バイエルン、好調なリーグ戦、不調なCL。
諸言
久しぶりの投稿になります。トゥヘル政権に関しては一才書いてはいなかったものの、試合は毎試合追っていました。そしてコンパに新政権が始まり、余りにも見てられない状況の為、皆さんに共有しようと久しぶりに書こうと思いました。長々と私の意見を述べており、また画像等も一切差し込んでいない為、幾許か読みづらいnoteかと思いますが、もしお暇でしたら最後まで目を通して頂けると嬉しいです。
新シーズンのインアウト
バイエルンを線で見てない方は現状のスカッドを把握されていない方もいるかと思う。莫大な予算から世界最高峰の選手と監督が集まり昨今絶大な人気を誇るプレミアリーグや、エンバペ加入も仕上がりきっていないマドリーやハンジ政権に変わり絶好調のバルセロナが属するラ・リーガと比べ、ブンデスの為にサブスクを登録している方は多くはないであろう。その為、まずは現状のバイエルンのスカッドから整理する。
インアウトから話そう。今シーズン開始に際し、ヴァンサン・コンパニ新監督を招聘したバイエルンは、DFラインの整理から始めた。昨シーズン主力であったオランダ代表CBのマタイス・デ・リフトと、モロッコ代表SBのヌサイル・マズラウィをマンチェスター・ユナイテッドに放出した。そして、昨シーズンバイエルンを抑えリーグ戦準優勝を果たしたシュトゥットガルトの主力であった日本代表DF伊藤洋輝を獲得し、昨シーズンリーグ優勝を果たしたバイヤー・レヴァークーゼンにレンタルしていたヨシプ・スタニシッチをレンタルバックでスカッドに加えた。
次に中盤の話だ。昨シーズンの序列としては、新進気鋭の若手アレクサンデル・パヴロヴィッチと、運動量が魅力のBox to Box コンラッド・ライマーが高かったように思える。キミッヒは?と思う方も多いかと思うが、彼は昨シーズンはクラブ代表共に右SB起用が多かった。ここまで話に出ていないゴレツカは明らかに序列が下がっていた。ビッグイヤーを掲げたハンジ・フリック政権時は怪我が多いものの怪我さえなければ絶対的な主力であったゴレツカだが、慢性的なスペ体質からコンディションが上がり切っていないと評価されていたのか、はたまたチーム内の不満分子となっていた等のマネジメント面なのか、真偽は定かではないが、序列が下がったのは確かであった。EUROの代表に招集されなかったことがそれを示しているだろう。マズラウィを放出したことで、本職の右SBが不足していることから、キミッヒを右SB枠として計上した場合は、中盤の枚数が足りないと新監督、首脳陣が考えるのはなんら不思議ではない。その結果、昨シーズンや冬から報道があった当時フラム所属の中盤の潰し屋、ジョアン・パリーニャを獲得した。トゥヘル前監督もマンチェスター・シティのロドリのような守備的MFを所望していたことからも狙い通りの補強であったのだろう。
最後に前線だが、今シーズンのバイエルンの補強で最も話題になった。クリスタルパレス所属のフランス人MF、マイケル・オリーセの獲得だ。パレスでエゼとともに攻撃陣を牽引し、サカやウーデゴールのバックアッパーを探していたアーセナルもリストアップしていた選手である。左利きで右のウイングやシャドウを主戦場としており、爆発的な突破力があるウインガーではないが、テクニックと左足のキック精度が魅力的な選手だ。バイエルンの右サイドは10番を背負うザネが、トップ下にはもうバイエルンの顔とも言えるであろうムシアラが居る。その為、だいぶ贅沢な補強ではあるが、王座奪還を目指すバイエルンが約6000万ユーロ出して補強するのは分からなくはない。私としては彼がこの金額というのはお手頃に感じる。
現状のスカッドと負傷離脱者
ここまでのインアウトを整理し、スカッドをまとめる。
GKは御歳38歳のキャプテンノイアーが依然主力であり、ウルライヒが例年同様控えにいる。
DFはCBにキム・ミンジェ、ウパメカノ、ダイアー。左SBはデイヴィスとゲレイロ、右SBはボエと(キミッヒ)。レンタルバックのスタニシッチはDFライン全てでプレー可能、新加入の伊藤はCBと左SBの併用といったところであろう。
