2024年の総括そして2025年という時代
小田玄紀です
2024年があと数日で終わり、2025年を迎えることになります。和暦でいうと令和6年から令和7年になります。
思えば、令和という時代は日本だけでなく世界においてもこれまでの時代との連続性を感じさせない様々な出来事がありました。新型コロナウイルスの感染拡大、ロシア・ウクライナ紛争の勃発、安倍元総理への殺傷事件、政権与党の過半数割れなど平成の時には考えられない事案が多発しました。
元号というのは、何か祈念するものがあって付けられることが過去には多くありました。たとえば、「平安」という元号は当時、疫病が蔓延した中で平和で安らかな世界になることを祈念して平安という元号になったとされています。
「平成」という元号は様々な由縁がありますが、バブル経済が1988年まで続き、少し過熱気味だった社会をなだらかにするという意味合いもあったのかもしれません。
「令和」という元号は、その観点ではこの元号が付けられた時の6年前の社会は極めて安定して平和だった時代と考えることができます。令和は英語表記では Beautiful Harmonyとされます。「美しき調和」という含意を元号にすることが出来たというのは、ある意味で、この時点の日本が平和であり、社会により美しさを求めることができる余裕があった時代であると再認識することが出来ます。
もし元号を改定するタイミングが6年前ではなく今だったとすると、もしかしたら異なる元号になっていたかもしれないと思うと、この数年の間に生じた変化の大きさを再認識するところです。
2024年を振り返るにあたり、少し長期的な視座で日本が推移してきたかを考察してみたいと思います。
この表は日本の税収推移となります。2024年度は過去最高税収で73兆円を超える見込みとなりました。リーマンショック時には40兆円を割り込みましたが、50~60兆円台を推移してきましたが、ここ数年で70兆円を超える状況になっています。来年度の税収予測は78兆円という試算が出ていますが、税収予測は保守的に試算することが通例のため、おそらく80兆円を超える可能性が高いです(今年も69兆円程度の資産でしたが73.4兆円という結果になりました)。
なお、税収において最も大きな基盤が消費税であり今年度は24兆円が税収となります。消費税を5%にすると10兆円以上の減収インパクトとなるため、消費税の減税は慎重な議論が必要とされる所以です(実際に高所得者の方が消費税負担額も多いため、消費税減税よりも給付の方が政策としては正しい側面もあります。ただし、消費に与える影響もあるため、総合的な考察が必要です)。
税収は70兆円を超えるまでになりましたが、歳出については110兆円を超えてしまっています。つまり40兆円近い赤字となってしまっています。なお、歳出で最も大きな割合を占めるのは社会保障費です。すなわち、歳出を削れといってもそれは国民への社会保障費を削ることになるので、この点も慎重な対応が必要になってきます。
毎年40兆円近い赤字を補填するために、国債が発行されています。近年では毎年40~50兆円近い国債が発行されています。
そして、この国債発行額は1100兆円を超える金額となっています。なお、先ほど毎年の歳出が110兆円程度と書きましたが、そのうちで国債返済に関わる支出が17兆円程度であり、国債金利が9~10兆円程度となります。つまり30兆円弱が国債返済のための国債発行をしていることになります。
なお、日本の金利が低い理由はインフレ抑制の観点もありますが、もう1つが国債利払費との関係です。現在は金利が0.8%程度のため国債利払費は10兆円弱となっていますが、仮にこれが2%などになると利払費で20兆円を超える歳出となってしまいます。
このように、日本の財政状態は決して健全では無いという見方もあります。ただ、このような現状においても必ずしも悲観的になるべきではないと考えています。
1つは国民金融資産です。今年6月末時点で2212兆円の金融資産となっています。なお、金融資産に含まれない非金融資産として1200兆円程度が別途あります。別途国民負債が300兆円位あるので3100兆円程度の国民純資産があることになります。
