マレーシアで多発した「宅配物盗難」

マレーシアの首都クアラルンプールで、配達員による宅配物の盗難が相次いでいたところ、配達員が「日本のグループに雇われた」ことを明かし、意外な展開をみせている。


フィリピンやカンボジアなど相次ぐ海外拠点での日本人犯罪グループが摘発されている中、マレーシアで逮捕された日本人犯罪グループとの繋がりが疑われているのだ。

 宅配物の相次いだ盗難が起きたのは、日本や韓国からの移住者が多いクアラルンプールの高級コンドミニアムだった。

 その盗難が配達員の犯行であるとわかったのが事件の発端だ。

 マレーシアでは日本と同様にオンライン・ショッピングが盛んだが、大きく事情が違うのが、コンドミニアムでは玄関での手渡しが少ないことだ。配達員は宅配物を集合ポストに入れるか周辺に置き、その画像をスマートフォンを使ってSNSで通知するのが一般的だ。

 マレーシアの治安は十数年前と比べてかなり良くなっているが、自宅セキュリティの感覚は変わらず、エレベーターに乗るにはカードキーが必要であることがほとんど。

 そのため、中に入れない配達員は玄関前まで宅配物を持って入ってくることはできない。

 日本人からすれば、通販で買った商品など宅配物が公共の場に放置されることに「盗まれないのか」と心配になるが、現地では配達員が玄関前に来ることのほうが不安なのである。

 多くのコンドミニアムではポストや玄関周辺には警備員がいたり、監視カメラがあったりするが、少し古い建物になると、そういった対策がない場合があり、そこに目を付けたのが悪い配達員だったのだ。

 荷物を盗んでも、配達完了を装った画像を届け先に送っておけば配達したことになり、盗難は他の誰かがやったように見せた。

謎の人物「ヤマシタ」


 しかし、今年3月、シンガポールのショッピングサイト、SHOPEEで買った商品が立て続けに盗難被害が起こった際、同じ人物が配達したものだったことを不審に思った日本人女性が徹底調査。

 その結果、配達時の画像が「配達した」とされる時間より後に撮られていたことなどが判明した。

 最終的にこの配達員は「誰かが盗んだ」はずの宅配物を届け直したが、包装が開封済みとなっており、中身の商品も使用した形跡があった。

 「配達員は直接、手渡しに来たんですが、そのときは相手が犯罪者ですから怖くて、ポストに置いてもらって時間差で受け取りました」と女性。

 彼女はこの件をSHOPEEに報告したが、マニュアル的な回答ばかりで、盗難事件を深刻にとらえる回答は一度もなかった。

 「開封された商品が届いた問題にすり替えられ、返金処理されて終わったんです」

 金を返せば済む問題ではなく、他にも同様の被害があると見た筆者がSNSでこの問題を注意喚起すると、なんと、ほか14人もの似た被害報告が集まった。

 さらにSHOPEEから事情を聞きたいとのメッセージがあったが、話を伝えても返答はなし。さらには配送を担当したSHOPEE EXPRESSも応答はなかった。なんともひどいショッピングサイト側の対応だが、問題はここからさらに発展した。

 怒った被害者の女性が、問題の配達員が働く「SHOPEE EXPRESS」の同僚に苦情を伝えたところ、配達員は他でも複数の宅配物の盗難を行っていたことが分かり、問い詰められて「ヤマシタという日本人の男に頼まれて、報酬をもらってやっていた」と供述したのである。

 「日本人と韓国人を狙えと言われた。開けた中身が高価なものだと、それを持って行き、名前や住所の書かれた配送ごと渡す。彼らは高価な買い物をする外国人のリストを作っていた」

 配達員はこんな話をした後、出勤しなくなってしまったというが、そのヤマシタという男が住んでいたコンドミニアムが分かり、筆者が6月にそこを訪れると、すでに転居済みで、姿はなかった。

 ところが、この部屋を貸した不動産担当者に会うと、驚くべき話が聞けた。

 「彼(ヤマシタ)は昨年12月に1年契約で入居したんですが、2月と3月の2ヵ月は未払いのままいなくなった。部屋は家具や生活用品がないのでまともに生活した形跡に見えなかった。

 コンビニで食べ物を買ったようなゴミがたくさんあり、トイレットペーパーと新しめに見えるナイフ2本、日本の雑誌、それと、古いスマホが17台、接続ケーブルのようなものと一緒に乱雑に置いてあった」

 担当者はここが詐欺グループの拠点になっていた可能性を見て警察に通報したが、そこではヤマシタが契約時に出したパスポートが別の人物から盗まれたものであることも分かった。

 つまり、ヤマシタの名前は偽名だったのだ。


そして11月、クアラルンプールを拠点に特殊詐欺をしていた日本人の男7人が逮捕された。連中は銀行員を装った電話を日本にかけて金をだまし取っていたが、その容疑者たちの姿がマレーシアのニュースで流れると、不動産担当者は「ひとりがヤマシタと名乗った男にかなり似ている」と話し、さらに警察に情報提供をしたのである。

 現時点では同一人物かは分かっておらず、グループと宅配物の盗難事件の関係も捜査の過程にあると思われるが、もしもマレーシア在住の日本人が、犯罪グループのターゲットにもなっていたのなら恐ろしい話。

 被害女性は警察の担当者から「日本人と韓国人は名前で判別しやすいので、オンライン・ショッピングをするとき偽名を使って中国人っぽい名前に変えた方がいい」とアドバイスされたという。

 実のところ、この方法はすでに筆者が実行していた対策でもあったのだが、改めて海外在住者には検討の余地ある一案だと分かった。

 まさかショッピングサイトでのトラブルが特殊詐欺に繋がるとは思わなかったが、海外拠点の日本人犯罪グループは摘発が追いつかないほど増え続けており、居住国に関係なく注意が必要だ。

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