ボランチは、キミッヒ、パヴロヴィッチ、ライマー、ゴレツカ、パリーニャ。大まかにキャラクターを分類するなら前者2名と後者3名で分けられるだろう。
二列目は左のWGに怪我から復帰したニャブリ、コマン。右にザネ、オリーセ。中央にムシアラ、ミュラー。
トップはエース ケイン、控えに期待のテル。
これが主要在籍選手である。ここに今シーズンの怪我人を考慮する。
まずは今シーズンから合流したDF2人。レンタルバックのスタニシッチはシーズン開始早々トレーニング中に右膝の側副靱帯を断裂し、ポカール(ドイツ国内カップ戦)の出場のみでリーグ開幕前に離脱となった。新加入の伊藤はバイエルンデビュー戦となったプレシーズンマッチ同国リーグ4部デューレン戦にて、足を踏まれ、中足骨を骨折し、デビュー早々しばらくの離脱が確定した。それに加え、唯一の本職右SBであるボエも負傷離脱である。リーグ開幕から2試合先発出場したものの、練習中に左膝の半月板断裂。既に手術は終了、成功したが、復帰にはしばらくかかる見込みだ。その為現状、CBはミンジェ、ウパメカノ、ダイアーの3枚、SBもデイヴィス、ゲレイロの2枚のみが稼働可能であり、本職右SBを欠く等、相当厳しい状態に立たされている。
また、中盤の要となりつつあった新進気鋭の若手パヴロヴィッチもリーグ戦第7節シュトゥットガルト戦で先発出場したものの、開始早々競り合い時に受け身を取れず落下し、鎖骨骨折、戦線離脱中である。最後にEURO後に鼠蹊部の手術を行なって離脱していたザネだが、CLリーグフェーズラウンド1から復帰している。
人員が不足しているポジション
前述のスカッドの話から分かっているとは思うが、前線には素晴らしいタレントが揃っているものの、DFラインが明らかに不足している。昨シーズンのDFラインの中心であり、DFリーダーを務めていたデ・リフトを放出し、尚且つ期待感を持って加入した伊藤、スタニシッチも離脱。結果、リーグ戦とCL共にCBのファーストチョイスはミンジェとウパメカノとなっている。CBは枚数も足らなければ、質も圧倒的に足らない。他リーグの強豪と戦うCLにおいてミンジェ、ウパメカノ、ダイアーのCB陣がどれだけ不安要素かはハイライトのみを見ているユーザーにも明らかであろう。また、本職が不在の右SBも何かしらの対応が必要だ。当初は昨シーズン同様、キミッヒが右SBを務める試合があったが、ボランチで配給役を担っていたパヴロヴィッチも離脱し、キミッヒをボランチに戻さざるを得なくなり、結果的に本職中盤のライマーや本職左SBのゲレイロを右SBに起用して凌いでいる状態だ。
新監督の志向する戦術と人選
ここからはコンパニ新監督が今のバイエルンにて志向する戦術の特徴と、その欠点について言及しようと思う。
まず人選についてだが、GKはノイアー一択。これは当然だ。そしてCBは前述の通り、コンパニ監督のファーストチョイスはミンジェ、ウパメカノ。SBは左にデイヴィス、右にライマーかゲレイロ。ボランチはパヴロヴィッチ離脱後、キミッヒ、パリーニャの2人が並ぶことが多い。2列目の右WGは新加入オリーセがポジションを手にしている。これはザネが最序盤に離脱しており、合流が遅れたからであろう。今後どちらが軸になるかが見どころである。左WGは怪我明けで今シーズンから復帰したニャブリが定位置を獲得している。しかしコマンも出場した時は結果を残している為、レベルが高い競争が巻き起こっている。中央トップ下は基本ムシアラを軸にし、ムシアラのコンディション面に問題がある時にミュラーを起用するといったところであろう。最前線は昨シーズンリーグ戦36得点という怪物じみた得点力を見せた絶対的エース、ケインである。ケインに負傷等がない限り、テルにはまとまった出場機会は与えられないであろう。
次に戦術面。
攻撃の配置の話をしよう。基本的にコンパニ新監督はビルドアップ時、両WGを大外に張らせ、SBに低い位置でWGをCBを繋ぐ立ち位置を取らせる。ただ両SB共に守備的なキャラクターではない。流れの中でSBがどんどん前線に出ていく。その為、押し込んで相手陣内で攻める時には、デイヴィスやゲレイロがウイングのような立ち位置を取り、オリーセやニャブリがライン間に入っていく。WGの大外からの仕掛け、サイドでのWGとSBのコンビネーションが攻撃の糸口になることが多く、最終フェーズではそこにケインやムシアラが絡む。