世界経済全体としては人口増もあり成長しており、適切な投資をしていくことでこの国民金融資産はこれからも伸ばしていくことが可能となります。
現に、貯蓄よりも投資を優先してきた米国では2000年からの20年間で3.4倍に国民金融資産(家計金融資産)が伸びており、今では1京3600兆円を超えています。イギリスでも2.3倍に増えており、日本は1.4倍の増加にとどまっています。
もし、2000年から日本も米国同様に投資に軸足を置いていた場合、今頃、家計金融資産は5000兆円になっていたことになります。ただ、過去を悔いても仕方ありません。日本政府も投資・資産運用立国を国策の1つに掲げています。適切な投資をすることで、2045年には国民金融資産を6000~7000兆円にしていける可能性も十分にあります。
そして、この国民金融資産が増えていくことで、キャピタルゲイン課税が20%としても増加分で政府にとっては大きな税収になりますし、また、相続税なども財政状況の緩和に寄与することは考えられます。
また、もう1つの可能性が改めて日本全体の産業構造を抜本的に見直し、国としての稼ぐ力を再度高めていくということです。
世界における日本のGDPシェアは1994年が最高でした。この時は世界のGDPの17.8%が日本となっていました。それが、今や4%弱となってしまっています。
しかし、ここで注目すべき点は日本の稼ぐ力が1/4に下がったという訳ではないということです。世界全体のGDPが28兆ドルから105.7兆ドルに4倍弱上がっている中で、日本だけは成長できていないという事実です。
高度経済成長期は飛躍的な成長を日本は遂げてきました。しかし、そこから成長が止まってしまっています。その要因は先進国になったことの驕りかもしれないですし、他の政府から様々な規制をかけられたことかもしれません。
ただ、日本には国民金融資産もありますし、様々な産業基盤やインフラ基盤があります。改めて、この現状を再認識し、成長軌跡に導くことで、国家として成長していける余地は多分にあるのではないでしょうか。
2024年度はGDPが600兆円を超えました。これは円安による影響が多分にありますが、それでも600兆円を超えたのは初めてのことになります。大事なことはここで満足するのではなく、さらに700兆円、そして、1000兆円へとGDPを高めていくことが重要です。
最近は103万円の壁を178万円に引き上げることについて、7~8兆円の財源が必要になると財源問題が1つの議論になっていますが、こうした議論がメインイシューの1つになること自体が間違っているのではないでしょうか。
本来、政府が議論すべきことは、どのようにしてGDPを継続的に成長させるかどうか、そのために稼げる産業をどのようにして育成していくのかであり、日本全体が稼げるようになり、国民の手取りもさらに増えるようにしていくために何をするべきかということではないでしょうか。
限られたパイを政府が取るのか、国民が取るのか(または企業が取るのか)というゼロサムゲームをしている訳ではなく、どのようにして価値を創出していくのかを本来議論がされるべきです。その結果として、政府は税収が増え、国民は手取りが増え、企業は収益力が高まること。この状態を目指すべきだと思います。
なお、この観点で我々はサウジアラビアから学べることが多々あります。サウジアラビアはムハンマド皇太子がサウジビジョン2030というものを掲げ、2030年までに非石油収益を過半数にすることや女性の社会進出を促進するなどのコミットメントを打ち出しました。
このビジョンの最大の価値は、サウジアラビアの政府・企業・国民の多くがサウジアラビアが大きく変革をしていくことを実感しており、2030年のサウジアラビアは今よりもはるかに成長している国であるということを実感していることです。
私は去年、初めてサウジアラビアを訪問しましたが、その時に、ほぼ全て会った方が一同にサウジビジョンについて共感していました。今年、改めて訪問した際にも、1年前に比べてもサウジアラビアが成長していることを実感しましたし、さらに高い成長を遂げていくことのコミットメントを感じました。
