第3話 劣悪な仕事環境

私は大卒新人として物流会社へ入社した。

当時は不景気で希望した企業に入ることができなかった。

はっきし言って就活は失敗していた。

後二年遅ければ買い手市場だったので、もっと良い企業に入れたかもしれない。正直運が悪かった。

ただもう決まってしまったことは仕方がない。

私は現状を受け入れてこの会社で頑張ることにした。

最初はあまり気乗りしなかったが、研修を通じて物流を学んでみると、割と楽しかった。

どのように現場を回して物流のサービスを提供しているのか勉強をしていくうちに好きになり、奥深さにハマっていった。

研修では社内の運用について座学と実作業を行い、それなりに理解を深めていった。

研修時に実際に現場を体験するのだが、やはり物流現場は辛い。

皆安い単価で単純作業を繰り返す。雰囲気も体育会系のノリに近い。

しかし、働いている人たちは特に辛さは感じていないようだった。

不安はあるものの、これぐらいの仕事量や仕事内容であれば、自分でもこなせるだろうと思っていた。

研修期間が終わり、配属が決まった。この配属先も不本意だった。

本当は別の部署に異動したかった。

それなりに成績が良かったはずなのに希望の部署に行けなかったことがショックだった。

むしろ成績が悪い奴らが希望の部署に入り、納得のいかないところもあった。

私の顔に辞めそうな表情が垣間見えたためか、本配属する日までに人事一人一人から説得される。

『今から行く部署はどこよりもやりがいがある』

そう何度も耳にタコができるくらい説得された。

特に辞めると言ったわけでも無いのだが、恐らく単に人事としては辞められると困るからだろう。

あまりにもしつこいので、渋々配属先で頑張ることにした。

配属先は岩手県。行ったことも無ければ、知人すらいない。自分にとっては未開の地だった。

朝5時頃に起きて新横浜から新幹線に乗り、岩手へ向かう。

一関までは雪が無かったが、トンネルを超えると真っ白な世界が広がっていた。

座席の足元が冷たくなっていくことを肌身で感じる。

これから雪国で生活するのかと思うと不安でいっぱいだった。

駅に着き、新幹線から降りると、寒さを一瞬で感じた。

あまりの寒暖差に足の震えが止まらない。

そして駅を出ると、大量に雪が降っていた。

いざ足を踏み込むと、膝が全て雪に埋もれた。

この日はたまたまこの地域でも雪が多かったようだ。

今まで住んだことのない寒冷地で本当にこれから生きていけるのか不安だった。

翌日、上司が車で迎えに来ていただいて、会社へと連れて行ってくれた。

周りは雪だらけ。車道も凍っている。関東圏とはあまりの景色の違いに驚く。

車は工業団地の中へ入っていく。そして細い道の先に営業所があった。

営業所も雪を被っており、雪かきしている社員が何名かいた。

「今日からここで働くのか…」

私は不安な気持ちを抑えつつ、職場へと足を踏み入れた。

この日から地獄が始まる。想像以上の大変さに心身ともに壊れることになる。

早速その日は自分が配属する現場へ案内される。その現場のリーダーに挨拶をする。そしてそのリーダーの表情を見て思った。

(あっ…ヤバいな)

そのリーダーの顔は明らかに辛そうな顔をしていたからだ。

嫌な予感がするが、してもいない仕事を放棄するわけにはいかない。

まずはやってみる。これが自分の信条だった。

最初は現場の作業を覚えるため、現場に入る。

1日中ずっと肉体労働だ。貨物も重く、そして時間の制限もあることから常に急いで作業をしていた。

(大変だ)

これを毎日やるのかと思うと不安が更に募る。

しかも作業手順が複雑で、一人一人やり方が異なる。

本来これはあり得ない。同じ作業をしているのに人によって作業内容がバラバラ。どれが正しいのかわからないのだ。

これはもう現場管理者の怠慢だ。現場管理とは程遠いひどい有り様。

しかもマニュアルすら無い。無いと言ったら嘘だが、あるにはあるものの、内容はスカスカ。

実態と合っていないし、文章もめちゃくちゃ。これではマニュアルが無いのに等しい。形だけあるといった状態だ。

仕事内容がきちんと管理されていないことからこの職場が劣悪な環境になっていることはあからさまだった。

手順も複雑でミスも多く、作業者同士で喧嘩することも多い。

新人が来ても口頭で伝える。そんなやり方で教育が進むわけがない。

仕事が覚えられない者も多く、それが原因で作業者同士が喧嘩することもあった。

私もこの複雑で分かりづらい手順を覚えきれず、よくわからないまま作業を続ける。

そして納期がその日のうちの定時までであり、スピードが求められ、肉体的にもキツイ。

人がいても運用が悪く、人間関係も劣悪なため、全体的にこの職場はうまく回っていなかった。

だんだん心も体もすり減っていく。ただ自分は他の人と違って正社員で同じ仕事をしていた。

その分まだマシだったかもしれない。ここで働いている人たちは要はアルバイトみたいなものだ。

きちんと整備されていない肉体労働を安い賃金でひたすらやらされている奴隷だ。

別に楽しくない。とにかく仕事だからと割り切って同じことを繰り返しているだけ。

地獄のような日々。外は太陽が見えず、毎日ひたすら雪が降っていた。

仕事の仕組みが悪ければ、従業員は疲弊する。
仕組みが全てを左右すると言っていい。
人間関係が劣悪なのも、仕事内容がキツイのも全てそこに帰結する。会社がホワイトかブラックかはそこで決まると断言してもいい。
仕事関係が良ければ人に余裕は出る。余裕があれば人は気楽に過ごせるわけだ。忙しすぎるのも悪、暇すぎるのも悪。少し余裕があるくらいが丁度いい。

仕事がキツイと思っている人は2つ解決策がある。1つは自分で劣悪な仕事場を改善すること。
もう1つは潰れる前に逃げることだ。

一番良いのは自分の力で問題を解決することだ。その努力は知識と経験になる。人として成長できるのは間違いない。しかし、自分の力でどうしょうもない時は成す術がない。忍耐にも限界がある。そもそも忍耐は策が無い時のための最終手段だ。長くは持たない。いずれ私のように壊れる。そのため、なんともならない時は逃げるが吉だ。

この後、更に私は追い込まれることになる。そして1話の過呼吸に繋がる。

次回に続く。














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