守備に関してだが、常にハイラインを敷き、狭い空間で守ろうとする。背後の広大なスペースは両CBの身体能力と、GKノイアーの規格外の守備範囲で担保しようという魂胆であろう。前からのプレッシングも志向しており、ミドルゾーンから相手CBにかけてハイプレスを仕込んでいる。ただ、連動性に欠けるシーンも散見される。これはトップ下のムシアラが前線プレスを指揮する力をより育む必要があるだろう。ハンジ政権のミュラー、離脱前のアーセナルのウーデゴール等、前線にプレスのかけどころを指示できる優秀な指揮官が必要であることは現代フットボールにおいて自明である。
これらの攻守の戦術の欠点を分析するとしよう。まずは攻撃面だが、ビルドアップがアドリブ的過ぎるシーンが多々見られる。この欠点は、ビルドアップミスによってショートカウンターを喰らうリスクがあるということであり、原因はDFラインの立ち位置と思考と技術の質である。前述の通り、両SBは低い位置からのビルドアップ時は、WGとCBを繋ぐような立ち位置を取るものの、相手陣内に近づくほどにSBが高い位置の大外(ピッチのライン際)に立つ。それにより、CBからライン際に立つ選手(この状態の時はSB)までのパスが厳しく、且つ遠くなり、ピッチを広く使って揺さぶることが出来にくくなる。ムシアラが瞬間的に降りて受け、前を向けるシーンや、キミッヒがSBが上がったスペースに降りて繋いでくれるシーンは繋げるものの、基本的にCBの判断がすこぶる悪い為、難易度が高い縦パスを無理やり狙い、”ムシアラが上手かったから奪われなかった”なんてシーンを何度も見ている。この現象から何を言いたいかというと、コンパニ新監督はボールを繋ぎ、保持率を高め、攻めることを志向しているが、繋ぐのが得意でないCBのタレントがそれに見合っていない、ということである。そしてこれが、守備面の欠点に直結している。ハイラインを敷くわりに、両CBが裏ケアが絶望的だ。ラインを見る癖はもちろんのこと、そもそもボールホルダーが顔を上げ、自分のマーカーが走り始めるアクションをした時の反応の悪さが致命的過ぎる。反応が悪い上、体の向きの作り方も到底一流のそれではない。それなのにも関わらず、ボールを保持し、高い位置でボールを回し、難易度が高い縦パスを差す為、より自陣近くで良くない形で奪われ、広大なスペースを使ったカウンターを喰らう。コンパニとしては気付いてから走って追いつければそれでいいと考えているのかもしれない。確かにミンジェもウパメカノも脚は速い。相当速い。ただ、相手のFWももちろん速い。そして上手い。だからこそDFはハイラインを敷いていても裏ケアをする。これがラインを低く設定していれば、背後へのボールにすぐGKが反応できるが、高い位置でポゼッションをし、その上守備時も終始ハイラインのチームにおいて、背後のスペースへのスルーパスと抜け出しは余りにも余裕があるGKとの一対一になりかねない。全盛期のノイアーならどうにかなったかもしれない。しかしそれはただの”タラレバ”。ノイアーが裏ケアが出来ないCBの尻拭いをしようと終始高い位置取りをし、果敢に飛び出す。ただ、それで毎回失点を防げるかといったら甚だ愚問である。GKがゴールマウスから離れる行為は本来最もリスキーだ。それを長年ハイレベルでこなしてきた彼を持ってしても、この両CBの裏ケアをGKが一人で賄い続けるのは不可能に決まっている。分かりやすくボロが出たのがCLリーグフェーズラウンド2アストン・ヴィラ戦であろう。これでノイアーを非難しようなんざお門違いも甚だしい。彼があの立ち位置を取る気持ちはよく分かる。この戦術自体を悪いとは言わない。ちゃんとボールが左右に回り相手を揺さぶれるのなら、瞬間瞬間でボールの付け所を間違えないのなら、CBがドリブルで前進する時にパスコースが限定される運び方をしないのなら、ボールホルダーが裏にボールが蹴れる状態で相手FWが裏抜けしようとしている際にしっかりボールとマーカーを同一視野に入れながら裏ケアが出来るのなら、問題ない。出来るのなら、、、。
