友人と「BLUE GIANT」を鑑賞

 先日、友人が地元に帰省したので、食事でもどうかと誘った。友人は身内の不幸により東京から福岡に一時的な帰省をしていた。連絡すると、明後日には東京に戻るため明日会おう、ということで約束を取り付けた。
 友人は某有名カードゲームのプレイヤーであり、仕事をしながらカードの国内外の大会に出場している。SNSで大会の様子を発信していて、海外の街並みや風土も垣間見られてとても興味ぶかい。
 そんな友人と私は中学生の塾で初めて会った。しかしそのときは別段親しいわけではなく、顔を知っている程度であった。
 高校に入学すると、同じ学校で同じクラスになった。多少でも知っている顔があると安心するからか、そのときからよく話すようになり、親しくなった。
 お互いに趣味が合ったか、と言えばそういうわけでもなく、それでも互いの趣味を否定することもない。互いが持ち寄る知識や経験の拡がりが面白かったのだ。雑談が尽きることはなかった。
 前述のとおり友人はカードゲームが趣味で、それは中学生のころから一貫していた。大学はそれぞれ全く異なるところに進学したが、友人はそのカードゲームで様々な人と知り合い、今や世界大会に出場するようになっている。
 同じ趣味の人間とともに世界を旅する友人の姿は、私には眩しく映る。他人を羨むことはあまり意味がない、それは分かっているし、友人の背中を追いかけようと思ったことはない。ただ、人生を楽しむ姿勢は見習うべきだ。
 約束の日の夜、安い居酒屋で食事をした。取り留めない会話である。久々に会ったが、お互い気負うこともなく近況を交換する。友人は転職を経て、ゲーム開発に関わる仕事をしているが、順調のようだった。病気もすることなく、体型も昔のままだ。
 会話をしていると、とある映画の話題になった。アニメ映画作品の「BLUE GIANT」である。コミック原作のその映画が、友人のコミュニティで人気らしい。JAZZに魅了された人間たちのドラマという。私は全く知らなかった。そんな映画があるのかと会話を続けていると、友人が「あと15分で映画が始まるが、行ってみようか」という。私たちは急いで会計を済まし、映画館に移動した。大人になったところで学生時代の友人と会えば、ノリと勢いが人生を充実させる、ということを思い出すものである。
 映画が上映される会場は、映画館の中では小さいほうだと思う。客も疎らではあるが、年齢は我々と同じか上の方たち。ギリギリでチケットを買ったが、良い席に座ることができた。
 映画の内容は、JAZZに魅了された田舎の少年が、ひとりで楽器の練習に打ち込み、高校卒業とともに上京。バンドメンバーと出会い、様々な苦労を経て初めてのライブを開催。当然客などいないが、あれこれと頑張り知名度を上げ、技術も高まり、どんどん成長していく。やがて憧れの舞台に立つ機会に恵まれるが、バンドが大きな危機にさらされる。そしてそれすらも乗り越えて前に進む。そういった話である。
 物語の展開は王道そのもの。ひたすら前進していく主人公。そんな主人公がであった秀才のピアニスト。日常に物足りなさを感じていた友人の初心者ドラマー。バンドの成長を見つめてくれる客。話題性に集まってくる音楽関係者。
 言葉にすると非常にありきたりで、使い古された記号たちである。
 しかし実際に劇場で、キャラクタたちが悪戦苦闘する様を見て、激しくも楽しげな音楽を聴き、一つの物語の結末を見届けると、大きな感動が得られる。丁寧に作られた物語構成で進む王道展開のシナリオは、初見の私にとってとても見やすく、余計な考えをせずに楽しむことができた。王道展開とは先が読める分、精神的なストレスが少ない点が魅力である。余裕のある脳に叩きつけられるJAZZが心地よく響く。
 映画は非常に面白く、音響設備にこだわった映画館であるならより一層たのしめる作品であると思う。時間がある人は一見の価値がある。
 高校生活を楽器に捧げ、世界に飛び立っていった物語の主人公。この姿が、映画を一緒に鑑賞した友人の姿に重なってみえた。夢に向かって走っている姿はやはり素敵だ。素直に尊敬できるし応援していきたい。
 基本的に怠惰である私は、そんな眩い輝きを放つ友人の人生について本当に素晴らしいと思うが、同じ道を歩めるとは思えず、嫉妬心などは沸かない。ただ、いつかまた、酒を飲みながら旅の話を聞かせてほしい。飲み代ぐらいは出すからさ。


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