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東北新幹線こまち劇場? 違います、リアルな出来事です。

「やだ!」、「やっぱり!」、「もう!」
女性の大きな声が新幹線の車内で響いた。

それは秋田に向かう東北新幹線の「こまち号」で起きた。

平成25年頃の大宮駅、自分は東北新幹線ホームで東京駅発の新幹線「こまち」に乗るためにホームに並んでいた。

平日なので10番目くらいに並んでいたが、「こまち」は全席指定席なので到着してドアが開いても慌てずに皆ゆっくりと乗車していった。

そして自分が列車に乗り込んだ時に、車内のデッキの反対のドア付近で恐らく東京から乗っていた男性が割と大きな声で電話をしていた。

それを見た自分は(東京駅から乗車して間もない間に、デッキとは言え大声で電話とは東北新幹線では珍しい人だな)
と何となく気になったが、まず自分の席を目指して車内に進んだ。

その頃の自分は仕事で秋田県にある工場への出張が月に2回を数年間していたので、東北新幹線のゆったりとした雰囲気には慣れていたから、そう思ってのではないかと思う。

たまに東海や関西方面へ出張で行く時に東海道新幹線に乗る時には逆の雰囲気のビジネス感を感じていたので、きっと自然に比較して感じたのだろう。

デッキから車内に入る自動ドアを前の人に続いてゆっくりと入った時に通路で真っすぐに立ったままこちらを見ている一人の女性がいた。

その表情は何か困ったような、そして不安そうだった。

その場所は車内の入口から6列目ぐらいだった。
自分の席は一番手前の端だったので女性が立っている場所までは5席分ぐらい先だった。

(何で座らないで立っているのだろう?)と自分は思ったのと同時に何かが起きている予感がした。

そして、しばらくして新幹線は大宮駅を出発した。

その後、列車は加速し出し、車内の乗客は荷物を棚に置き終わり皆、席に着いているのが普通なのだが、女性は相変わらず不安そうな表情のまま車内の入口のデッキの方を見ていた。

年齢は40代前半ぐらいの感じで、割とスラリとしていて服装も雰囲気も品のいい感じの女性だった。

新幹線が更にスピードを増して時速200km以上の高速になった5分ぐらい経過しても、その女性の状況は変わらなかった。

変わらず困った表情のまま車両後方の入口の自動ドアのほうを見つめて立ちすくんでいた。

しかし、その不思議な状況に気が付いて気にしているのは自分ぐらいの様子だった。

さらに7,8分ぐらい経過した時に自動ドアが開きデッキの方から一人の男が入って来て自分の左横を通り過ぎて行った。

さっきデッキで電話をしていた男だと後ろ姿でもすぐに分かった。

そしてその男はそのまま通路を歩いて進むと通路で立っている女性を見ると不思議そうに首を傾けて少し睨むかのように見ながら、強引ぎみに女性の横を通り抜けて右側の通路側の席に座ろうとした。

