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【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る⑬

 汗ばんで目が覚めた。
 ン、ンーっと伸びをしたとき、突然目に飛び込んできたのは天井を横切る一筋の白線。眩しいほど白く、天井にスパッと入った切れ込みを思わせた。それはカーテンの隙間から差し込んだ真夏の光だった。
 ギギっとベッドが軋んだ。僕の脚にキュキュと彼女の脚が絡みつく。隣で枕に顔を半分埋めた彼女は、少し上目遣いで僕を見つめている。その瞳の中には僕が映っていた。
 彼女は『あなたを愛してもいいなら……』と、あの星空の下で言った。そのときの彼女の瞳の中には光が映っていた。今はあの光はなくなって、僕がいた。
 「今日は何か予定ある?」
 彼女の言葉で僕はハッと夏の朝に引き戻された。
 「いや、特に何もないよ」
 「それなら、一緒に出かけない? お祭り」


 「神社はそっちじゃないよ」
 少し早足で僕の先を行く彼女に呼びかける。
 「いいの。早く来て」
 彼女は僕の手をグイッと引っ張った。
 そうして彼女に連れて行かれたのは、浴衣のレンタルショップだった。

 「僕が着物なんか着ると、なんだか学芸会みたいじゃないかい?」
 僕は気恥ずかしさから、少しおどけるように腕を広げて、袖をヒラヒラさせる。
 「そんなことない。よく似合ってるわ」
 そう言う彼女の浴衣姿は、浴衣に着られた僕と違って隙がないほど様になっていた。ただ彼女の浴衣に染められた青い大きな朝顔が、僕をジッと見つめている気がして、なぜだか思わず目を逸らした。


(つづく)

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