FOXP2遺伝子について解説。
FOXP2遺伝子は、言語や音声の発達に関連する転写因子をコードする遺伝子で、がん遺伝子の一つでもあります。FOXP2遺伝子は、DNAに結合して標的遺伝子の発現を調節します。FOXP2遺伝子は、ヒトだけでなく、他の哺乳類や鳥類などにも存在しますが、ヒトとチンパンジーではアミノ酸の配列に2個の違いがあります。この違いが、ヒトの言語能力の進化に影響を与えた可能性があります。
FOXP2遺伝子に関する最新の研究成果の一つは、ヒトとチンパンジーのFOXP2遺伝子の下流の転写標的の活性化に違いがあることを明らかにしたものです。この研究では、ヒトとチンパンジーの脳組織からRNAを抽出し、FOXP2遺伝子の発現量と相関する遺伝子を探索しました。
その結果、ヒトとチンパンジーで共通するFOXP2の転写標的は約200個あることがわかりましたが、そのうち約30個はヒトでは強く発現しているのに対し、チンパンジーでは弱く発現していることがわかりました。これらの遺伝子の中には、神経系の発達や機能に関係するものが多く含まれていました。
さらに、この研究では、ヒトとチンパンジーのFOXP2遺伝子の違いが、これらの転写標的の発現にどのように影響するかを調べるために、遺伝子操作を用いてヒトのFOXP2遺伝子をチンパンジーのものに置き換えた細胞株を作製しました。
その結果、ヒトのFOXP2遺伝子を持つ細胞株では、チンパンジーのFOXP2遺伝子を持つ細胞株よりも、ヒト特有の転写標的の発現が高まることがわかりました。このことは、ヒトとチンパンジーのFOXP2遺伝子の違いが、下流の転写標的の活性化に影響を与えることを示しています。この発見は、FOXP2遺伝子が言語や音声の発達に関係する遺伝子であることを裏付けるものと考えられます。
FOXP2遺伝子に関する最新の研究成果のもう一つは、FOXP2遺伝子の変異ががんの発生や進行に関与することを明らかにしたものです。この研究では、がんのゲノムデータベースから、FOXP2遺伝子に変異を持つがん細胞株を探索し、その機能や特性を解析しました。その結果、FOXP2遺伝子に変異を持つがん細胞株は、正常なFOXP2遺伝子を持つがん細胞株よりも、増殖や移動の能力が高く、抗がん剤に対する耐性も強いことがわかりました。
また、FOXP2遺伝子に変異を持つがん細胞株では、FOXP2遺伝子の転写標的の発現が変化し、細胞周期や代謝などの遺伝子の発現が上昇し、アポトーシスや分化などの遺伝子の発現が低下していることがわかりました。
これらの変化は、がん細胞の増殖や生存に有利なものです。さらに、この研究では、FOXP2遺伝子に変異を持つがん細胞株に、FOXP2遺伝子の発現を抑える薬剤を与えることで、がん細胞の増殖や移動の能力が低下し、抗がん剤に対する感受性が高まることを示しました。
このことは、FOXP2遺伝子ががんの発生や進行に重要な役割を果たすことを示しています。この発見は、FOXP2遺伝子を標的とする新たながん治療法の開発につながるものと期待されます。
以上のように、FOXP2遺伝子に関する最新の研究成果は、言語や音声の発達に関係する遺伝子であることや、がんの発生や進行に関与する遺伝子であることを明らかにしています。
今後の研究によって、FOXP2遺伝子が言語や音声の発達にどのように関与しているのか、また、がんに対する治療法の開発につながる新たな知見が得られることが期待されます。
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