小説「for」 注釈10 マイルス・デイヴィス
マイルス・デイヴィスは「ジャズの帝王」と呼ばれ、最も成功したジャズメン。彼の使った演奏家は軒並み有名になり、後のジャズ界を牽引する存在となる。サックス奏者だけでもリー・コニッツ、ソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーン、ウェイン・ショーターなどその後レジェンドとなる人たちばかりだ。キャリアの初めはチャーリー・パーカーの高弟として、ビバップ黎明期の天才ディジー・ガレスピーのスタイルは踏襲せず、自らのスタイルを構築し得たのは、その心眼あってのことで、マイルスは下手だという一部の批評家の言説を信じてはいけない。見事にデザインされたスペースの多いその即興は、音を敷き詰める方法論よりもさらに高度な審美眼を要し、空間を俯瞰して捉えるセンスが尋常ではないほど研ぎ澄まされていたことをその演奏の記録から読み取ることができる。休符にこれほど重力がのっている即興も無い。
アコースティック・ジャズの極北としてウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムスを擁した黄金のクインテットの4部作で自らアコースティック・ジャズの息の根を止めてエレクトリック期に突入するのも最早神話めいてすらいる。
エレクトリック期でいえば、ビッチズ・ブリュー、イン・ア・サイレント・ウェイあたりとデイヴ・リーブマン在籍時のライヴ作品が所謂ジャズの文脈に於いて重要な作品群と言える。
最晩年の音楽のフォームであってもマイルスのソロだけは圧倒的なクールネスを失わなかった。
***cut up
complete "Live at plugged nickel"はアコースティック・ジャズのもう一つの極北。