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シトラリの言葉遣いについて

 この記事は、シトラリの台詞に現れる言葉や特殊な表記から、彼女のナウさがどれくらいか考えてみるものである。

 基本情報として、シトラリは謎煙めいえんあるじに所属する祭司で、見た目は若いが実際はお婆ちゃんであり、「黒曜石の老婆グラスバーバ」の異名を持っている。基本的に家に閉じこもっているため、人付き合いが下手っぽく、また普段は今時の若者が好むような話し方をココロがけているらしい。

言葉のカタカナ化

 彼女の台詞に最も顕著に現れる特徴が「カタカナ」である。例えば次のように、台詞中の任意の語がカタカナ化する。

悪口→ワルグチ
手紙→テガミ
頼りない→タヨりない

 また、カタカナ化した語が直後に漢字表記されることもある。

 加えて、発音した際に長音で実現される言葉は、「ー」で表記される傾向がある。(「葛藤かっとう」が「カットー」ではなく「カットウ」となる例があるため、絶対ではない。)

ウ列の長音例 普通→フツー
エ列の長音例 計画→ケーカク
オ列の長音例 勉強→ベンキョー

 これらの語に特に法則性は見出せず、文中から恣意しい的に選ばれていると思われる。ただし、一部の語、例えば「コ(子)」「ワタシ」「キミ」「モノ」「コト」「ヒト」「ナニ」「ホント」は決まってカタカナ化するようである。

 問題は、運営は何を意図してこのような煩瑣はんさな表記を施したかということである。

昭和軽薄体

 その一つの可能性として指摘できるのが、1970年代後半から1980年代前半にかけて生まれた昭和軽薄体しょうわけいはくたいと呼ばれる文体である。

 これは作家の椎名誠しいな まこと嵐山光三郎あらしやま こうざぶろうらが、話し言葉により近付けたエッセイに用いた文体であり、その特徴の一つとして「カタカナ・長音表記の多用」というものがある。以下に数例を挙げる。

なぜか必要以上にブンガク的な表現をともなって、おれの四肢はしだいに無実のよろこびにふるえていくのである。

椎名誠『さらば国分寺書店のオババ』

しかし、そうしてついついその場のフンイキというものに負けてあやまってしまったあと、…

前掲

ひたすら秘かにコーフンし、感激して眺めているだけで、…

椎名誠『気分はだぼだぼソース』

放火もユーカイも銀行ギャングも、中産階級にとっては悪ふざけになってしまうのです。

嵐山光三郎『チューサン階級の冒険』

 文中の任意の語がカタカナ、時に長音を交えた表記になる点は、シトラリの台詞文と一致している。後述するが、これらの文体が現れた年代は、シトラリが放つ「狙った」言い回しが現れる年代とおおむね時期を同じくする。

特徴的な使用語彙

 シトラリは時に、今時の若者言葉(と本人が思っている)をここぞとばかりに話すことがあるが、それらは現代の我々からすれば、死語と見なされ得るものが少なくない。

ナウい

 最初にぶっ込まれたのがこれである。多くの原神プレイヤーにとっては、「知ってはいるけど使ったことがない」部類の言葉だろう。英語のNOWを日本語の形容詞に落とし込んだ言葉で、「今時である」という意味である。

 年代の話をすると、元々1970年代初頭、形容動詞として「NOWな」「ナウな」が流行っており、1980年に差し掛かる頃「ナウい」に取って代わられ、以降は「ナウい」が流行する(米川明彦『日本俗語大辞典』pp.450-451)。

余裕のよっちゃん

 「余裕のよっちゃん」も昭和に生まれた言い回しで、国立国会図書館デジタルコレクション(https://dl.ndl.go.jp)にて同ワードで検索をかけたところ、少なくとも1980年代には使われていたことが分かる。語頭を合わせて人名風味にしただけで、意味は「余裕」と同じ(「ヨユー」と軽薄体になっているのもポイント)。

 前掲の『日本俗語大辞典』によれば、『現代用語の基礎知識1987年版』(自由国民社)に若者用語として掲載されているようである。

ちょちょいのちょい

 こちらも同じ方法で検索をかけたところ、1960年代から顕著に現れはじめ、その後は年代を経るごとにヒット数が増えてゆき、80年代から90年代に特に多くなる。これは割と現代でも聞くことがあるかもしれない。前掲の辞典には1990年の使用例が載っていた。

『日本俗語大辞典』p.376

激おこ

 「激おこ」は先の三つと比べればかなり新しい言葉で、2010年代前半頃から流行り始めた。Twitter(旧X)においても、2012年6月頃から見られる。現在のところ最もナウい言葉である。

まとめ

 シトラリの狙った言葉選びの基礎にあるのは、「激おこ」という新しめの言い回しはあったものの、概ね昭和50年代から60年代を中心とする流行語彙であって、彼女のナウさは一世代以上前で止まっていると、ひとまず結論付けられそうである。

 もちろん原神の世界に昭和とかいう概念はないため、これは「家に閉じこもっており、外界の人(特に若者)との接触の機会が乏しかったために、ここ数十年の流行を把握しきれていないお婆ちゃんが、絶妙に古い『今時』を絞り出している様子」の表現である。

 それは記事後半で触れた語彙的側面と、前半で触れた表記的側面(こちらはキャラからは見えないため、メタ的)の双方に及んでおり、巧妙である。

おまけ:今後シトラリが使いそうな言葉

 彼女の根底にある流行を検証したことで、今後使ってくれそうな言い回しをある程度推測できそうなので、願望も込めていくつか並べておく。

・ヤング
・バカウケ

・合点承知の助
・冗談はよし子ちゃん
・朝シャン
・チョベリバ
・そんなバナナ
・許してちょんまげ
・チョメチョメ
・〜なう
・胸キュン

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