(なるほど男の荷物が席に置いてあったから女性が座れなかったんだな)と思った。

(この二人は他人?)、自分は何かが起きている事をほぼ確信に近く察した。

なぜなら平日の午前で秋田に向かう「こまち号」は空いていて乗車率は20%ぐらいの状況なので全席指定席で他人と二人掛けの席で一緒になる事は少ないからだ。

自分もいつものように二人掛けを一人でゆったりと使っていた。

ちなみに「こまち号」はミニ新幹線なので在来線の特急と同じ2席+2席の座席になっている。

この新幹線を利用して、自分は年に10回以上出張していたので、いつもと違う状況・雰囲気を感じ取り、気になって仕方が無かった。

なので悟られないように、さりげなく観察していると、例の男は立ったまま、すぐに席に置いてあったカバンの中を確認し出した。

そして「無い!」、「財布が無い!」と大声で叫んだ。

その様子を通路で立ったまま見ていた女性は「え?」と言ったように聞こえた。

そして次の瞬間男は 女性に向かって「お前財布盗っただろう!?」と大きな声で言い放った。

それを通路で立ったまま聞いた女性は
「やだ!!」

「やっぱり!!!」

「もう~!!!!」

と今度は女性の大きな声が新幹線の車内で響いた

そこまでの二人の状況をしっかりと全部見ていたのは恐らく自分だけだったろう。

それを聞いた周りの乗客は二人の大声で初めて何かが起きている事を知って、皆席から身を乗り出して二人の方を見だした。

男は「お前は絶対に俺の財布を盗った!」、「返せ!」と言い出した。

それを聞いた女性は「盗ってなんかいませんよ ずっと私はここに立っていたんだから盗れる訳が無いでしょ!」と叫ぶように言った。

しばらく、二人の言い合いが続き、女性がすぐ隣の進行方向で反対側に列の年配の夫婦らしき男女に「私、ずっとここに立っていましたよね!?」と聞き出した。

そして、通路側に座っていた年配の女性が「そうそう、この女の人はずっと立っていましたよ」と言ってくれた。

それを聞いた女性は男に向かって「ほら、証人がいるんだから私が盗ってなんかいないのが分かったでしょ!?」と言った。

しかし男はそんなの関係無しに「いや絶対にお前が財布を盗んだはずだ!」と完全に決めつけて言い出した。

それに対して女性は「どうして!?」、「何で!」、「私が盗るなんてありえないでしょ!?」

その時、自分も、そうそうあり得ないと思い、証人として参加しようとした時に、女性が立っている付近の乗客が皆、次々に「この人はずっと、そこに立っていたよ」と言い始めた。

それを聞いた女性は皆に「ありがとうございます!」と礼を言い、少し落ち着いた感じになってきていた。

そして男に向かって「ほら!皆さんもこう言っていますよ!」と堂々と言った。

それでも男は「そんなのは どうでもいい、とにかくカバンの中にあるはずの財布が無いんだからお前が盗ったのは間違いない!」と言い出したのだった。

女性はそれを聞いてかなり頭にきたようで「何でそうなるの!」と叫びだした。

それに対して男は女性を睨みつけるようにした後、車両の後ろの自動ドアを開け出て行ってしまった。

自分のすぐ横を過ぎたのだが、表情はかなりこわばっていた。
たぶん車掌を呼びに行ったのだろうと思った。

男がいない間の車両では女性を囲んで皆が励ましていた。

その様子を見て自分より女性の近くにいる人達が大勢承認になって励ましてくれているのだから大丈夫だなと思い、参加はしないで状況を見守る事にした。

しばらくして、男が車掌を連れて戻ってきた。
そして男が状況を説明して最後に「こいつが犯人だ!」と言い出した。

それに対して女性は「何で!何で!」と言い、周りの人達も「この女の人は絶対に取っていない!」と言い出した。

いくら財布が無くなったからと言って。さすがにこの状況で「犯人」と決めつけたのは酷い。

ここで、自分も証人として参加しようと思ったが、よく考えてみると自分は女性の行動を最初からは見ていない事に気が付いた。

自分が車内に入った時には女性は既に通路の真ん中に立っていたので、肝心の状況は見ていない。

つまり女性が男のカバンに触れていない証言は出来ない。
なので、この言い争いになっている状況に一番後ろの席に座っている自分が参加してもあまり力になれないかなと思った。

しかし、女性の状況が悪くなったら参加しようと決めて動向を しっかりと見る事にした。

言い争っている状況に車掌さんが間に入って、男を女性から遠ざけるように車両の前の方の空いている席の方に連れて行こうとした時、男が女性に言った言葉に驚いた。

「なんで、こんなに空いているのに俺の隣の席に座ろうとしたんだ!?」
それを聞いた女性は「はぁ?」、「なんでって指定席だからでしょ!」と言い返した。

その時自分は(なるほど、この男は全席指定の、こまち号に乗り慣れていないな、自由席だと勘違いして、東京駅から適当に空いていた席にカバンを置き、すぐにデッキで電話して戻って来たら女性が男の席の近くにいたので、何かやったなと思い込んだんだな)と推測した。

そして(盗ったと思い込んでならカバンの中のどこか、普段使わないポケットか物の間に財布はある可能性が高いかも)と思った。

(しかし待てよ、男が仕組んでいる可能性もあるなとも思った)、(あるいは持って来たはずの財布を忘れたのをデッキで電話をしている時に気が付いて困ったと思いながら席に戻ったら女性が席の近くで立っていたので女性が盗んだと事にしたとか?)

