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楽器演奏とソルフェージュ

 フランスのソルフェージュ教育を題材に少し書いてみます。

 近年のフランスの音楽学校や音楽院などでは、本格的に演奏する演奏楽器を選択する前に1年間位、ソルフェージュ的なもの(Formation Musicaleと呼ばれることも多いです)をすることが多いです。義務づけられていることもあります。座学のみかという訳では無く、楽譜を読んだり歌ったりすることもあります。

 これはフランスのしきたりというか伝統というか、分からないのですが、楽譜をDo, Ré, Mi, ...で読むときは音程をつけず平に読みます。リズムは指定通り守って、しばしば読む人が拍を机を叩いてカウントしながら読みます。また、ソルフェージュ的な授業で歌うときは、歌詞を付けたり、Do, Ré, Mi, ...で歌ったりせず、ラララ…で歌うことが多いです。これは恐らく、移調楽器に対応したり、後にクレ読み(7つの音部記号を自由に読むこと)により頭で転調したり、ということを視野に入れたことのように思います。日本でときどき行われている「固定ド唱」のように、Do, Ré, Miで音程ありで歌うことはしません。

 2年目以降、楽器を始めても、ソルフェージュ的な授業と楽器のレッスンと並行して、別に行なわれることが多いです。これに音楽史などが追加されることもありますし、程度が進むとさらに和声や対位法なども選択できるようになります。また、歌詞付きで歌いたい人は合唱のクラスも選択できることもあります。余談ですが、音楽史はフランスの中学の授業にも最近取り入られ、高校受験で必須科目になりました。

 こういった、フランスの音楽教育の方法は長年の伝統かというと、地域差などありますが、実はそう長い伝統がある訳では無いです。年配の先生、元先生の中にはそういう教育を受けていない人もいます。おそらく、70歳〜80歳くらいに世代の分かれ目があるように思います。上の世代の方には「ソルフェージュなんて楽器と一緒にやれば良いのに、何で別々にするのか分からない。」と言う人もいます。

 確かに、ソルフェージュの授業を楽器のレッスンと分離することには、メリットとデメリットがあります。どちらが良いと一概には言えない部分もあるので、とりあえず思いつく限りでそれぞれ書いてみます。

 メリットとしては、その楽器ローカルな知識に偏向せずに幅広い知識を得られることがあります。例えば、チェロの人でしたら、ヘ音記号を中心にテノール記号とト音記号が読めればだいたい大丈夫(もちろんそうでないこともあります)ですが、弦楽四重奏やその他アンサンブルをするときはアルト記号も読めないとスコアを理解することはできません。あるいは、ギターだとト音記号中心になり、その他の音部記号を読む機会は少ないのですが、室内楽・オーケストラなどで必要になることも多々あります。またギターでは、ト音記号も特殊な実音より1オクターブ高く記譜する(実際には記譜よりも1オクターブ低い音が出る)ものを使いますので、普通のト音記号さえ、実際の音程を書き取ったりすることが苦手なギタリストは少なく無いです。あるいはどの楽器でも移調楽器の仕組みを理解することは大事なことで、移調楽器では無い(in Cの)楽器をしている人には後回しにされやすいことなのですが、それに早い段階で馴染むことは大きなメリットです。

 デメリットとしては、しばしばソルフェージュの先生の技量にもよるのですが、ソルフェージュの授業でで習っていることと、自分の楽器でしていることとの関連性が見出せず、全く別の学科のように理解してしまうケースがあることです。一方で理解したこていることを、もう一方に応用できないと二度手間になってしまいます。

 一方、自分の楽器を通してソルフェージュ的なものも同時に学ぶと、その楽器のみの知識に偏向しやすいというリスクはあるのですが、効率良く学ぶことはできるかもしれません。

 日本で行われている個人レッスンの環境では、「楽器を通したソルフェージュ」になりやすいと思います。私もソルフェージュを楽器のレッスンと分離しようと思って週1回くらい、集まってもらってソルフェージュ授業をと考えたり、あるいはレッスンを前後半に分けたりと考えたりすることはよくあるのですが、前者は日程の調整、レヴェル毎のクラス分けなど難しく、後者はソルフェージュの一対一の個別指導のコストパフォーマンスの問題があります。ソルフェージュは楽器レッスンとはやや性格が異なり、グループ指導でも個別指導同様か場合によってはそれ以上の効果が得られることがあります。

 そういうこともあり、私は日本で個人レッスンをしている限りでは、そのメリット・デメリットを考慮した上で、楽器を通してソルフェージュ的なものもできるだけ習得してもらうレッスンを心がけていますが、必ずしもそれが最善の方法と考えている訳では無く、自分でもあまりはっきりと意識したことは無かったのですが、ある人から質問を受けてそれに上記のようなことを答えていく中で、日本のレッスン環境を踏まえた上で選択をしていると再確認して、メモ書きを残してみました。

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