それでは、サウジビジョン2030というのはどのようなことが書かれているのでしょうか?一例を紹介したいと思います。
・・・あれ?と感じた人が多いと思います。思っていたのと違う。日本の政党のマニュフェストの方がよりしっかりとしたことが書かれていないか・・・というのが正直なところの初見でした。
もちろん、「女性の社会進出を22%から30%に引き上げる」とか「公的投資資金の資産を6000億リヤルから7兆リヤルに増やす」といった目標も掲げています。ただ、サウジビジョン2030に書かれている内容と日本の国政政党が掲げているマニュフェストの質を比べた場合、決して日本のマニュフェストは劣っている訳ではないのです。
改めて今年、サウジアラビアを訪問した時に何人かに「サウジビジョン2030をちゃんと読んだことがあるのか?」を聞いてみました。半数以上の人はしっかりと読んでおらず、ただ雰囲気でサウジビジョン2030は凄いと思っていたということを確認しました。
ただ、政治の役割は本来はそこにあるのではないでしょうか。政府・国民・企業を1つの方向性に導き、共に成長への道筋をつくることが政治が果たす役割です。その上で、企業や国民が努力をして成果を出していくことが重要なことです。
SVpdf_jp.pdf
なお、サウジビジョン2030の和訳されたものはこちら↑から全文を確認することが可能です。
このような状態を前提として、日本が成長していくために重要な政策をいくつか紹介します。
①エネルギー政策
②生成AI・半導体政策
③暗号資産を含めたWeb3領域の積極的推進
④投資・資産運用立国
⑤自動運転を含めたイノベーティブ技術の導入
⑥適切な観光立国
エネルギー政策は全ての産業および国家財政を考えた際に最重要事項の1つです。
日本のエネルギー自給率は12%程しかなく、主要先進国の中では極めて低い水準となります。毎年30兆円近いエネルギー赤字が発生してしまっています。
太陽光発電が普及したことにより、発電ピーク時には電力をカバーできる状況にはなっているものの、それ以外の時間帯では電気が不足してしまっています。
詳細はこちらのNoteに書きましたので、ここでは割愛をしますが、新産業を日本国内で展開するには電力インフラが必要になってきます。原子力発電の再稼働に加えて、核融合発電所や小型電子炉の導入も真剣に検討をしていく必要があります。
また、ペロブスカイトについても従来の太陽光発電とは異なるシーンで導入できるので、重要な電源になってくる可能性があります。
系統用蓄電池や非常用電源の活用等もこれから大きなテーマになってきます。
エネルギー問題を解消することで生成AI・半導体産業が日本国内で育っていくことに繋がります。生成AI・半導体はこれからの全ての産業領域において必要な基盤となります。
日本政府はAI・半導体予算で10兆円の予算枠を固めましたが、これらは日本国内に10兆円以上のアセットが増えることになりますし、半導体関連事業は収益性も高いために10年程度で税収による補助金回収可能性もあります。
かつて、日本は半導体シェアが50%程度ありましたが、米国からの規制によりこれが数%まで減少してしまいました。皮肉なことに米国が再び日本と共に半導体産業育成を促進しており、中国を意識した半導体戦略網の創出に動いているため、この分野はまさにこれからさらに発展していける可能性があります。
そして、暗号資産・Web3分野です。暗号資産・Web3分野は毎月状況が変わってきます。
これは先週時点の表になりますが、ビットコインは全てのアセットクラスにおいて7位にまでなっています。金の1/8であり、銀を超えています。
この10月末時点で日本国内の口座数も1121万口座を超えました。まさに国民の10人に1人が暗号資産を持つ時代になりました。
現物ビットコインETFは1000億ドルの純資産額となり、金融アセットクラスの1つとなっています。
こうした中で、暗号資産の社会的役割が確実に変化をしており、以前のように資金決済手段としての役割から金融商品としての価値が期待されるようになっています。
