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『アイドルホース列伝 超』執筆裏話③ デアリングハート編


はじめに

 今回は、小川隆行・ウマフリ『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社、2024年)において私が担当した競走馬列伝の中から、デアリングハート(215頁)列伝執筆の裏話をお届けします。

1.執筆まで

 候補馬リストを受け取った時、リストに入っていることに驚いたのがデアリングハート。2005年牝馬クラシック戦線を語る上で重要な一頭ではありますし、『ウマ娘』への登場も話題となったものの、「アイドルホース」と言えるのか、は中々難しいと感じました。しかし、この時点で『ウマフリ』にデアリングハートのコラムを寄稿することが決まっていた縁もあって執筆希望リストに入れたところ、ご依頼をいただきました。

 率直に言って私はデアリングハートのファンだった訳ではありません。2005年当時を振り返ると、やはり応援していたのはディープインパクト。当時はGⅠ中継を父と一緒に観るくらいでしたし、デアリングハートは印象に残る馬ではありませんでした。デアリングタクトが桜花賞を勝った頃に「似た名前の馬がいなかったっけ?」と思って調べた血統表にデアリングハートの名前を見つけた時も、「シーザリオの同期にそういう馬がいたな」という以上の感想は特に持ちませんでした。

 そのデアリングハートに大きな興味を持ったのは、『ウマ娘』での登場がきっかけ。CVが発表されたPVに「希水しお」の文字があったことに驚いたのです。

 希水しおさんと言えば抜群の歌唱力や舞台経験に裏打ちされた表現力(あとラジオでのマシンガントーク)に定評のある声優さん。個人的には「善戦馬」というイメージだったデアリングハートに希水さんがキャスティングされたことに意外性を感じました。実際ゲームをプレイすると華やかながらも芯のあるキャラクターとして活躍。希水さんのライブイベントでの高いパフォーマンスもあって、凄い存在感を発揮しています。

 「善戦馬」のモデル馬と華やかなウマ娘。このギャップについて考えてみたら面白いだろう、と思い、『ウマフリ』さんでのコラム執筆に至りました。

 しかし、列伝の執筆となると事情は変わります。あくまでも競走馬の列伝であり、『ウマ娘』の話をするわけにはいきません。軽い気持ちでリストに入れたことを少し後悔しました。案の定、1頁の紙幅で書くべきことを考えていく中で、プロット作成は難航します。

2.プロット作成

 おそらく、デアリングハートが本書のラインナップに入っている理由はデアリングタクトの祖母だからでしょう。しかし、それでは本馬の「列伝」にならないではないか、というのが私の見解です。ではこの馬の競走生活におけるどの時期にフォーカスすれば良いのか。アイデア出しは困難を極めました。

 「ライバルとの激闘」という意味では牝馬クラシック戦線ですが、ハートは未勝利。古馬になっての重賞勝利を取り上げようにも、他の列伝に比べてインパクトに欠けてしまうように感じました。

 そこで思い至ったのが、競走生活晩年のダート挑戦を取り上げること。ラストランのフェブラリーステークスは7着に終わっていますが、レース映像を見ると直線で一度は先頭に立っています。戦った相手はヴァーミリアンにブルーコンコルド・フジノウェーブ・ノボトゥルーと猛者揃い。大健闘と言って良いでしょう。「この馬の現役時代にJBCレディスクラシックがあったなら…」と考えてしまいました。その時、「ダートでの可能性」をキーワードにしたプロット作成を思いつきました。

3.執筆

 5歳秋までを簡潔にまとめてしまう、という思い切ったプロットになりましたが、完成してからは一気に執筆が進みました。しかし、書き上げて気づいたのは、デアリングタクトについて全く言及していないこと。おそらく編集の意図とはズレているだろうな、とは思いつつも、あくまでも現役時の活躍にフォーカスしたこの構成は崩したくない。ちょっとしたこだわりを胸に、原稿を送りました。

 結果として構成自体を大きく変えるようなオーダーは入りませんでした。見出しに「無敗三冠牝馬の祖母」と入れるという形に落ち着いて良かったです。より良い見出しになるように諸々の調整に尽力してくださった『ウマフリ』の緒方きしん代表に改めて感謝申し上げます。

 結果としてプロットに難儀した経験は、『ウマフリ』でのデアリングハートのコラム執筆に大いに活かされました。そのお話はまた別の機会にできればと思います。

 次回、トランセンド編に続きます。


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