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TPMT遺伝子について解説。

TPMT遺伝子とは、チオプリンS-メチルトランスフェラーゼ(thiopurine S-methyltransferase)という酵素をコードする遺伝子です。この酵素は、チオプリン製剤と呼ばれる免疫調節薬の代謝に関与し、チオプリン製剤の効果や副作用に影響を与えます。
チオプリン製剤は、白血病炎症性腸疾患などの治療に用いられますが、個人差が大きく、一部の患者では重篤な骨髄抑制や肝障害などの副作用を引き起こすことがあります。
TPMT遺伝子には、酵素活性を低下させる変異(バリアント)が存在し、その頻度や種類は人種によって異なります。TPMT遺伝子のバリアントを持つ患者は、チオプリン製剤の最終的な活性物質である6-チオグアニンヌクレオチド(6-TGN)の濃度が高くなりすぎるため、副作用のリスクが高くなります。そのため、チオプリン製剤の投与量は、TPMT遺伝子の型や酵素活性に応じて調整する必要があります。

TPMT遺伝子に関する最新の研究成果の一つは、日本人におけるTPMT遺伝子の多型の頻度や分布を明らかにしたものです。この研究では、日本人成人157名のTPMT遺伝子型と酵素活性を測定し、その関係を解析しました。
その結果、TPMT遺伝子のバリアントであるTPMT3Cを持つ患者が6名(3.8%)検出され、残りの151名(96.2%)はすべて野生型のTPMT1であったことがわかりました。また、TPMT3Cを持つ患者の酵素活性は、野生型の患者よりも有意に低く、6-TGNの濃度との相関も高かったことが示されました。
この研究は、日本人におけるTPMT遺伝子の多型の頻度や分布を詳細に報告した初めての研究であり、チオプリン製剤の個別化医療に貢献すると考えられます。

TPMT遺伝子に関する最新の研究成果のもう一つは、TPMT遺伝子のバリアントとチオプリン製剤の効果や副作用の関連をメタアナリシスにより検証したものです。
この研究では、世界中の炎症性腸疾患の患者を対象とした17件の研究を統合し、TPMT遺伝子の型とチオプリン製剤の有効性や安全性の関係を評価しました。
その結果、TPMT遺伝子のバリアントを持つ患者は、野生型の患者に比べて、チオプリン製剤の効果が低く副作用が高いことが明らかになりました。特に、骨髄抑制や肝障害の副作用は、TPMT遺伝子のバリアントを持つ患者において有意に高かったことが示されました。
この研究は、TPMT遺伝子の型がチオプリン製剤の効果や副作用に影響することをメタアナリシスにより強く裏付けた研究であり、チオプリン製剤の投与量の決定に有用な情報を提供すると考えられます。

以上のように、TPMT遺伝子に関する最新の研究成果は、チオプリン製剤の個別化医療に向けた重要な知見を提供しています。今後の研究によって、TPMT遺伝子の多型の検出や評価の精度や効率をさらに向上させることや、他の遺伝子や環境因子との相互作用を明らかにすることが期待されます。

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