【極超短編小説】地縛霊(自称)
ボクは地縛霊。
ずいぶんと昔、ここで‥‥。
それ以来このビルの壁にもたれ、ここにずーっと居る。
どこにも行けず、ただ街の様子を眺めていた。
ごく稀にボクに気づく人がいた。そんな時はうれしい気分になったけど、ほとんどの人は目をそらして足早に去って行った。
最近、このビルの前に喫煙所が出来上がった。ビルの壁を背にしたボクのすぐ目の前に仕切りの衝立が設置されたのだ。
ボクはビルの壁と衝立の間のわずかな隙間に立ち続けることになってしまった。見えるのは目の前の衝立だけ。ここから動けない。
もう誰もボクに気づかない。
ビルの壁にもたれて、衝立だけを見ている日々が続いていた。
ある日、ポトッと足元で音がした。
衝立の下の隙間からこちら側に、煙草の箱が転がってきた。ラッキーストライクだ。
思わず手を伸ばそうとすると、仕切りの下の隙間から、にゅっと白い女の手がラッキーストライクを追いかけてきた。
右や左に手を這わせながら彼女は
「誰かそこにいるなら、お願い」
ボクはつま先で彼女の手の方へラッキーストライクを押しやる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
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