日中の民間対話から「平和秩序」と「多国間協力」の修復への一歩を【第20回東京-北京フォーラム】
こんにちは。言論NPOの古屋といいます。今日は、目前に迫った「第20回東京-北京フォーラム」(12月3-5日)について、私の方から、12名のインターン仲間を代表して、舞台裏を説明させていただきます。
さて、noteの更新が久々となってしまいましたが、今回の「東京ー北京フォーラム」は、20回目の記念すべき対話となっており、コロナ以降6年ぶりに東京で、対面で行われます。
私はインターンの皆さんと一緒にチームで動いており、「東京-北京フォーラム」の日本側主催者の工藤代表にもインタビューし、その内容を可能な限り、深ぼりしてお伝えしたいと思います。
すでに、言論NPOのHPにて、フォーラムに参加するパネリストを公表しています。中国からは、外交・政治、軍、経済分野などから約50名ものの有力者が東京に集結します。
これほど、ハイレベルな陣容になったのは、最近でも、珍しく、日本からの出席者も50名を超え、日中で合わせて100名以上が、「政治・外交」「経済」「安全保障」「メディア」「デジタル」「平和秩序」「多国間協力」「青年」の8つ分科会で本気の議論を行うことになっています。
今日はその中でも、今年のフォーラムで目玉企画といわれている「平和秩序」と多国間の「協力」をテーマにした2つの分科会について紹介したいと思います!
1.なぜ、「平和」と多国間の「協力」が、特別対話となったのか
実をいうと、このテーマの特別分科会が設けられることが決まるのはそう簡単なことではありませんでした。
工藤代表は、前々から、世界の今の危機を日中のこの対話で話し合おうと、何度も中国側主催者に伝えていたと言います。しかし、中国側は当初は、かなり消極的な姿勢をとっていたようです。
このフォーラムはもともと国民感情の悪化や尖閣諸島問題など日中関係の改善が目的で、別の国や多国間の問題について議論することはあまり考えていなかったからです。
その流れを変えたのが2022年2月のロシアのウクライナ侵攻でした。
実はこの年は、1972年に日中国交正常化が実現してから50年という節目でもあります。
両国が、このアジア太平洋の平和と発展に協力して、責任を果たすと、を合意してから50年がたっています。ところが、お互いの国民感情はなかなか改善せず、政府間の対話もあまり動いていません。
しかし、世界の状況は明らかに変わろうとしていたのです。
この状況を中国と話さずに、この対話が私たちの未来に責任を持つ対話でありえるのか。
それが、工藤代表の決意でした。
ロシアは、国連の常任理事国で核保有国です。その国が仮にどんな理由があろうとも他国を侵略していいわけではありません。世界では、中国はそのロシアとパートナーだと見られているのです。
そこでまず、私たちは世界が平和とは逆方向に進む事態に対して中国国民がどう考えているのか。それを聞きたいと考えました。
私たちは毎年、このフォーラムの前に日中の共同世論調査を行っています。世界で中国との世論調査ができるのは、私たちだけで、世界が注目する調査です。
この設問に、私たちは、「ロシアのウクライナ侵攻」をどう考えるのか、北朝鮮も核開発や台湾海峡の設問を入れたいと、提案したのです。
この経緯は私も同席していたので、よく知っています。中国は、この設問は難しい、と難色を示したのです。工藤代表は何度も交渉を重ねました。
中国側主催者は、世界の平和を考えたい、という日本側の主張には理解を示しましたが、各方面と検討したいというばかりでした。
しかし、工藤代表はこれでは本気の対話ができないと、ねばり続けたのです。 中国側から返答があったのは、調査開始のぎりぎりのタイミングでした。
新規で合意されたのは4問の採用です。その中に、あのウクライナの設問があったのです。中国国民にウクライナを直接尋ねるのは初めてのことです。
そして、調査が行われました。驚いたのは、その調査結果です。ロシアの行為を、「間違い」あるいは「反対」と見ている中国人は50.6%と半数を超えかからです。
当時の状況について工藤代表はこのように語ります。
実は、工藤代表はその時コロナになってしまって、世論調査の記者会見には家から、参加していました。しかし、この内容は、その翌日、日本の大手新聞で一面に掲載されただけではなく、世界で報道されました。
「東京-北京フォーラム」が世界の平和に向けて対話を始めたのはこの時からなのです。
2. 私たちの対話は、どうして、世界の最前線の舞台に躍り出たのか
「第18回の東京―北京フォーラム」はコロナの影響で東京と北京の2つの会場に分かれ、それをオンラインで結ぶ形式で行われました。
東京の会場にはメディアの方も含めて大勢が集まりました。
フォーラムでは、日中共同世論調査についての特別セッションが設けられ、また、「平和秩序」分科会も行われました。
そして、①どんな紛争も最大限の努力を尽くして平和的に解決すること、②共に国際協力を推進し世界の分断傾向をこれ以上助長させないこと、を合意した「平和協力宣言」が発表されました。
その翌年の2023年の「第19回東京-北京フォーラム」では、世界の平和に向けた新たな挑戦に、私たちは取り組みました。
私たちは世界の「核」の問題に取り組むことにしたのです。
この時も、工藤代表の提案から、世論調査に核の設問が入りました。
世界では、核保有国が核兵器を拡大し、ウクライナでは核保有国であるロシアが、核で威嚇がありました。北朝鮮の核開発も動きています。
6割近い中国国民や、半数の日本国民は核戦争の脅威を感じていたのです。
コロナ後初の対面開催は北京で行われました。