こうした中で、個人の所得税を総合課税から申告分離課税に改正すること、暗号資産レバレッジ倍率の見直し、暗号資産ETFの導入についての議論を現在行っており、細部に渡り論点整理がされている状況となっています。今、まさに議論の過程ですが、この3つが実現することは極めて大きな意義があります。
1つが暗号資産の日本への回帰です。2017年は世界中の主要Web3プレイヤーが日本に集っていました。当時は日本が世界のビットコイン取引量の50%以上を誇っており、まさに市場が日本にありました。
しかし、それが現在は1%程度しかなく、利用者預託金も市場全体の1%弱しかありません。500兆円市場の中でたった3兆円弱しか日本に暗号資産がない状況となっています。
FX取引と比べると、利用者預託金は暗号資産の方がFXに比べて大きいものの、年間取引量は2140倍以上の違いがあります。
税制改正、レバレッジ倍率の見直し、暗号資産ETFの導入が実現することで、日本に資産が回帰し、また、非常に大きな取引市場が形成されることが期待されます。
何よりも、これらの産業を創出することに政府として大きな投資が不要となります。半導体産業の場合は10兆円規模の補助金が国内産業形成のために必要になりますが、暗号資産の場合はこうした補助金が不要なのです。この観点からも、如何にルールを変えることが重要かということが理解できるのではないでしょうか。
投資・資産運用立国については冒頭に述べた通りですが、現在の国民金融資産を適切な投資がされることで2045年に5000~6000兆円の金融資産へとすることが出来れば、大きく国家財政の改善にも繋がっていきます。近視眼的な発想では、国民金融資産がこれだけ上がるのであれば金融課税を20%から25%にすればもっと税収が取れるという結論に帰着しがちですが、そうではなく、税率が変わらなくても国民金融資産が増えれば税収は増えます。GDPが上がり、日本政府も税収が増え、国民も手取りが増えること。これこそが日本が実現すべきことではないでしょうか。
ライドシェアについても進むようで進まない均衡状態となっていますが、自動運転はライドシェア反対派の意見も払拭することが出来ます。ライドシェア反対派はドライバーの品質担保や事件発生の逓減を担保するために現在の限定的ライドシェアを主張しています。
しかし、ドライバーが不要となることで反ライドシェア派の主張は崩れ去ります。もちろん、事故時の保険扱いなど検討すべき課題は別にあります。ただ、これこそ政治決断ではないでしょうか。米国や中国ではどんどん自動運転が導入されていきます。もちろん自動運転でも事故は起きますが、高齢者ドライバーの事故発生確率との対比で考えるべき点です。それこそ、初期は1兆円程度の保険基金を政府が創り、自動運転の導入に向けて取組みを実施していくべきではないかと思います。
観光立国についても2030年までに15兆円産業にしていくことが目標となっており、この実現は極めて高い確率で目途がつきました。従来は3兆円程度だった観光収入が15兆円になることは当時は高い目標とされましたが、今では前倒しによる達成も見えてきています。
15兆円という市場規模は極めて大きく、自動車関連産業の総輸出額に匹敵する規模です。
もちろん、観光公害など課題点は指摘されていますが、それこそ、収益の中から最適な対策が図られるべきです。観光収入はほぼ全て、日本としては純収入となります。しかもこれが毎年入ってくるわけです。
交通網を含めたインフラ整備に始まり、地方の雇用創出や文化振興に収入を補完していくことが可能となります。観光客数が増えてきたら、より観光客単価を上げることも今よりもアグレッシブに実施することが出来ます。このことで更なる質の担保も可能となります。
金融立国・産業立国・観光立国この3点が有機的結合をすることで、日本は大きな成長余地があると感じるのは私だけでしょうか。
今こそ、『ジャパンビジョン2030』を打ち出し、政府・企業・国民が一丸となって明るい日本を創出していくことが重要だと思います。それが、令和という時代に生きる私たちに求められている使命の1つだと考えます。
2025年という時代が、その実現のための重要な1年になるように、1日1日を大切に生きていきます。
2024年12月27日 小田玄紀