麺の曲の話【NDLs.02】つけ麺讃歌

2曲目。タイトル通り、つけ麺をテーマに作曲した。
 
 僕は麺という名のつくものなら、分け隔てなく愛することをポリシーにしている。どんな麺にも必ずストロングポイントがあるはずで、それを見つけ出すことこそが、真に愛麺家と呼ばれる者の振舞いではないだろうか?
 自称麺好きが「あの店、マズいわ」とか声高に麺を罵っているのを聞くと、僕は思わず固く拳を握りしめてしまう。心の中で。そもそも、マズいという言葉をあまりにも簡単に…
 いけない、初っ端から怒濤の勢いで本筋を外してしまった。
 だが、上記の考え方は僕と麺とのあり方において非常に重要な考え方で、このテーマで一本曲を書く準備がある。またの機会に。
 
 それで、何が言いたかったのか。
 そう、それほど全ての麺に愛を注ぐことを矜持としている僕だが、あえて「一番好きな麺料理はなんですか?」と聞かれれば、「つけ麺」と答えることになるだろう。この曲は、僕が一番愛する麺に対する、感謝、賞讃、あるいはそれ以上の感情をぶつけた、まさに「讃歌」である。

 僕のつけ麺との出会いは、約20年前の話になる。
 大学生当時、ぼちぼちインターネットも広く普及しだして、麺の情報も以前よりは気軽にキャッチできるようになったわけだが、その中で、関東を中心に「つけ麺」が食されており、「大勝軒」が老舗として広く認知されている、という情報を、ボンヤリと知るようになった。
 そんな「大勝軒」の、しかも総本山ともいえる「東池袋大勝軒」の親戚筋が西宮にあるという。それを知った僕は早速、西宮「大勝軒」に駆けつけた。そして「もりそば」に出会ったのである。
 ややぬるめに締められた中太麺を甘酸っぱいつけ汁で食す。今でこそ僕の魂に刻み込まれた味、とも言える大勝軒の「もりそば」だが、若き日の僕には鮮烈な衝撃を与えたものである。
 いったん、茹で上げられた後に水で締められた麺は、明確な存在感を持ち、それが口の中で暴れ回る。麺の風味もハッキリと感じられ、いつまでも咀嚼したい思いに囚われる。
 見た目はラーメンの麺とスープを分けたものだが、麺体験としては異なっている。まるで違う。
 そうか、今まで様々な麺を食べてきたわけだが、僕は実は麺そのものが好きだったのか。スープとの調和よりも、麺の食感、風味に重点を置く人間だったのか。
 「もりそば」との出会いは、そんな風に自分の気づかなかった一面もあらわにしてくれたのである。

 ハマった。見事にハマった。当時、関西でつけ麺を出している店はかなり少なかった。夜な夜なネットで検索をかけては店をリストアップし、休みの日ごとに訪問する日々だ。
 梅田2ビル「楼蘭」、茨木「ほんまの老麺や」、摂津富田「きんせい」…。愛車のスーパーカブを駆り、つけ麺があるといわれる店を回りまくった。
 社会人になってからは、夏休みに青春18きっぷで関東に向かい、やはり啜りまくった。
 早稲田「べんてん」、板橋「道頓堀」、町屋「勢得」…。東京つけ麺のレベルの高さには、本当に舌を巻いたものだった。「東池袋大勝軒」にも、もちろん訪問したのだが、そこにはまた一筋縄でいかぬドラマがあった。別の機会としたい。
 
 そのうち、関西の麺文化にも変化が訪れ、つけ麺環境にも変化が起きていった。
 とりわけ僕にとっての大きなトピックは「麺哲グループ」が台頭したことだろうか。彼らの紡ぎ出す美しい麺には今でも魅了され続けている…。
 ただ、こうして見てみると、ラーメン店、つけ麺店のサイクルの早さを実感する。上記の店には、すでに閉店、あるいは移転したものが多い。
 僕がはじめてつけ麺に出会った西宮「大勝軒」も、一度早稲田に移転し、その後尼崎に帰ってきて、今は開店日を制限して運営されている。永く続いてほしいものである。ちなみにいまの店名は「和楽大勝軒」である。

 えーと、すごい長文になってしまったよね。
 「麺の曲の話」としながら、つけ麺の話しかしてないよね。
 まあ、そうい想いや、歴史を、全部詰め込んだ歌ということですわ。
 
 サウンド面では、Queen「ボヘミアン・ラプソディ」みたいに、万華鏡のような、次々と展開のある楽曲を目指した。
 けれども、この「つけ麺讃歌」に一番色濃く影響を与えているのは、おそらくマーラー「交響曲第8番」かな、と思う。
 僕は、高校時代にクラシックの、それも声楽入りの交響曲にハマった時期があって、マーラー第8の第一楽章をほぼ毎日聞いていた。
 この曲の第一楽章には色んな曲評があって、大袈裟すぎる、なんて否定的な意見も少なくない。
 しかし、高校生の僕にとっては劇的な壮大さが宇宙を感じさせる曲だった。間違いなく青年期の僕の価値観を育んだ曲といっていい。
 
 結局、創作物にはゼロから作られたものって何一つないのだろうと思う。
 人生のどこかで影響を受けたものが、様々な角度で入り込んでいる。そういうものなのだろう。
 それだけに、何を読み、何を聴き、何に触れたか。これが肝心となってくるのだろう。
 
 本当に長くなった。僕のつけ麺への思いと、これまでに積み上げた音楽と。改めて、お聴きください。

 
 ラボレムス - さあ、仕事を続けよう

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