その社会課題は本当に『課題』か
小田玄紀です
昨日、エアトリ・アスティーダフェス2024東京に参加をし「社会課題先進国の日本がこれから取り組むべきこと」というテーマで登壇させて頂きました。
エアトリ アスティーダフェス2024東京 (ryukyuasteeda.jp)
Web3関連の登壇が続いていた中で、まったく別のテーマであり非常に難しいお題ではありましたが、その分やりがいがあるセッションでした。
お題の1つで「少子高齢化」について議論する内容がありました。この点について、当日参加した方から多くコメントを頂いたので共有させて頂きます。
少子高齢化というと、多くの人が次のようなイメージを思い浮かべると思います。
すなわち、多くの高齢者を少ない若者が支えていくこととなり、これだと社会が破綻してしまうというイメージです。このイメージを想起させるため、「少子高齢化は課題である」ということが言われています。
もちろん、人口が減ることによって経済力が下がることは事実であり、マイナス面は多くあります。ただ、改めて少子高齢化について何がどれだけ課題なのかを考えてみる必要があると思います。
まず、課題点を明確にしてみます。「少子高齢化」は「少子化」と「高齢化」の2つの課題に分けられます。実は「高齢化」については大きな課題ではないのではないかと考えています。
現在、労働環境の改善や業務効率化で70歳でも、場合によっては80歳でも働ける社会になっています。そもそも、数十年前と社会環境が変わっており、勤労の内容も大きく変わってきています。自動化・機械化により労働の肉体への負荷は様々な業種で変化しています。これに加えて健康寿命も増えており、これまでは65歳以上を高齢者と定義していたものを75歳以上にしようという議論もされています。
これまでは65歳を超えると生産人口ではなくなり、65歳以下の生産人口で65歳超の高齢者を支えるという前提で、先ほどのイラストのイメージが形成されていました。しかし、高齢者の定義が変わることで、このイラストが大きく変わります。
高齢者自身が支えられる側ではなく、一緒に社会を支える役割を維持することになります。
今後、さらに労働生産性が向上し、健康寿命が延びる中で、このバランスはさらに均衡的なものに変化してくる可能性があります。高齢化の速度よりも生産性改善が早ければ、不均衡な状態は解消されます。
次に考えるべき問題は「少子化」です。少子化の問題を考える際に、これまでの日本の人口動向を確認する必要があります。
江戸幕府が成立した際に、日本の人口は1200万人程度でした。明治維新の際には3300万人。終戦時点では7200万人程度でした。現在は1億2000万人程度です。
私が小学生の頃は、少子化が問題ではなく人口爆発が問題だとされていました。
ここ200年~400年のスパンで見た場合、今という時代は「少子化」が課題なのか「人口爆発」が課題なのかどちらなのでしょうか。
もちろん、少子化の課題として政府が挙げているのは、このままの出生率だと2050年には9500万人程度になり、2100年には5000万人を人口が割ってしまうことを課題としています。
ただ、本当の課題としては先ほどの高齢化の議論であったように、労働生産人口が減ってしまい、そこで高齢者を含めた経済・福祉社会を成立させることが困難だという点だと思います。
しかし、この時点で高齢者の定義がさらに変わっている可能性もあります。あくまでも冒頭のイラストのようなイメージが先入観としてあり、「少子高齢化」が進むと社会が成り立たなくなるということが前提としてあるために「少子高齢化が課題」となっている事実があります。
「高齢化」の課題を明確にし、「少子化」の課題を明確にすることで、この問題への向き合い方が変わってきます。
生産性の向上が実現することで、高齢化の課題深刻度は緩和される可能性があり、また、少子化についてはそもそも人口推移として日本の適正人口を再考した上で議論されるべきではないでしょうか。
なお、少子化対策については様々な方法が議論されていますが、もし本当の意味で「異次元の少子化対策」をするのであれば、代理母出産や人口授精や人工保育器の利活用を含めて真摯に考えるべきです。ただ、多くの人にとって論理的な壁が生じてしまうため、この議論が冷静にPros/Consで議論されるのはまだ当面先のことになると思います。
何よりも少子化を優先するのであれば、今のテクノロジーで改善することは可能なので、後はどこまでの危機感を社会が持つかだと思いますし、この点が議論すらされないという時点で少子化は問題ではないということだと思います。
人間は動物なので、動物的本能で危機感を覚えたら自然と対処をする能力が備わっています。その時期まで、今はまだ待つ、ということを脳と体が判断しているのかもしれません。
なお、日本では人口が減少していますが世界全体では人口が増加しています。このような中で世界における最大の課題はエネルギー問題だと考えています。
エネルギー問題が解決すれば、食料問題も解決し、また、エネルギーがカーボンフリーなエネルギーであれば環境問題も解決していきます。
この点についても核融合技術が現在はかなりの程度まで進歩しており、今後10年以内に核融合発電が実用化される可能性もあります。
1つの技術が多くの社会課題を解決する可能性もあるので、私たちが社会課題を考える際に、その問題点を特定の視野に囚われて判断することではなく、「その課題は本当に課題なのか。どうやったら解決できるのか」という観点で議論をしていくことが大事だと思います。
その課題は本当に『課題』か、改めて考えてみると見えてくるものがあるのではないでしょうか。
2024年8月2日 小田玄紀