【極超短編小説】お帰り
夜の中で発車のベルや響くアナウンス、警笛がひどく煩わしい。
駅のホームは閑散として、あいつを見つけるのは容易かった。
よくあるシチュエーションなんだろうな。
僕はことさら、冷めた面持ちを繕おうとした。
「じゃあな」
あいつは微笑もうとしながら言った。
僕はがんばれよ、とは言えなかった。
「がんばるよ」
あいつは最後まで気を遣ってくれた。
軽く手を振り、列車が見えなくなるまで佇んでいた。
あいつとのすべての思い出が一気に膨れ上がり、空の闇へ溶けていきそうだった。
彼女に電話をした。僕はあいつとの出会いからをずっと話し続けた。歩きながら、電車を乗り継ぎながら、ずっと話し続けた。時折聞こえる彼女の相槌を追いかけた。
「うん、うん‥‥」
僕の部屋のドアにもたれかかり、スマホを耳に着けた彼女がいた。
「お帰り」
彼女はラッキーストライクに火を点ける
「ただいま‥‥。がんばるよ‥‥」