【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る⑨
眩しくて目覚めた。視界は霞んでぼんやりしている。宿酔い。記憶は断片的。昨夜のライブの打ち上げで飲みすぎてしまった。
石を詰め込まれたように頭は重い。思考は虚ろだけど、昨夜のことを自然と思い出して、ニンマリとしてしまう。楽しかった、面白かった、今までで最高のパーティーだった。ウィスキーボトルのラッパ飲みを初めて見た。さも当たり前のように、平気な顔でそれをやっていたのは彼女だった。
「おはよう」
知ってる声。その声を聞いて僕はたまらなく嬉しかった。彼女の声だ。
「おはよう。君は大丈夫なの?」
僕はズキズキする頭でベッドの縁に腰掛け、苦労して笑顔を作る。
「大丈夫?」
彼女は僕の横に座ってキョトンとしている。
「僕はまだアルコールが残っているよ。宿酔いだ。君もかなり飲んでいただろ?」
昨夜の記憶は……最後に全員で乾杯して……ウィスキーのボトルを片手にタバコをふかしている彼女の姿がカッコよかった。
「少しセーブしてたから、もうアルコールは残ってないわ」
そう言って微笑んだ彼女の笑顔に、僕は落ち着かなさを感じた。なんだろう?
彼女の顔をじっくりと見た。彼女は少し顔を赤らめて俯く。
「あ!」
僕は思わず声を出したが、その先の言葉を飲み込む。彼女が化粧を落としている。初めてノーメイクの彼女を見た。そしてその整った顔立ちに、あらためて気づいた。
「何? 『あ』って」
彼女は少しむくれた表情を僕に見せた。
「何でもないよ。本当に」
「昨日の夜は、重かったんだからね。感謝してね」
彼女はやはりむくれた表情だが、冗談めかして言った。
「あっ! 君が僕を背負って部屋まで運んでくれた?」
昨夜の記憶がまた蘇った。ライブハウスを出る時、誰かの肩を借りて……歩きながら鉄塔のオレンジの灯りが目に入って……この部屋に入る時、誰かに背負われて……。
「そういうこと」
彼女は笑った。
「ごめん」
僕は謝罪のつもりで頭を下げた。頭がズキズキした。
「ねえ」
「ん?」
「わたし、ここに越してきてもいい?」
彼女のその言葉に、僕は奇妙な違和感を感じた。
(つづく)