CLでは不調も、リーグ戦は好調
バイエルンを線で見ている方も見ていない方も、わざわざ言及せずともこの題目の理由はわかると思うが念の為記載しておく。相手の質である。相手DFの質が上がると、ケインに好き勝手ボールを触らせてくれなくなる。これはケイン自身の立ち位置にも往々にして問題点はある。しかし、国内ではこちら側の攻撃陣の質でねじ伏せられる。国内の相手なら無理な縦パスもムシアラが強引に収めてくれるし、WGがサイドを突破できるし、高い位置をとったSBがクロスを上げ切れる。ケインまでクリーンなボールが届く。相手の質が上がればそうではない。ただこれだけだ。バルセロナ相手となるだけで中々ニャブリもオリーセもサイドを突破できない。裏抜けも少ない。ケインは勿論裏抜けが少な過ぎるし、オリーセも足元で受ける方が好きそうに見える。ニャブリは絶好調なら秀逸な裏抜けを見せるが、今シーズン開始と同時に復帰したこのドイツ人ウインガーはまだそのクオリティを見せてはいない。バルセロナのSBは確かに対人守備が強いかもしれない。ただ、もっと強敵など他にもいる。グヴァルディオル、アケ、ウォーカー、アカンジらが相対するマンチェスター・シティ、カーラフィオーリ、ティンバー、ホワイト、冨安らが相対するアーセナル相手に出し抜けるわけがない。クバルシ、イニゴ・マルティネス相手に1点しか取れないチームが、リヴァプールのファン・ダイク、コナテ、シティのルベン・ディアス、ストーンズ、アーセナルのガブリエウ・マガリャンイス、サリバ、マドリーのリュディガー、ミリトン、スパーズのロメロ、ドラグシン、ファン・デ・フェンetc…..相手に何点取れるというのだ。この人員でこの戦術というのは目標を高く設定すればするほど現実的でない戦い方である。強者のフットボールを強者の質を持っていない選手にやらせてはいけない。
目先の改善と未来に必要なこと
目先の改善策はシンプルだ。相手が格上の時は、低い位置で無理に繋がず、WGの裏抜けに合わせて相手SB裏にロングボールを蹴ったり、ケインが相手SBの位置まで流れてミスマッチを作り、そこにロングボールを送る等、より現実的なビルドアップの択を取るべきだ。ロングボールのキックの名手が我々のボランチにいる。ケインが競り合った後にムシアラが前向きでボールを受けれるようなセカンドボール回収のデザインも加えてすべきである。そして現役時代、怪我さえなければ世界最高峰のCBであったコンパニ新監督は既存のCB陣にDFにおけるノウハウを叩き込んでいただきたい。
だが、長い目で見た時、このスタイルは続けられないであろう。サポーターと選手の両方から不満が出ると考えられるからだ。バイエルンは長年ドイツ最強にしてドイツの象徴、王者としてのメンタリティが備わっている。いや備わってなくてはならない。だからこそある程度ボールを保持し、超攻撃的で高クオリティで大量得点をし、相手を蹂躙する勝者のフットボールを志向する。ハンジバイエルン時代がまさしくこれであろう。これを実現する手段はただ一つ、実現できるクオリティのCBの補強。これに尽きる。ハンジバイエルンにはアラバがいた。ボアテングがいた。そういうことだ。
結言
現在の人員でどう現状を打破するかが監督の腕の見せ所である。今シーズンはこのメンバーで最も勝てる確率を上げられる戦い方をもっと模索してほしい。そして来夏まで、しっかりと補強するCBの剪定を行なっていただきたい。DFの場合、特効薬となることは少ないが、この負傷者が多い時期に若手のアズノウやブッフマンを起用するのも悪くはない。今夏も報道が出たバイヤー・レヴァークーゼンのヨナタン・ターも良いCBではあると思うが、彼一人の補強出来たとしても現状はそこまで変わらないであろう。アラバ退団後、再三繰り返しているが、勝者のメンタルがあり、技術とフィジカルと思考の質が高い超一流のCBを是が非でも補強してもらいたい。我々は本来超一流のクラブチームなのだから。そして勿論、キミッヒやデイヴィス等主要戦力の延長交渉もね。