見出し画像

【極超短編小説】全開

 ボクは医師であり弁護士だ。ついでにTOEICは900点。
 幼い頃からずっと勉強やスポーツ、あらゆる分野で群を抜いていた。
 親、友人、教師などなど、周りの人間はことごとく褒め称えた。
 素晴らしい!さすが!最高!すごい!
 ボク自身特に努力した記憶はないのだが。

 性格も悪くはないだろう。友人も多いし、しばしば悩み相談も受ける。
 容姿については自分では人並みと思う。だが周りの人たちは羨ましいと言う。たしかに、街を歩けばいつも女性が振り返る。
 

 そんなボクには常々思うことがある。
 罵倒されてみたい。誹謗されてみたい。
 馬鹿にされたい、蔑まれたい、侮辱されたい。
 その手の趣味があるわけではない。
 それは、いったいどんなことなのだろう?まったく経験のないことに興味が高まる。


 

 つい今しがた、雑踏で突然、男性が倒れ、たまたま居合わせたボクは救急処置を施し、駆け付けた救急隊員に引き継いだ。その後、周りからは賞賛の声。いつもと同じ。うんざりだ。あぁ、罵られたい。


 救急車を見送り、賛辞の言葉の中立ち去ろうと歩き出すと、サングラスのの女性が近づいて来る。あぁ、またか。
 彼女はラッキーストライクを指に挟んでボクのすぐ横に来ると耳元で
 「あなた、そういう人よ」
 「折角で申し訳ないが、ボクにはフィアンセが‥‥」
 「ズボンのチャックが全開よ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?