリの真の魅力を感じました。それは、高級なレストランや、有名なランドマークだけではなく、日常の中の小さな瞬間や、老舗のポトフ店での食事にこそ、真の魅力があると感じました。

赤ワインを口に含みながら、私は心の中でパリに感謝しました。そして、今回の旅で得た新たな経験や、白髪のマダムたちの姿を、これからも大切にしていきたいと思いました。

最後は、サンジェルマン・デ・ブレのステーキハウスはとてもカジュアルなお店で、メニューはステーキとフレンチフライと実にシンプル。

このステーキハウスの特徴的なのは、そのサービスの心遣いにありました。最初にサーブされるステーキは、ジューシーで外は軽くカリっとしており、口に入れると肉汁が溢れ出すのです。それに添えられるフレンチフライは、外はサクサクで中はもちもち。シンプルながら、その味わいは最高のものでした。

そして、一番感動的だったのは、ステーキが少し冷めたと感じる頃、新しく熱々の部分をサーブしてくれるその瞬間。そのタイミングの良さと、再び熱々のステーキを楽しむことができるその瞬間は、私にとってこの店の最も魅力的なポイントでした。

通常、レストランで大きなステーキをオーダーすると、途中で冷めてしまって最後の方は美味しさが半減してしまうもの。しかし、このステーキハウスではそんな心配が一切ない。むしろ、一皿分のステーキを二度、三度と異なるタイミングで楽しむことができるのです。

その上、サンジェルマン・デ・ブレの街並みを眺めながら、ゆったりとした時間の中で、このシンプルながらも最高のステーキを楽しむことができるのですから、一度は訪れる価値があると感じました。

もちろん、このステーキと共に楽しむワインもまた絶品。特に、店のおすすめの赤ワインとのマリアージュは、言葉にできないほどの美味しさでした。サンジェルマン・デ・ブレの夜の雰囲気と、このステーキハウスのシンプルながらも最高の料理。それが私のパリでの食事の最高の組み合わせとなりました。

おともにチョイスしたのがしっかりめの赤ワイン。

エスニック料理とロゼワインやスイーツとシャンパーニュなどまだまだご紹介したのですが、またいつかの機会に譲りたいと思います。

冬のパリは、煌びやかな街の光に、ワインの深い赤や白の色が映える場所。通りを歩けば、暖房の効いた小さなカフェやレストランが、冷えた身体を温める温かい場所として迎えてくれます。

実は、ワインの選び方に自信はありませんでした。しかし、その都度、お店のソムリエやスタッフにアドバイスを求めて、そのおかげで多くの素晴らしいワインとの出会いがありました。そこで知ったのは、ワインは単なる飲み物ではなく、食事の一部として存在するもの。そして、その食事とのマリアージュこそが、ワインの真髄を引き出してくれるのです。

食事の時、ワインがテーブルに加わることで、会話が弾む。料理の美味しさが倍増し、笑顔が広がる。ワインはまるで食事のステージに、煌めきを加える魔法のような存在。そして、その魔法を信じて、ソムリエやスタッフのおすすめを受け入れることで、私は多くの美味しいワインとの出会いを楽しむことができました。

「食事とワインのマリアージュ」、この言葉の持つ意味は、実に深いものがある。それは、お互いを高め合う、最高のパートナーシップのようなもの。料理の味を引き立て、その味をさらに美味しくしてくれるワイン。そして、ワインの味を引き立て、その魅力を最大限に引き出してくれる料理。この完璧なハーモニーこそが、私をパリのレストランやカフェへと引き寄せる力となっています。

そして今、心の中で、パリの街角のカフェや、暖かいレストランの中の様子を思い浮かべてみると、そこにはワイングラスが輝き、美味しい料理が並んでいます。そのシーンを思い浮かべるだけで、私の心はワクワクと高鳴り、次のパリ訪問を夢見ています。パリの街、そしてワインとのマリアージュが、再び私を呼んでいるのです。

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