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樹々に手をふれたら

大雪の後、晴天が続きました。
案の定、森の樹々はすっかり雪を落とし陽を浴びています。
かんじきを着けましたが、沈むのは10センチほど。
ザラメのような雪に時々足を取られました。

先週の大雪は樹々を苦しめたようです。
雪面には小さな冬芽を付けた細い枝が何本も散らばっていました。
折れた枝の端はまだ白く、接ぎ木をすれば生き続けるように思えました。

なるべく音を立てずに歩きます。
ザラリ、ザラリと氷の粒になった雪面に力を抜いて足を下ろしました。

すっかり葉を落とした背の高い樹を見上げます。
真上の空は濃い水色で、山の方に向かうほど水色は薄れ白色にぼやけていきます。

堅焼きおかきのような木肌

目の前の樹は太い幹のミズナラ。幹には縦の溝が幾筋も走り、溝と溝との間は堅焼きおかきの表面のように不規則なゴツゴツが連続しています。
両腕を回して幹に抱きつきました。左右の指がやっと重なります。ぼくの身長ほどの胴回りがある樹だと分かりました。
手の平を木肌に当ててみます。
温かい。
陽光を浴び続けていたからでしょうか。乾いた木肌からは温かさが伝わってきます。
ミズナラの木を離れ、つるつるした木肌の樹に近寄りました。
灰色の木肌には小さな白い斑点が浮かんでいます。新しく伸びた細い枝は艶やかな緑色で、その先に卵型の茶色い冬芽が二個光っています。
幹は両手で掴めるくらい。その木肌に手の平を当てて見ました。
温かい。
つるつる滑らかな木肌なのに、幹を包むその樹皮は陽光の恵を蓄え持っていました。

つるつるした木肌

ザラリ、ザラリと歩きながら行く手に現れる樹々の幹をさわります。
温かい。
どの樹も温かい。
遠くから沢の水音だけが届いています。
立ち止まって樹々にさわっていると、森は生きていると思えてなりません。

森の中を回ると樹皮が剥ぎ取られている樹に気づきました。
一本だけではありません。意識して見回せば、樹皮をなくしそれこそ裸になった樹が何本もあります。
樹皮を剥ぎ取られた樹は生きていけないといいます。
樹皮が剥がれ、いわゆる形成層が剥き出しになった幹に手の平を当ててみました。
微かに温かい。
よかった。

幹に緑の苔を宿らせている樹もあります。
ネットのように緑の身体を広げている苔がありました。どこに中心があるのか分かりません。

     ネットのようにへばりついた苔

その周りにはポツン、ポツンと小さな玉のような苔が幹にくっついています。目を近づけて見ると、枝を伸ばし緑の葉をたっぷりつけた丸い大木のように見えました。
苔を散らした幹に手の平を当ててみました。
やっぱり温かかった。

今日は手袋を忘れたのです。
けれども、忘れてよかったと思いながら森を出ました。


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