バイエルン不調の理由と復調への希望
昨シーズンハンジフリック就任後、取れる全てのトロフィーを手に入れたドイツ王者バイエルンミュンヘン。その強さは今シーズンも健在のように見えたブンデスリーガ開幕直後だったが、ここ最近はそうもいかない。クリーンシートの少なさがそれを物語る。前半戦終了現在、クリーンシートはたったの3つ。勝った試合も多くは先制されたところから何とか逆転勝利、よもや逆転できず勝ち点を分け合うゲームも少なくない。なぜ今のバイエルンが本調子を取り戻せないのか、その理由を私の考察を交えながら話していく。
短い休暇と続く過密日程
一番わかりやすい理由付けとしてまず短い休みが上げられる。昨シーズンは新型コロナウイルスの影響がありCLの日程が後ろにずれ込み、集中開催。その後、翌リーグ開幕までは1か月も無かった。休暇の少なさは明らかだろう。それに加え、今シーズンも毎週週末にはリーグ戦、ミッドウィークにポカールやCL、ここにネーションズリーグが絡む期間もある。いくらトップレベルのフィジカルを持つバイエルンの選手といえど、疲労は感じざるを得ないはずだ。またそこにはバイエルン特有の要因がある。今のバイエルンのサッカーを端的に表すなら「質実剛健」、類稀なテクニックで魅せるというよりかは、みんなで走りみんなで守りみんなで点を取る、そんな組織力と肉体的精神的な強さを必要するサッカーを展開している。前線からのハイプレスがそれを象徴する一つだ。このチームに走らない選手など存在しない。生きていけないと言った方が良いか。このスタイルをターンオーバー無しに連戦をハイレベルでこなすのはまぁ不可能に近いと思う。
トップチーム計6人の補強。成功か、はたまた失敗か
この過密日程やサッカースタイルを踏まえたサリハミジッチを含むバイエルン首脳陣は準備を怠らなかった。ほとんどがファーストチョイスではなかったにしろ、ある一定レベル以上の選手を補強した。しかしそれがバイエルンのクオリティに達しているか、高い組織力がバイエルンのサッカーにすぐ馴染める選手か、と聞かれると疑問を隠せない人も多いだろう。特にザネ。日本語的に発音するならサネというべきか。多額の年俸と、クラブのレジェンド アリエン・ロッベンが背負った10番という栄光の背番号を手に入れ、鳴り物入りで加入したドイツ人レフティーだったが、開幕戦以外の彼のパフォーマンスは前記に相応しいものとは到底言えないだろう。不用意なボールロスト、切り替えの意識の低さ、対人守備での粗さ、目につくところは多々ある。これは同クラブで定位置を獲得している同胞のニャブリや、ザネの加入に刺激されコンディションを上げているコマンと比較することで見えてきてしまったものなのかもしれないが、今のバイエルンで穴になっているのは否定しようがない。途中出場途中交代という屈辱的な采配をされた事実が物語っている。また、ユベントスから加入し帰還という形になったドウグラスコスタや、選手層の薄い中盤で活躍を期待したマルクロカ等。彼らはまず出場機会を与えられていないと言及されそうだが、起用されている試合を見るに、前線からプレスをかけ、人を捕まえ、縦に速い攻撃をするバイエルンにおいて、彼らの戦術的機能性やフィジカル面の充実具合には不安があると言わざるほかない。
前で起こる機能不全が後ろに与える影響
選手のコンディション不良やベンチメンバー起用による弊害は、失点と直結するところに現れる。最近のバイエルンは大きな特徴である前線からのハイプレスが機能していないシーンが増えつつある。緩いプレスをワンタッチではがされたり、プレスがかかりきらなかったところから精度の高いフィードを蹴られるシーンが増えた気はしないだろうか。これによりもう一つの特徴であるハイラインの裏を使われやすくなった。いうなればこっちが失点の直接的な要因だ。バイエルンはブンデスリーガの他のチームよりも平均5mも高い最終ラインを敷いている。昨シーズンのバイエルンは、前線からのハイプレスで相手に良い状態でフィードを蹴らせないようにする守備と、守護神ノイアーの常識外れの守備範囲によって担保されていた。しかし言及した通り、選手が違うことによる連携の低下やコンディション面により前者がおろそかになっている。何度背後を取られ、その度にノイアーが防いだか。守護神が年間最優秀GKでもない限り失点はこれだけでは済んでいなかっただろう。
対策されるバイエルン。あぶりだされた弱点
相手が今まで以上にバイエルンを研究し、弱点を狙ってきているという事実も否定できない。まぁ今のバイエルンの弱点は分かりやすい。高いラインの裏、それもスピードの無いCBの裏である。左CBにコンバートされ今や世界最高峰のCBといっても差し支えないであろうダビドアラバは、CBとして充分な”速さ”を持っている。ただ相方はそうもいかない。ボアテングもズーレの大柄なCBで、背後を取られた時のスピードでは分が悪い。特に最近非難を浴びているのがズーレ。このドイツの若きディフェンスリーダーは195cmという長身に加え90kgという巨体であるため、トップスピードは遅くないものの瞬間的な加速には強くない。ズーレの背後から抜け出したヨナスホフマンに2ゴールを奪われたボルシア・メンヒェングラートバッハ戦を観ていただければ、バイエルンの弱点と相手の狙いが良くわかるはずだ。この試合3失点目の原因であるズーレの足元の技術にも言及したいが、この人為的ミスは戦術的な話から離れるため今回は割愛する。
総括
このようにバイエルンは組織として完全に機能しきってるとは言い難い。もともと”肉を切って骨を断つ”ようなハイリスクハイリターンなサッカーの中で、出来る限りリスクを減らしていき、高い攻撃力得点力を最大限生かしてヨーロッパを勝ち抜いたこのチームにおいて、微小な機能不全はとてつもないリスクへと変貌する。
ライプツィヒ戦でのノイアーの飛び出しが非難された記事をみて私は唖然とした。幾度となく彼の飛び出しやスーパーセーブで救われてきたのにも関わらず、チーム全体で招いた失点がノイアーのせいにされるなどありえない。
ここまでバイエルンの良くない面を取り上げてきたが、直近のバイエルンは良い兆候がないわけでも無い。いくら点を取られようとも、レヴィが点を取り続けてくれているおかげで今もなおリーグ首位を維持している。直近のフライブルク戦やアウクスブルク戦では、良いときのバイエルンの片鱗が見え隠れしていた。ラームの後継者やシュバインシュタイガーの後継者と言われ、今ではチームの精神的な支柱になりつつあるキミッヒの復帰も大きいだろう。ミュラーやキミッヒが周りを鼓舞し、あのハイプレスを再び完全に実現できれば、また勝ち点を積み上げられるのではないか。連戦の中で、古株のハビマルティネスやトリッソ、これからが楽しみなムシアラ、新加入ながら計算が立つブナサールやシュポモティング等、ターンオーバー要因もしっかりと起用しながら主力がコンディションを維持していけば、リーグ9連覇&CL2連覇も夢ではない。選手たちのコンディションが整った上で、自分たちの弱点を突かれ相手にリードを許す展開が起こったとするなら、その時は途中就任から三冠達成に導いた名将ハンスディーターフリックがその手腕を見せてくれることだろう。その時のハンジの戦術、采配を分析するのが楽しみだ。