『アイドルホース列伝 超』執筆裏話① ブレイブスマッシュ編
はじめに
今回は、小川隆行・ウマフリ『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社、2024年)において私が担当した競走馬列伝の中から、ブレイブスマッシュ列伝(153頁)執筆の裏話をお届けします。
1.執筆まで
『アイドルホース列伝 超』にライターとして参加するお誘いがあった際に候補馬リストを送っていただいたのですが、第一希望で執筆を申し出たのがブレイブスマッシュでした。
私は1993年9月の生まれなので、トウカイテイオーの「奇跡の復活」は生後3ヶ月。勿論テイオーの現役時代は知りません。しかし私に競馬を教えてくれた父は、常々「一番強い馬はトウカイテイオー」と言い続けていた人でした。そのため、私自身もテイオーの血を引く馬には何となく注目することが多かったです。そんな中で、サウジアラビアロイヤルカップの馬柱に「トウカイテイオー」の文字を見つけたのがブレイブスマッシュとの出会い。快勝したそのレースを観た後、引退まで思い入れを持って応援していました。
個人的に2016年クラシック世代は好きな馬が多く、これまでも『ウマフリ』さんでサトノダイヤモンドとシュウジのコラムを書いてきました。今回の候補馬リストにブレイブスマッシュの名前を見つけた時は、「やっとこの馬について書く機会が来た」という思いでした。
2.プロット作成
とは言え与えられた紙幅は1ページ。「何を書くか」よりも「何を書かないか」が重要になります。要素の取捨選択に際して手がかりにしたのは『アイドルホース列伝』という書籍のタイトルでした。
「ブレイブスマッシュ」という馬に「アイドル=偶像」としての性格が付されるのは何故か、と考えるならば、やはりそれは「血統」でしょう。私のようにシンボリルドルフとトウカイテイオーの血を継いでいる、というところに浪漫を感じてファンになった方は多いはず。現役馬で言えば本書にも列伝が収録されているレーベンスティールが「母父トウカイテイオー」という血統に注目されています。また、ベラジオオペラなどを所有する林田祥来オーナーがトウカイテイオーの後継種牡馬であるクワイトファインの産駒を落札したことは大きなニュースになりました。「皇帝・帝王の血」というのは「偶像」の大きな構成要素となり得る。したがって、この点に言及することはすぐに決まりました。
しかし、それだけでは生まれを語るだけで良くなり、「列伝」の体をなしません。そこで1レースを特に取り上げることにしました。オーストラリア移籍後に大活躍した馬ですが、私が選んだのは、この馬と出会ったサウジアラビアRC。ブレイブスマッシュが勝った当時は国際格付けも与えられていないレースでしたが、その後の勝ち馬を見るとグランアレグリアやサリオス、ステラヴェローチェといった活躍馬の名前が並びます。そこで「出世レースの覇者」という点を強調すればアクセントにならないだろうか、というアイデアが浮かび、プロットが完成しました。
3.執筆
プロット完成後はほぼ止まることなく書けました。オーストラリア移籍後の活躍をダイジェストにするという構成がどうかな、とは思ったものの、編集でのチェックもその点は指摘されず、むしろサウジアラビアRCの説明をもう少し手厚くしてほしいというオーダーが来たくらいでした。
担当した4頭の中で最初に執筆に着手した列伝でしたが、一番すんなり完成までいったように思います。
次回、ゴールドアリュール編に続きます。