色々と考えたが、財布を忘れたか、カバンのどこかにあるかのどちらかだろうと思った。

自分がそう考えている間、男は車両の前方の方で車掌と話しをしている、どうも、女性が盗ったと言っているような感じがした。

なぜなら車掌は男に向かって首を縦に動かし、うなずいているように見えたからだ。

その時女性は周りの皆に自分の潔白を話していて、それに対して皆、納得していた。

そうこうしている内に大宮駅から出発して最初の停車駅である仙台駅が近づいて新幹線は速度を落とし始めた。

トラブルが起きてから1時間近く経過していたのだった。
(これからどうなるのだろう、たぶん仙台駅から警察官が来るだろうな、もしかしたら鉄道警察かな?)

(そうしたら、ここで状況確認を始めるのかな?)、(行動を再現して確認とか?)、(その時は自分が見ていた事を警察に話そう)と思った。

そうしている間に新幹線は更に減速してゆっくりと仙台駅に到着した。

大宮駅を出てから約1時間10分近く経過しての定刻通りだったが、いつもよりずっと短く感じた。

到着するとすぐに車両の前のドアが開き二人の制服の警察官と車掌が入って来た。

どうやら車掌が電話で状況を警察に詳しく知らせていた様で、女性と男性の当人を確認すると二人からも説明を受けながら車内の状況を確認すると、

「お手数ですが、お二人共この駅で下車して頂いて、詳しくは、駅構内で聞く事にしたいのですが宜しいでしょうか?」と尋ねた。

すると男は女性を指さして「こいつが財布を盗んだのは間違い無いのだから早く取り返してくれ!」と言った。

それに対して「私は盗っていない!」、「隠し持ってもいないから、今、ここで調べて!」と警察官に大声で言った。

すると警察官は「それは詳しいお話を聞いた後にするかもしれませんが、今ここでは行いません」と言った。

そして周り乗客に「どなたか、この状況の承認になってくれる方はいませんか?」
と尋ねると、近くの席の年配の男女と他の男性1人らが「私達がこの女性の無実の承認ですから一緒に降りますよ」と言った。

それを聞いた女性は「ありがとうございます、心強いです!」と気持ちを伝えていた。

それを聞いた自分は(これなら大丈夫だな、女性が盗っていないのは自分が見た中では明らかだし、近くにいた人達が承認になってくれる、身体検査をされたとしても絶対に出てくるはずは無い)と思って安心した。

そして警察官一人に続いて女性、後ろに証人者三人、続いて例の男、その後ろに一人の警察官に続いて男が後ろのドアから下車しようと自分の左横を通り過ぎて行った。

が、その時、男の行動が気になった。

黒い大きなカバンの中を確認しながら歩いて来ていたのだが、一瞬立ち止まり動かしていた手も止めていて、さっきとは違って(しまった…)と思っているような表情をしていたからだ。

それを見た自分は (ん?)と思ったが、そのまま皆、皆は新幹線から降りて行った。

ドアが閉まった音がした瞬間に(あっ、もしかして、カバンの奥とか、物の間に挟まった財布を見つけたのでは?)と思った。

その時、よく物を無くした時は基本的な場所の近くに、ある事が多いと言われている事を思い出した。

例えば、鍵を無くしたと思って探して見つからない時は結局はいつもの引き出しの奥とか、いつものズボンのポケットの奥の奥に他の物と一緒にあったとかだ。

きっと、財布を盗られたと思い込んだ男も、よく確認しないで、状況的に女性を盗んだと判断してしまったのだろう。

これで、駅でしっかりと警察に調べてもらえば解決する事は間違いないと確信した。

それにしても、あの女性の行動は間違っていなかった。
もし、かばんをよけて、席に座っていたら怪しまれる可能性が、高くなっていただろう。

発言の仕方も説得力があったから、周りの人も応援・証言の為に一緒に列車を降りてくれたのだ

それに比べて、自分は状況を見て推理しただけの男だった。

今、思い出しても、それが正解だったのかは、はっきりしなない。

皆さんでしたら、どのような推測・行動をされたでしょうか?

<終わり>

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