9カ月の壁を超えたら10カ月の落とし穴が待っていた。
今日は9月の最終日。ようやく落とし穴だらけの10カ月目が終わるんだ! なんとかどうにか落ちずに済んだ。あぁ、、。
何の話かって? はい、禁煙のお話です(笑)
昨年11月6日に脳梗塞を発症し、医師からきつく言われて禁煙を始めたのが12月。なぜ1カ月も遅れたかというと、私としてはすでに1日4本程度まで節煙していたので、この程度なら吸っててもいいかなぁと、退院後もまだ吸い続けていた。
その月の月末に、退院後最初の外来受診があり、MRIの画像を見ながら病状の詳しい説明を受けた。
「脳梗塞の原因は結局なんでしょう?」
「一概には言えませんが、やはり糖尿病もありますからねぇ。タバコはもう辞めたんですよね?」
そう聞かれて、思わずアハハと笑ってしまった。笑ってごまかそう作戦だ。医師の視線がいきなり鋭くなった。
「また、吸ったんですか?」
「退院直後は吸わなかったんですけど。でも、吸っても1日4本程度で、、」
あははと笑いかけるといきなり怒られた。
「1本でも吸ったら同じです。すぐに辞めてください。今回はたまたま軽症で済んだんです。私たちは一度でもっと重症になるケースを日々、山のように見てきています。命の危険もあるんですよ。とにかく今すぐ辞めることをお勧めしますね」
大人になって、こんなに真正面から叱られたのは初めてだ。もう笑って誤魔化すわけにはいかなかった。私はおとなしく頷いた。
医師の本気が伝わってきた。と、同時に入院直後の同部屋の人たちの姿が思い浮かんだ。寝たきりか、起きても無反応だった同部屋の方々。隣の部屋から聞こえてきた家族らしき人の慟哭。そこに、医師の言葉が追い打ちをかけた。
「また、吸ったんですか」
心底驚いていた。信じられない、わけがわからないという声だった。
さすがに禁煙を決めたが、まだ、何本か残っている。せめてこれだけ吸い終えてからと勝手に思って12月に入ってから禁煙が始まった。ひとりでは自信がなくて、禁煙外来に通うことにした。
ところが、なぜか数年前には画期的な禁煙薬として使われていたチャンピックスがなくなっていて、使えるのはニコチンパットだけだという。すでに1日4本しか吸っていないわたしは,ニコチンパッドなんか貼ったらかえって体内のニコチンを増やしてしまうことになるので、薬なし、カウンセリングのみの禁煙外来になった。
それしか吸っていないのに、それでも禁煙できないなんて、吸っていない人には信じられないかもしれない。もちろん1人でスパッと辞める人もいる。けれども,わたしは辞められる自信が全くなかった。
実はわたしはすでに2回、禁煙外来に通い、順調に禁煙を達成していたのだった。1型糖尿病になったのを契機に、チャンピックスを使って、ほぼノーストレスで3カ月ほどで禁煙は完了した。
毎回、若い看護師さんに吸わずにいることを褒めてもらい、出かけるたびに喫煙所を探さなくてもいい解放感にひたった。
部屋も臭くなくなった。タバコを吸っている人が近くにいると、すぐにわかるようになった。自分はこんなに臭かったのか。吸わない友人たちは、よく我慢してくれていたな。と、感謝すらしていた。
ところが。
禁煙9カ月目になると、突然、吸いたくて吸いたくてたまらなくなった。ドラマや映画で喫煙シーンが出てくると、あぁ、いいなぁと思ってしまう。おいしいだろうなぁ。吸いたい。吸ってすっきりしたい。身は臭くとも、心も脳もスッキリ爽快になるはずだ。食事のあとなら、胃だって腸だってスッキリだ。
あぁ、吸いたい。1本くらいなら、大丈夫じゃないかなぁ、ああ、、、、、。
てな具合で、吸っている友人から1本もらったりしているうちに、自分でもまた買ってしまっていた。この1箱が終わったらもう一回禁煙なんて思っているのは最初だけで、結局、そのまま吸い続ける。1本でも吸ったら終わりだと、禁煙外来でさんざん教わってきたとおりになっていた。
その挫折をなんと2回も繰り返している。
どちらも9カ月目の体たらくだ。9カ月目になると、そそり立つ壁が突如現れ、わたしのゆくてに立ちはだかった。
ただ、今回は私よりずっと若い医師の叱責のトーンと同室同病の人たちの姿が目に浮かんで、何とかどうにか9カ月の壁をさほど強くも感じずに乗り越えた。申し訳ないけれど、あぁはなりたくないという思いは大きな力になった。
やったぜ、わたし!! ついに9カ月の壁を突破したんだ!
そう思ったのもつかの間、10カ月に入った途端に、とんでもなく吸いたい。あらゆる状況で吸いたい。食後のたびに吸いたい。仕事の合間にも吸いたい。あぁ、今、吸ったら、このどうにもならない眠気がスッキリ解消するはずなのに。脳が覚醒して、いいアイデアが浮かぶのにな。
そんなことばかり浮かんでくる。
大変だった。壁どころじゃなかった。思わぬ落とし穴があちこちに転がっていた。油断をすると落ちそうだ。
その10カ月がようやく終わる。
ここ数日は思い出さないから、きっと11カ月目にはすっかり忘れられるはずと思いたい。
依存症おそるべし。
こんなことになるなんて、吸い始めたときはこれっぽっちも思わなかった。
たぶん一生、折に触れて、この禁断症状はやってくる。そのたびにまた戦いの日々だろう。
勝利はいずこ。でも、今度ばかりは頑張るぞ!
10月2日追記
昨夜、録画しておいた映画『Perfect Days』を観た。カンヌで役所広司さんが最優秀主演賞を獲り、アカデミー賞にもノミネートされた名作だ。
素敵な映画だった。とても懐かしい気持ちにもなれた。せつなくて美しい。
最後のほうで、役所さんと三浦友和さんがタバコを吸うシーンが出てくる。チェリーだっけな。ピースか?
昭和のおじさんたちが吸っていた強いタバコだ。何十年かぶりに吸ったのだろう。役所さんが盛大にむせ、貰いタバコをする三浦さんも盛大にむせる。
ちょっと笑った。わたしもああなるかなと思ったら、ちょっと嬉しくなった。
これで充分。もう吸わない。