ポルノグラフィティと僕、出会う。

2001年、梅雨。
11歳を迎えた僕はどこにでもいる野球少年だった。スポーツや勉強は得意だったが、流行にはかなり疎かった。

当時の僕はとにかく寝るのが早く(今でも早いが)流行のドラマや音楽番組を観ることができずに夢の世界へ旅立つことが多かったからである。

そんな丸坊主の少年に転機が訪れる。

「お小遣いあげるからCDでも買ってみたら?」

とは母の言葉である。スポ根漫画と野球用具のカタログにしか興味のない息子を心配したのであろう。

丸々覚えている曲など、運動会のダンスに使われた「フラワー/KinKi Kids」ぐらいしか知らないほどの逸材であるからそれも致し方ない。

小学5年生の小僧にとっては大金である5千円札を握りしめて、近くにある小規模チェーンのCDショップへ。

漫画が大好きだった僕は、いつもなら一瞥もくれずに駆け抜けるCDコーナーに人生で初めて足を踏み入れた。

CDの探し方

今の僕なら文明の利器で即座に検索をかけていただろう。CDの探し方がわからないのだ。そもそもお目当てのCDがないのだから至極当然ともいえるが。

そして、フロアを右往左往していた当時の僕にとってはCDコーナーを物色している高校生のお兄さんお姉さんがとてつもなくかっこいい大人に見えたことをよく憶えている。

少し落ち着いてきたところでCDの並ぶ棚を見てみると、ランキングなるものがあることに気付いた。何らかのメディアを基準にしたランキングなのか、はたまたショップ独自のランキングだったのか、今となってはわからない。

そのランキングを眺めていると、一際目についたジャケットがあった。

アゲハ蝶

昆虫に詳しくない僕にもわかる、アゲハ蝶。

空とも海ともとれる美しく淡いブルー、どこか儚さを感じさせる蝶に僕の目は釘付けになった。

今までどこか気恥ずかしい思いで佇んでいた僕の手はあまりにも自然に、そのCDを手に取った。

ポルノグラフィティ

もちろん知らないアーティストであり、本人たちの写真も写っていないので男性なのか女性なのかすらわからない。

しかし、迷いなくそのCDを手に持ったカゴへと放り込んだ。なぜ僕の心がそこまで動かされたのかはわからないが、惹きつけられるには十分な魅力がそのジャケットにはあった。

シングル3枚を購入

もちろんシングル、アルバムの区別などつくはずもなかった僕はランキングに入っていたシングルを3枚購入した。(予算の都合でそうなった)

アゲハ蝶/ポルノグラフィティ
ultra soul/B'z
轍/コブクロ

音楽童貞の小学5年生にしてはかなり渋いチョイスであるが、当時の自分を褒めてあげたくなる。よくやった、と。

その中でもやはり気になるのが「アゲハ蝶」である。

帰り道、梅雨の合間に覗く太陽が夏草の匂いを連れてくる。

僕は家に着くのを待ちきれずにCDの封を開けた。

歌詞カードに写るバンドの面々、ボーカルの位置には女性か。(歌詞カード裏面参照)

歌詞を読む、が、わからない。
陽気な歌なのかしんみりする曲なのか。
ただ、もっと歌詞を読みたいという気持ちは止まらなかった。

CDって3曲が入っているのか、3曲でこんなにも歌詞に違いがあるものなのか、などと考えているうちに自宅に到着した。

一目散に父親の部屋へと走り、小型のCDラジカセを自室へと持ち込む。

CDをセットし、再生ボタンを押す─────。

なぜだかこの後の記憶は酷く薄い。
おそらく夕食のお呼びがかかるまでひたすらポルノグラフィティの3曲を繰り返し聴いていたと思う。

お話はここで終わり。

1年後の2002年、小学6年生にして初のライブ(BITTER SWEET MUSIC BIZ@フェスティバルホール)参戦を果たす少年。

2度目のライブ参戦が2022年になる、なんてことはまだ知らない。

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