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戦隊ショーで、連れ去られたら、少し大人になった話【前編】

子供の頃、地元の駅前にも百貨店がありまして、休日になると、よく親に連れて行ってもらいました。昭和の百貨店の定番は、最上階に展望レストランがありまして、そこで家族で食事をするのが定番でした。

ガラスのショーウインドウの中に、フォークが宙に浮いたナポリタンの食品サンプル。きれいなオレンジ色のケチャップライスを丸く盛り付けて、頂上に爪楊枝で作った、日の丸の旗が立ったお子様ランチ。それがワクワクしたんです。

屋上は、決まって遊園地になっています。遊園地といっても今のテーマパークとはまったく異なるショボいものです。週末になると、その一角で「戦隊ショー」が行われ、それを見るのが僕の楽しみでした。ある日、

恒例の戦隊ショーを最前列で体操座りで見ていると、

小学校低学年とおぼしきグループが最前列で、「中には人間が入ってるんだろー!」っと野次を飛ばしています。小学校高学年であった僕は、その様子を冷めた目で眺め、

「当たり前だろ。それを分かったうえで楽しんでるんだから、静かにしろよ、まったく。」

と、昔の自分もあんな風だったな。と懐かしく思っていました。すると、急に目の前のボス怪人が、

「わっはっは。子どもはもらっていくぞー」と高笑いしたかと思うと、トンビが油揚げをさらうかのように、僕の両脇を抱えて舞台の裏側に連れ去ったのである。

あまりに急な出来事に、呆然とする僕。

それを、レッドが「まてーい!」と言いながら、舞台の裏側まで追いかけてきます。

舞台上では、レッド以外のヒーローが「子どもが連れ去られたー」とピンチを演出しています。「大丈夫、レッドが助けてくれるはずだっ」などとやりとりしています。僕は、舞台の裏で立って出番を待たされました。

僕を連れ去ったボス怪人は、後ろに立って僕の両肩に手を置いて「もうすぐ戻れるから、出番まで少し待っててね」と優しい言葉を肩越しにかけてくれました。

目の前には、僕を助けるために追いかけて来たはずのレッドが、パイプ椅子に腰かけて肩で息をしています。

僕の視線に気づいたレッドは、軽く敬礼のように手を挙げて「よおっ」とあいさつしてくれました。

そこにいるのは、まぎれもなくレッドのスーツを着たおじさんだったのです。そして、悪の化身のボス怪人は、やさしいお兄さんだったのです。

知っていたさ。いや、知ってるつもりだけだったのかもしれない。目の当たりにした現実に、小学校高学年の僕は、激しく打ちひしがれたのです。

【後編】へ続く・・・

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