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杉木立

森の北の端に行ってみました。
雪面は固まった雪の上に新雪が覆いかぶさって、かんじきの足はくるぶし辺りまでしか沈みません。
小降りの雪が続いていて、ジャケットが少し濡れました。
葉を落とし冬芽を膨らませる樹々の間を抜けていきます。
森の東から北に向かって流れる沢の水音が微かに聞こえてきます。
沢に下りる斜面までもう少しのところで杉木立が現れました。
見上げれば深い緑の針葉。
その緑の上に雪の白が疎らに被さっています。
今抜けてきた森とは違った世界がそこにありました。

見上げる杉木立

杉たちの間を歩きます。
天に向かって真っ直ぐ伸びた茶色の幹が、お互いに間隔を取りながら雪面から伸びています。
高い背丈は20メートルを超えているのではないかと思わせます。
その真っ直ぐな幹は枝打ちがされていて、太い柱に見えました。
沢に下りるなだらかな斜面と落葉樹たちの間に、杉たちは長いベルトになって生きています。
この杉たちは自生したのではなくて、誰かが計画的に植えたものと分かりました。

どの杉も天に向かって真っ直ぐに伸びています。
風が吹こうが、雪を被ろうが、上にしか伸びないのだ。
実直というか、一本気な性格。
杉のようなヒトなら厚い信頼を得るかもしれない。
でも、真っ直ぐにしか伸びられないのは哀しい不器用さかもしれない。
そんなヒトに会ったことがあるなあと思いました。

子どものころ、夏に杉林に入ると薬草のような香りがしたような記憶があります。
青々とした針葉に鼻を近づけると、若い緑の香りがしたような記憶です。
何本もの幹に鼻を当てて空気を吸い込みました。
雪面に折れ落ちた枝を手に取って、針葉に鼻を着けてみました。
杉たちからは何の香りもしません。
ぼくの記憶違いか、曖昧さなのか。

沢の音を聞きながら杉の木立の中を進みました。
背丈が10メートルもないような若い杉が並んで数本立っています。
枝打ちされていない幹からは針葉を着けていない枝が何本も出ています。おそらく、若い枝なのでしょう。
その枝たちは幹から伸び出すと途中で天に向かって曲がっています。
弓のような形です。

弓のような枝

たくさん針葉を付けた太い枝たちは地面と平行に伸びるか、先に行くほど地面に向かう傾斜を持っています。
深い緑の針葉よりも、弓の形をした若い枝たちに生気を感じました。

30分は歩いたでしょうか。
沢に架かる橋が見えてきました。
そこで杉木立は終わっています。
振り返ると真っ直ぐに伸びる杉たちが重なり合って何本も見えました。
夏になったらまた来るよ。
香りがするといいな。
ぼくは杉木立を抜け、冬芽を付けて春支度に余念のない樹々たちの世界に戻って行きました。


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