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【極超短編小説】 指差し確認

 待ち合わせのコンビニには15分前に到着した。
 缶コーヒーを買う。コンビニの表に移動。缶コーヒーは除菌ウエットティッシュで念入りに拭き上げて開缶。待ち合わせ時刻まで平穏な時に浸る。


  出かける前に、窓の戸締りの指差し確認、ガスの元栓の指差し確認、水道の蛇口の指差し確認、部屋の照明の指差し確認、玄関ドアにカギをかけて指差し確認して、さらにドアノブをひねって3回引っ張り施錠を確認。そして右足から踏み出した。



 電車に乗ると、なるべく人の少ない場所を探す。座席には座らない。つり革は掴まない。下車駅の二つ前で扉付近に移動。
 電車を降りて時間を確認。このコンビニまでは時間を確認しながら歩調を調整。大過なく到着した。
 今日、ここまでは、不安なく順調だ。

 人の気配にふと横を振り向くとひとりの女性が煙草に火を点けている。
 ここはコンビニ前の喫煙所だったな。
 彼女はコンビニで買ったであろう缶コーヒーを拭きもしないで、そのまま開けて口へ持っていく。
 羨ましい。あんな風になれたら、と思う。
 充分に自覚しているのだ。自分の行動の過剰さ、無意味さ、不合理さを。
 儀式と化したそれを止められない。


 ぼくの視線に気づいたのか、彼女はこちらを振り向いた。
 彼女は煙草の煙を吐きながら
 「何か?」
 「いえ、何でもないです‥‥。ただ、缶コーヒーそのまま‥‥大丈夫かなて」
 「これ、あなたにあげる」
 彼女は吸っていた煙草をこちらへ突き出した。
 ぼくは思わず指でつまんで受け取った。表面にラッキーストライクとある。
 「あなた、そういう人よ」
 彼女は缶コーヒーを飲みながら立ち去って行った。
 ぼくはラッキーストライクを指に挟んで、口の近くに持っていく。
 「さて、どうしたものか」
 

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