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孤独にそっと寄り添う、日食なつこさんの「meridian」 という曲

 実生活では誰に言うでもないけど、自分がだいすきなものについて、noteに書いてみる。まずはだいすきなアーティスト、日食なつこさんの表題の曲について。

1.  日食なつこ さん とは

 日食なつこさんは、ピアノ弾き語りをするシンガーソングライターだ。彼女のことは数年前に知って、以来、その曲と歌詞、そこから垣間見える凛とした芯のある人生観や人間性にノックアウトされた。研ぎ澄まされた歌詞は胸に突き刺さるし、逃げの姿勢を許さない力強い叱咤には背筋が伸びる。それでいて、人の心の弱い部分にそっと寄り添い、一緒に泣いてくれるような優しさもある。人生のバイブルになる曲がたくさんあり、全曲について1曲ずつ良さを語れるレベルにすきなのだけど、中でもこの「meridian」から始めたい。

2.  「meridian」という曲

 「meridian」は、英語で「子午線」「経線」、つまり地球の南北をつなぎ赤道と垂直に交わる線を指すが、下記リンクの公式サイトの曲紹介によれば、「太陽が最も高く昇った瞬間のことを指す言葉」として用いられている。彼女の名前にもあるとおり、日食なつこさんの曲の題名や歌詞には、こうした天文学的な用語が使われることが多い。
 ぱっと聴くと、この曲は寂しげで物憂げで、暗い印象を受ける人の方が多いかもしれない。この曲を「めっちゃ良い!!」という人より、「ど、どのへんが…?」と怪訝に思う人の方が多いかもしれない。でも私は、ピアノ旋律だけのこの短い曲を聴いた時、雷に打たれたような衝撃だった。なんだこの歌は?このアーティストは?こんなものを歌にする人がいるなんて。こんな感情を形にして言葉にして世に出せる人がいるのが信じられなかった。

 自分は、ポジティブで前向きでアツい歌詞がストレートに綴られた曲は苦手だ。俗な言い方でいういわゆる「陽キャ」な曲は、素敵だとは思うけどあまり励まされない。疲れている時に聴くと逆に胸焼けするので敬遠しがち。人には2種類あって、「前を向け、生きるんだ!」と正面から応援する曲に救われる人と「死にたい時もあるよね、死んだってまあ別にいいんだよ」と絶望を肯定する曲に救われる人がいるとどこかで読んだ。この曲は後者のための曲だ。

 光、夜明け、朝焼け、雲ひとつない空、希望。どれも一般的に素敵なモチーフとされる。空間も人格も未来も、明るいか暗いかでいえば明るい方がベターとされるし、絶望より希望が求められる。映画や漫画でも何でも、基本そうしたストーリーに勇気づけられるものだ。
 だけど、光に照らされない日陰に救われる人も確かに存在する。暗闇でしか生きていけない人、照らされすぎると居心地の悪さを感じる人、光のもとに出ていくと眩しさに焼き殺されてしまうので、今は日陰でうずくまっていたい人も居る。現実は、光は善で闇は悪、というシンプルな二項対立ではないのだ。わかっている人も沢山いるはずだけど、何かを語る時にはやはり「闇」の側は劣勢に立たされることが多い。見て見ぬふりされたり、悪とされたり、残念な「劣る側」とされ、そういう人たちはどこか後ろめたさを感じて存在している。

 だけど「meridian」は、まさにそういう人たちのことを歌っている。この曲ほど、この二項対立の「闇」の側を見据え、ストレートに歌いあげた曲はない。それが震えるほどすごい。もちろん「闇」を肯定的に描く作品もある。「闇」側を解像度高く理解しているアーティストは、そういう作品を作れる。だけど、ピアノ旋律と歌声だけの短い曲で、こんなにもまざまざと「そちら側」の存在を語れるだろうか?恐ろしいのは、この曲は2分半にも満たない短さなことだ。長尺の物語も視覚情報もない。小洒落た表現やメッセージ性を詰め込んだ歌詞がつらつらかかれているわけでもない。端的なワードと研ぎ澄まされた歌声だけ。それだけでこんなにも心を突き刺す作品があるだろうか?
 さらに、この歌詞には別に優しい言葉も明示的に寄り添う言葉も無いのが良い。ただ淡々と、光を肯定する人、それでは生きていけない人、それぞれの存在を歌っただけで、どちらが良いとか押し付けるわけではない。ただ存在を「忘れるな」と言っているだけだ。そこが彼女の曲の気持ちいところだ。押し付けられる息苦しさを与えない。だからただ、「ああ私のことを歌ってくれているのか」「自分だけじゃないんだ」と安心する。慰めや、心強さや、闇に蹲る人の背中をそっとさすってくれるような優しさになる。だから、孤独な時や絶望した時ほど、この曲を聴くと不思議と心が落ちつく。昔、異国の地で働いていたとき、慣れない街、慣れない仕事で疲弊しきった夜のタクシーでこの曲を聴いたとき、私は確かに救われたんだ。

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