【極超短編小説】納豆に手を伸ばしたときに始まった話の結末はボクに委ねられているのかな?①
「スーパーでの話なんだけど、納豆を買おうと棚に手を伸ばしたときに‥‥」
話を聞いてくれ、すぐ来てくれ、と電話でボクを『東』にあるファミレスに呼び出したのは、『東』のホームセンターのトイレで知り合って、今ではすっかり打ち解けて友人となった彼だ。
「納豆?」
「そこは食いつくところじゃないから」
「わかりました。話の続きをお願いします」
「‥‥手を伸ばしたときに、それが最後の一つだったんだけど、同じ納豆に手を伸ばした人がいたんだ」
「まぁ、ありそうな話だね」
「で、その人というのが、女の人だったわけだ」
「まぁ、たまたま女性だったんだ」
「しかしだ、その彼女がスゲーぼくの好みのタイプなわけ。ハンパなく。一目惚れというやつ」
「まぁ、あるあるだよね。で、声をかけたのかい?その彼女に」
「いや、うん‥‥」
「どっちなの?」
「どうぞ、て言って手を引っ込めたら向こうも『どうぞ』って手を引っ込めて言うんだ。で、お互いに譲り合っていたら彼女とぼくの間から知らないオバサンがその最後の納豆を持っていっちゃたんだ。それでなんだか気まずくなって、『どうも』って頭を下げて別れたんだ」
「なにそれ?、ただの少し面白い話?」
「でもさ、続きがあるんだ」
「なに、どんな?」
「聞きたい?」
「呼び出したのは、オタクじゃない」
ボクたちはお互いを呼ぶとき、なぜか『オタク』と言う。
「すみません。聞いてもらえますか?」
「どうぞ、聞きましょうとも」
期待薄だったけど、そう応えたときスマホに着信があった。
(つづく)