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ファースト オメガ イン スペース


オメガから新しいスピードマスターが発表された。マーキュリー計画の宇宙飛行士が個人で身につけて宇宙に打ち上げられたという、オメガ最初の宇宙時計である。

このスピードマスターは1959年に発売された第二世代をオマージュしたもので、ダイヤルのカラーや細かいデザインも当時を踏襲しているという。スピードマスターの宇宙探検譚ファンには垂涎ものかもしれない。

ただ、個人的な感想になるが、果たしてNASAが認めていないこの時計に、どれだけの価値があったのだろうか?という疑問も湧く。というのも、この時計はオメガという企業にとって「最初に宇宙に飛んだ」というだけで、「スイス時計で最初」ではない。「スイス時計で宇宙に飛んだ最初の時計」は有名な話であるが、ブライトリングのナビタイマーの試作品「コスモノート」であった(昼夜のわからない宇宙飛行士のために24時間表示にするよう改造されたらしいが、はっきりいって日常生活では使いにくそうである)。そのブライトリングでされ、「宇宙で初めて」ではない。人類史上初の宇宙飛行士であるソ連時代のガガーリンが身につけていた時計は、シュトゥルマンスキー社というスイスですらない時計メーカーのものであったらしい。


スイス時計初の宇宙時計、ナビタイマー「コスモノート」 24時間計が読みにくそう
人類史上最初の宇宙飛行士ガガーリンが身につけていたとされるシュトゥルマンスキー

スピードマスターが宇宙時計のアイコンである所以は、NASAの正式採用であり、月面歩行で着用されたことである。あるいは、アポロ13号の危機を救った時計という歴史をもつことである。今でも、宇宙空間の船外活動で使える腕時計はスピードマスタープロフェッショナル(プラスチック風防タイプのみ)であるそうだ。マーキュリー計画で個人使用されたというのはもちろん重要な歴史の一部であるものの、ブライトリングのナビタイマーに一歩先を譲ってしまっている以上、それをあまりアピールしても意味がないように思う。

また、オメガのブランディング的にもどうかな、と思う。というのも、宇宙飛行士の「個人所有」である宇宙時計というのは実は沢山ある。例えば、カシオのプロトレックだって何度も宇宙を飛んでいる。スピードマスタープロフェッショナルだけが許されるポジションというのは「NASAの公認」なので、そこからズレた「個人所有」にまでマーケティング展開するのは、いかがなものか。少なくともスイス時計第1号であるブライトリングには勝てないし、宇宙船内用の実用時計としての実績はぶっちゃけカシオに勝てないし、安易なマーケティング展開はオメガがここまで築き上げてきたブランドを毀損しかねないリスクを孕んでいるのではないだろうか。

若田宇宙飛行士と宇宙を過ごしたカシオのプロトレック

さて、スペックやデザインについても簡単に議論しておこう。ムーブメントはプロフェッショナルシリーズと同じ3861であり、マスタークロノメーター認定の精度や耐磁性能に優れた最新ムーブメントだ。ケースバックには「The first omega in space」と刻印がされ記念モデルであることが示されている。そしてデザインは1959年発売当時のスピードマスター第二世代に似せているということであるが、それに関してはそもそもその時代の時計をよく知らないのでなんとも言えない(というか、知っている人はほとんどいないはず)。なので、それについてはあまり議論しない。

個人的には残念なのが、ケースバックをシースルーバックにしなかったこと。1959年の時計の当時の復刻であることをに強く拘るならともかく、この時計はクラシックスタイルであるものの内容はモダンな時計だ。せっかくの最新ムーブメントを鑑賞できるようにしたとしても、ヘリテージモデルのコンセプトは両立できたのではないかなと思う。

もう一つ気になるポイントがあって、3861ムーブメントを搭載する時計として「リューズガードがない」初のモデルであるという点。このムーブメントは手巻きであるため、リューズガードがない方が巻きやすいはずである。その点はプロフェッショナルよりもメリットといえるかもしれない。

どんな人にお勧めか、というとすでにスピードマスターのコレクションを何本か持っていて、今回は記念モデルだからコレクションに追加したい、という人向けだと思う。最初の一本目のスピードマスターを買いたい、という人には通常モデルのシースルーバックでムーブメントを楽しんで頂きたいし、あるいは他のヘリテージモデルの方が個人的にはお勧めです。


基本的には格好いいんだが、もしも買うとしたらシースルーバックじゃないと。。。



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