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奇跡の少女

「肉の種類が若干増えたのかな?でも惣菜系と揚げ物系は弱いな」
新しくオープンした近所のスーパーへ視察を兼ねて行き、人波をひたすらにかき分けながら食品を見ていた。
「あれ、ここら辺にこんなに上品な人住んでたっけ?」
チラシ広告を見てきっと少し離れた地域に住んでる方も来たのだろう。私は普段品質よりも値段を重視してスーパーを選んでいるので、周りもそれ相応の客層しかいなかった。だが新しくオープンしたスーパーには普段交わらないような層が一堂に会していて、なんだか面白かった。

「鶏もも100g50円?安いな!」
開店セールでかなり破格の値段になっていた。普段は鶏胸しか食べないのだが、気分転換をしたい時に鶏ももを食べている。興味ないだろうが、私は傍から見たらきっと変人かのように見える程、健康に対して人一倍気を遣っている自信がある。そんな自分も嫌いじゃなく、むしろ好きだ
「これ並ぶのか、、冷凍してあるのがまだあるし、、いいや」
レジを待つ長蛇の列を見てやられてしまい、そっと鶏ももを戻した。そして人混みに疲れたのか、気付いたら何も買わずに外に出ていた。



「ああ~鬱陶しいな、、ほんとどこから湧いてんだよ、、」

例年よりも今年はコバエの数が多い気がする。普段から水回りの掃除生ごみの密閉処理を徹底しているので、暑くなってもそこまで湧かないのだが今年は多い。無職である今は、おうち時間がほとんどなのでまずいと思い近くのドラッグストアで、コバエホイホイとワンプッシュするだけでいなくなるスプレーを高いなと思いながらも購入し早速使ったのだが変わらず。コバエホイホイに関しては設置してから数日経った今でさえ1匹も入っていない。わざわざ事前に殺したコバエを凝視して、ネットで種類を調べコバエホイホイが効く対象と分かって購入したのに。 コバエホイホイに引っかかっているか確認している時も
「そんなトラップで騙せるとでも思ったか?おーい捕まえてみっ」
そう嘲笑うかのように私の周りをコバエが飛ぶ。

「もうやるしかないか、、、面倒だけど、、」
唯一気になっていて掃除してなかったのがエアコン。やるとしたらかなり大掛かりになるので、しようと思いつつもしていなかった。だが流石にコバエと一緒に生活するのは無理なので、諦めてネットで調べ掃除をした。その結果、コバエはかなり気にならなくなった気がする、、、してたのだが、、、さっきパソコンの液晶画面にコバエが飛んできた。今年の戦いは長くなりそうだ、、、



最寄りの駅に入っているデパートへ特に目的は無いが行った、部屋着で。以前からスーパーやイオン辺りであれば全然気にせず部屋着で行っていたが、流石にデパートクラスはちゃんとした私服を着て向かっていた。ただ最近は別に一人だしそんな気にする必要無いなと思うようになり、平気でジャージなどで行くようになった。果たして良い事なのか悪い事なのかは分からないが。でも明らかに実感しているのは、服選びに悩む必要が無い為イオンやスーパーに行く感覚でデパートへ行けるようにはなった。
「デパートでウインドウショッピングでもしようかな?でも何着てこう、髪もセットしてないし、、うーん面倒くさい、いいや」
こういうのが無くなった。

デパートに着いてまずユニクロへ向かった。コスパが良いのは勿論、店員さんがあまり声をかけてこない、絶対忙しいのにそれを態度に出さず元気溌剌に取り組んでいる店員さんを見て活力を貰える為、ユニクロにはよく行く。
「このお客さん気付いてないな、こっちに寄ってあげよ」
服に注意が向いてしまい私の存在に気付かず歩いている人もいて、どちらかが気付くか気を遣わないと当たってしまう。賑わっている服屋あるあるだ。私はそれを事前に感じ取っては進路を変更したり、手前で止まったりして衝突を回避する。相手はその際も服を見ているので、きっと私が回避させた事すら気付いていないだろう。でもそれでいい。小さな社会貢献をした気になれて気持ちいいから。ユニクロでは結局何も買わなかった。その後は本屋、紳士服売り場、デパ地下の惣菜コーナーを軽く見て家に向かった。



「んっ? 今通り過ぎた女の子って桃花?」

それは一瞬だった。家に向かって歩いている途中に高校時代からの友達でここ数年は疎遠にしてた「桃花」によく似た子が目の前を通り過ぎた気がした。
「連絡したいけど彼氏さんもいるし、久しく連絡を取っていなかった異性にいい大人が急に連絡するのもなんかあれだしな、、、俺から連絡はしにくいし桃花から連絡してくれたりしないかな、、しないよね、、」
そんな思いがラインのメッセージの打ち込みを邪魔する。でも最後に話した時はかなり仕事で疲弊していたし元気にしているかも心配だった。葛藤した結果、私は勇気を振り絞ってラインでメッセージを送った。
「さっき、○○の坂を自転車で下ってた?」
ただそう送った数分後、あの坂を桃花は使わないはずと思い
「いや、あの坂は通らないか。人違いだったみたい」
と追送し、数時間後に既読が付き返信は来なかった。
「まあもう完結してるし、彼氏もいるし返信する必要無いよね、、」
そう思っていた夜10時頃だった。ワイヤレスイヤホンで音楽を聴きながら食器を洗っていた時、音楽が急に着信音に変わった。携帯を見ると、桃花からだった。

「うちも見て連絡しようと思ったんだけど、彼氏に泰章のライン消されちゃってて自分から連絡出来なかったんだよね。でも泰章からライン来たから再登録して」
「そうだったのね。あの坂通るんだ」
「うんうん、坂じゃなくて病院の近く、19時半頃。半袖半パンの」
「時間も格好も当たってるわ、、」
「間違いなく泰章だったよ」
「えっ、、じゃあ坂で見た女の子は桃花じゃなかったの?」
「坂なんて通って無いよ」

私は坂で桃花を見かけたと思ったが、それは実際桃花ではなく別人であった。だが驚く事に、同日に桃花は本当に私を別の場所で見かけていて、連絡しようとしたものの彼氏に私の連絡先を消されていて出来ず。そんな時に別人を見て桃花だと思い込んでる私が、葛藤の末ラインでメッセージを送ったことにより、桃花も再登録出来て無事またやり取りが出来るようになった。つまり、当初は私からだと連絡し辛いのであわよくば桃花から連絡をして欲しいと思っていたが、それはあり得ない事で私から連絡しない限り一生メッセージのやり取りは出来なかったという事だ。また奇跡的に、同じ日にこのような現象が起きていたというのもどこか切っても切れない縁のようなものを感じさせてくれる。あの坂で見たよく似た少女は、私が桃花へと連絡する気持ちを掻き立ててくれた。そして、私と桃花を数年の時を経てまた繋げてくれた、、、まさに奇跡の少女だ。

その後も仕事の話など、久々に桃花と話せた。何より元気そうで安心したし、それが分かっただけで私としては満足だ。


彼氏さんへ
勿論彼氏さんの事は尊重していますし、これからも末永くお幸せにお過ごし頂けたらと思っております。ですが、私にとって桃花は異性の壁を越えた親しき友人です。せめて近況報告くらいはたまにはさせてください。仮に私の連絡先を削除しても、私はまだ桃花の連絡先を持っていますし、奇跡の少女の力を借りることも出来るので、、、あっ、なんでもないです。


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