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『アイドルホース列伝 超』執筆裏話② ゴールドアリュール編



はじめに

 今回は、小川隆行・ウマフリ『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社、2024)において私が担当した競走馬列伝の中から、ゴールドアリュール列伝(192-193頁)執筆の裏話をお届けします。

1.執筆まで

 担当候補馬リストを送っていただいた際、執筆希望の一頭に入れていたゴールドアリュール。ただ、私がダート競馬を本格的に観始めたのは2010年代に入ってからのこと。産駒であるコパノリッキーやゴールドドリームは応援していた馬ですが、ゴールドアリュールの現役時代をリアルタイムで追いかけていた訳ではありませんでした。

 そういう意味でも「他の方が担当されるだろうな」と思っていたので、ご依頼をいただいた時は少し驚きました。しかも私の担当する中では唯一2頁の紙幅が与えられるとのこと。気合を入れてプロット作成にかかりました。

2.プロット作成

 しかし、このプロットが難産でした。今回、編集からは「ダイジェスト的な内容にせず、特定の時期やレースにフォーカスするような方向性で」というオーダーがありました。本書は156頭もの競走馬を取り上げる大ボリュームの一冊。各列伝が短いながらも心に残るようなものにするためには、その馬のドラマが伝わるようなハイライトに絞った内容が良い、ということでしょう。

 ただ、ゴールドアリュールの場合はそのオーダーがかえって枷になりました。「ゴールドアリュールのハイライトってどの時期?」というのを絞りきれなかったからです。一番知られているのは種牡馬としての活躍だと思いますが、それでは産駒の活躍ばかりがフォーカスされ、本馬の「列伝」にならない。7馬身差つけたジャパンダートダービーも印象的ですが、着差ならダービーグランプリの方が上。東京大賞典も捨てがたく、日本ダービー5着健闘にも触れたい…となると、もう決めきれません。

 ここで、ふと思い出したのが、ブレイブスマッシュの時に考えた、「アイドル=偶像」としての性格が付されるのは何故か、という疑問。これを考えた時に、ゴールドアリュールの場合は「底知れなさ」ではないか、と思い至りました。日本ダービーでシンボリクリスエスのコンマ1秒差という競馬をしておきながら、ダートダービーをぶっ千切って勝ち、そのまま東京大賞典を制覇。世界戦は戦争の影響で断念し、故障引退でリベンジの機会も与えられず。しかしダート種牡馬として大成功、芝GⅠ馬まで出してしまう…。馬生全体から漂う、「底を見せていない」感。これこそが、ゴールドアリュールが「偶像」とされる根拠なのではないか。

 そう考えて、『ウマフリ』の緒方きしん代表に連絡し、ゴールドアリュールの競走生活と種牡馬実績全体を俯瞰する内容で良いか確認しました。緒方代表と「ゴールドアリュールの凄さは馬生全体を通して見たほうが伝わる」という認識を共有できたため、その点を踏まえたプロットの作成を行いました。 

3.執筆

 プロットが仕上がり、執筆に入ると順調に書くことはできていました。しかし、テーマ性がイマイチ出ないように感じ、納得のいく仕上がりにはならず。「底知れなさ」という言語化し難いものをテーマにするのは、2頁という紙幅では難しいと思うようになりました。そこで筆が止まってしまっていたのですが、仕上げのヒントになったのが、同時並行で執筆を進めていた『ウマフリ』のコパノリッキーのコラムでした。

 こちらのコラムでは、最後の締めを「ダービー」にしました。テーオーパスワードがケンタッキーダービーで5着、シンメデージーが東京ダービーで4着と、2024年はコパノリッキー産駒がダービーで活躍。その点を取り上げようと思ったのです。ここで思い出したのが、ゴールドアリュールの父サンデーサイレンスがケンタッキーダービーを勝っていること。ゴールドアリュールもジャパンダートダービーを勝っていますから、この血筋を縦軸に出来ないか、という着想を得ました。米国のダートチャンピオンであるサンデーサイレンス産駒の中で唯一ダートGⅠを勝っているゴールドアリュールを「後継馬」ととらえ、「血の優秀さ」という点を強調してみよう、と考えたのです。

 この「後継馬」という視点を入れたことで、「底知れなさ」を強調していた草稿よりも、分かりやすい列伝になったように思います。路線変更を繰り返した原稿になりましたが、入稿後に編集からの大規模な修正はなかったのでホッとしました。難産でしたが、個人的には力を尽くせた列伝です。

 次回、デアリングハート編に続きます。



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