私もご一緒させていただきましたが、北京に到着したとき、驚いたのは、北京の別の会場にプーチンロシア大統領がいたことです。ロシア大統領は別のフォーラムに出ており、その翌日に今度は日中の対話が北京で行われるのです。
明らかに、私たちの対話が、中国と世界の平和を議論するという最前線の舞台に躍り出たのです。私は、この対話の大きさを痛感しました。
この時の目玉は、核問題が、特別分科会で開催されたことです。会場は立ち見になるほど、大勢の関係者が集まりました。
この19回目のフォーラムでは、その年、広島でG7を開催した岸田首相(当時)のメッセージも公表されました。
「力による現状変更のための核兵器による威嚇、ましてやその使用はあってはなりません」武藤敏郎実行委員長が、晩餐会で読み上げました。
民間の対話の舞台ですが、日中の参加者は、みんな真剣です。そして、共同声明で、「核なき世界の理想に現実を近づけるために協力して努力する」ということが合意されたのです。(「第19回 東京-北京フォーラム」北京コンセンサス)
―この経緯については、1本のドキュメンタリー動画「平和と核 本音の対話」にまとめられています。工藤が中国側とどのように合意したのか、ものすごい迫力の議論が行われています。「感動」という2文字では収まりきれないほど胸が熱くなったこの動画を、是非皆さんに共有させてください!ー
3 世界の未来に向き合う、次の10年に
2024年、私たちの最大の課題は、この対話を次の10年に引き継ぐことです。ただ、これまでの20年のただの延長ということではありません。「東京-北京フォーラム」は2005年に設立されて以来、この20年間一度も中断せずに行われてきました。
それを、世界の未来に貢献する新しい対話に大きく成長させたい、それが私たちの願いなのです。
この対話は、日中の主催者が10年開催の契約を更新して行ってきました。今年はその契約が終わる年であり、来年以降もこのフォーラムを継続するには、新たな10年契約が必要となっていたのです。
ところが、なかなかその交渉が進まない。それが私たちの最大の不安でした。
工藤代表も、今年の4月から何度も訪中しましたが、ギリギリのところで中央の幹部との面会が実現できないまま、帰国するということが続いていました。
それでも工藤代表は諦めず、約半年間、中国側に呼びかけ続けました。
「第20回東京―北京フォーラム」は12月3日からですが、中国側主催者の事務局から連絡があったのは、10月中旬のことです。
「中国側指導部との面会が来週に決まったので、北京に来ることは可能か」
これを逃してはもう前には一歩も進めなくなる。私たちは、急遽北京に向かうことになりました。
当日の朝、「2時間しか眠れなかった」と話す工藤代表には、朝からものすごい熱気を感じました。
会見室にはその中国側の要人に加え、関係する幹部が並びます。「今日は工藤さんの話をしっかりと伺いたい」という中国側の要人。それに対して、
こう強く訴える工藤代表の熱意は、逐次通訳を介しながらでも、中国側の指導部の胸に届いていると、書記を務めた私の目でもよくわかりました。
中国側は次期10年、この対話を継続することをその場で即決、そして、次期10年はこれまでの延長ではなく、世界の未来に貢献する対話とするという工藤代表の提案が、この時、了承されたのです。
4. 次に10年に向けた第一歩
今年のフォーラムは、開催まであとわずかです。ただそれは、20回目の対話ということだけではなく、次に10年に向けたスタートとなる対話なのです。
メインテーマを、中国と「多国間協力に基づく世界秩序と平和の修復に向けた日中協力」に定められたことも、驚く人はいると思います。
本当に、世界で日中が協力できるかは、まだ誰もわかりません。
しかし、こうした対話の場が地球上に存在すること自体が大事なのです。私たちはそのためにどんな国の人とも努力しなくてはなりません。
「国際協調の旗は世界のどの国よりも高く日本は掲げるべき、それが日本の役割だ」と工藤代表はいいます。
「平和」と「協力」の特別セッションが設けられたのも、そのためです。
ウクライナやガザの戦争をどのように止め、平和秩序を修復するのか。この先いったいどのような世界秩序を目指すのか、世界のガバナンスはどうあるべきか。
こうした、対話があの中国と初めて行われるのです。
私は、今回そうした歴史的な作業に携われたことを本当に光栄に思います。当日実際にどのような議論が行われるか、今から楽しみで仕方ありません。
日本側からは、川口順子・元外務大臣、長谷川祐弘・元国連事務総長特別代表、神余隆博・元国連大使をはじめ、
田中伸男・元国際エネルギー機関(IEA)事務局長
中尾武彦・前アジア開発銀行総裁
西正典・元防衛事務次官
長有紀枝・難民を助ける会会長
神保謙・慶応義塾大学総合政策学部教授
鈴木啓之・東京大学大学院総合文化研究科特任准教授
添谷芳秀・慶応義塾大学名誉教授
河合正弘・元アジア開発銀行研究所長、東京大学名誉教授
古城 佳子 国際法学会理事、元日本国際政治学会理事長
など計12名のパネリストがこの2つの分科会に参加します。
中国側からは、張軍・元国連大使、呉海龍・元在ウィーン国連国際機関代表部駐在代表、朱民・元IMF副専務理事、崔天凱・元外務次官元駐米大使、などが参加します。
日本側の司会はもちろん、工藤代表が行います。
5.まとめ
いかがでしたでしょうか。
数々のドラマを経て設置された、「平和」と「協力」の分科会の大きな意味が皆さんに伝わっていたら嬉しいです。
実はこの2つの分科会、一般の方でも「無料」で傍聴できるので、良ければ是非こちらからお申込みください。席数に限りがあり、残りわずかとなっておりますので、ご希望の方はお早めに!
最後までご覧いただきありがとうございました!