消えていく記憶
"この先なんか良いことあるよ"
離婚届が受理された翌々日に、両親へ報告した。
良くも悪くも、両親は元嫁のことが大好きだった。
母はヨリを戻すことが出来ないのかと聞いてきけれど、父は僕たちの決断を尊重して何も意見をしてくることはなかった。
僕自身の未熟さと至らない部分が、彼らだけでなく元嫁の両親のメンツを潰したことは充分に理解している。それでも、父は前を向いて歩き続けようと勧めてくれた。
その優しさに、心から感謝しつつ、逆に罪悪感が上乗せされた感もある。
正直なところ、未だに夢を見ているようなキツネにつままれているような心境である。
僕が元妻に沢山迷惑を掛けたのは、紛れもない事実である。
沢山泣かせてしまって、辛い思いをさせてしまった。
それも事実だし、僕自身も今となっては理解している。
この事を棚に上げるつもりはない。
現実逃避をするわけではないけれど、元凶は職場でのストレスとコロナ下の特殊な状況にある。
パンデミックの真っ只中、在宅勤務をさせてくれた職場にはとても感謝している。あんなウィルスが出回っている中、極力外出を避けることが出来たのは本当にラッキーだった。
ただ、そんな特殊な期間でも仕事のストレスはあったし、気が付かない間に蓄積され続けてて上手く発散出来ていなかった。
24時間、毎日同じ空間で過ごしていたというのも、今考えてみれてばお互いにとって健全な状態ではなかったように思える。
離婚の話が始まった際、
”未来なんて、分からない。もしかしたらヨリを戻して再婚する可能性もあるんだよ”
”離婚してもやり取りは出来るようにしたい”
そんな発言を元嫁が発したのを鮮明に覚えている。
僕自身があまりにも無知だったとは思う。
恥ずかしながら、夫婦関係が解消されて友達くらいに戻るのかなと考えていたのかもしれない。
ここ一週間は、LINEでの会話も止まった。
彼女が僕の写っているインスタの投稿を削除し、それを機に僕自身もアカウントを停止してアプリ自体を携帯から削除した。
距離を保つどころか、どんどん遠い存在になって離れていく。
紙切れ1枚を役所に提出しただけで出会う以前の状態に戻り、お互いの記憶が少しずつ残像に変わっていく。
まだ彼女の荷物は残っているし、もう一度くらいは顔を合わせるだろう。
それでも、自分の一部を引きちぎられて、ポッカリ穴が開いたこの感覚。
本当にいつかこの穴は埋まるのだろうか。
HY
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