『ウマフリ』執筆裏話 ―アグネスデジタル編
はじめに
今回は『ウマフリ』に寄稿した、「「新時代の扉」をこじ開けたヒーロー - アグネスデジタル」の執筆裏話をお届けします。
1.執筆着手まで
先に白状します。実は今回のアグネスデジタルのコラム、「マイルチャンピオンシップ勝ち馬の名馬記事を」というご依頼で着手したものでした。
今年の春先に緒方きしん代表からスケジュールの打診をいただいた際、秋は京都大賞典・マイルチャンピオンシップ・有馬記念の3本のコラム執筆を担当することになっていました。この時にマイルCSと有馬記念は『ウマ娘』に登場する馬で書くことまで決まっており、それぞれアグネスデジタルとマンハッタンカフェの3歳シーズンについて振り返るような内容を想定していました。
グローリーヴェイズのコラムが無事掲載となった後、執筆の準備を始めたところ、心境に変化が生まれてきました。「折角今年コラムを書かせて貰えるなら、デジタルもカフェも『新時代の扉』に絡めた内容にしたい」と思うようになったのです。
2.プロット作成
当初準備したプロットでは、デジタルのオールラウンダーとしての活躍にフォーカスすることにしていましたが、そこで筆が止まります。個人的に、『ウマ娘』に絡めたコラムを執筆する際は「『ウマ娘』と関連させる必然性」みたいなものを大切にしています。その意味で、デジタルの活躍はローテーションを追いかけているだけでも面白く、『ウマ娘』におけるキャラクター性と関係なくコラムが成立してしまいます。「これって別に『ウマ娘』と絡める必要も無いよな」という印象がありました。そのまま書き進めることも出来たと思いますが、納得のいく仕事にならない予感がしました。
そこで、ふと思い出したのが、アグネスデジタルの現役時代が『新時代の扉』のモデルとなった時期と重なること。映画本編ではぶっちゃけ出番はほぼ無いのですが、テイエムオペラオーやメイショウドトウとも戦って勝っている訳で、そこにフォーカスできたら面白いだろうな、とアイデアが浮かびました。マンハッタンカフェの方もオペラオーに勝った有馬記念がクライマックスになりますから、次のコラムの繋がりも持たせそうだ、とも考えました。
段々とアイデアを言語化していくうち、「新時代の扉をこじ開けたのはアグネスデジタル!」と脳内の三宅正治アナウンサーが叫びました。そう、「新時代の扉」が『ウマ娘』において「覇王世代からの世代交代」を意味する以上、最初にその扉をこじ開けたのは、天皇賞(秋)で勝ったデジタルになるはず。なら、思い切って「新時代の扉」をキーワードにアグネスデジタルのコラムを書いてみよう。そういう考えがまとまりました。
しかし問題になるのは、このコラムがマイルCSにあわせての掲載になること。天皇賞(秋)まで扱う範囲を広げることはあまり望ましくは無いよな、と思いました。そこで『ウマフリ』の緒方きしん代表に連絡をとり、状況を説明しました。すると、天皇賞(秋)の週での掲載にできないか、という打診が。確かにそれなら内容としてはしっくりきます。しかし、その時点から2週間で入稿せねばならないことを意味しており、締め切りは大幅短縮になります。即諾はしかねたため、一旦保留になりました。ただ、諸々の調整がつき入稿の目処がたったところで、天皇賞当日・10月27日の掲載を目指して動くことが改めて決定。天皇賞(秋)をクライマックスにするというコラムの方向性も確定しました。
3.執筆
プロットが固まってから執筆中盤まではスムーズにいきました。難航したのが最後の締めです。「新時代の扉」をキーワードにしたは良いものの、「覇王世代からの世代交代」のみでは締め方として限定的すぎる。ならば「二刀流」の先駆者という意味での「新時代」ならどうか、と考えていたのですが、その場合、本当にアグネスデジタルは「新時代の扉」をこじ開けたと言えるのか、という点に疑問符が浮かんだのです。
元々はヴィクトワールピサやパンサラッサなどの「二刀流」の名馬を紹介し、その先駆者としてアグネスデジタルの功績を称えるような締め方でした。しかし、考えてみると「二刀流」と称された馬は数多いですが、デジタルのようなオールラウンダーはいないように感じられました。デジタルの戦績を追っていると、その凄まじいローテーションは「先駆者」というよりも「空前絶後」という言葉が似合います。「ヒーロー列伝」にも「空前の軌跡」という一節がありますしね。ならば、その「扉」は「二刀流」ではない。ここで袋小路に入りました。
突破口になったのは、袋小路に導いた「ヒーロー列伝」の一節。「空前の軌跡」は別に「二刀流」だけを指しているわけではないよな、という発想が出てきたのです。
現代競馬においては、馬の適性を見ながら中央・地方・海外と、あらゆる可能性を考慮してレース選択を行うことが当たり前になってきました。地方競馬の交流重賞をステップに海外GⅠへ、というローテーションも珍しくありません。また、こうしたレース選択の結果、今までの常識を覆すような名馬が数多く生まれてきました。これを「新時代」の在り方だとするならば、アグネスデジタルは「新時代の扉」をこじ開けた者と言えるのではないか。そう考えました。無理に「二刀流」でくくるよりも良いまとめ方になったのでは、と思っています。
結果としてまた長文の記事になってしまいました…。入稿後、ほぼ修正なくOKを出してくださった緒方代表に改めて感謝です。