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日本版グリーンリストの開始について

 小田玄紀です

 本日、一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)から会員向けに発表がされメディア向け説明会も実施されましたが、暗号資産審査の効率向上に向けた取り組みとして、日本国内において「グリーンリスト」という制度を導入していくことになりました。

 本件について、JVCEAに昨年9月から副会長として、また、暗号資産審査タスクフォースの責任理事として関わった立場として、しっかりと説明をすることが重要だと考え、協会発表を補足する形で本件の経緯と概要について説明をさせて頂きます。

 まず、これは説明をするまでもないことかもしれませんが、日本では暗号資産審査にこれまで非常に時間がかかっていました。このことが日本における暗号資産の市場停滞の1つの要因になっていたのではないかと考えています。

 私はビットポイントという会社を創業し、6年間程暗号資産交換業の経営に携わっていますが、特に2018年に主要な暗号資産交換業者に業務改善命令が出されてから、業容拡大よりも経営管理態勢の構築が何よりも重要な経営課題となってきました。

 2019年には多くの企業において業務改善命令については解除され、徐々に新規暗号資産の取扱いについても動きが出てくるようになりましたが、それでも新しく暗号資産を扱うにあたっては非常に時間がかかっていました。

 当社のような暗号資産交換業者が新しく暗号資産を扱うにあたっては、まず自社内での審査を行う必要があります。

 当該暗号資産のブロックチェーンを含めて技術的情報に加えて、プロジェクトの審査や当該暗号資産を取り扱うことで自社において課題が生じないような対応が出来るか(ウォレット開発/分別管理の問題など)を含めて多角的な検討をすることが求められます。

 そして、こうした問題をクリアした上でJVCEAに申請をして、JVCEAによる審査の確認が必要になります。

 JVCEAも限られた人員でこの審査の確認を行ってきたのですが、さらにJVCEAとしては新しく暗号資産交換業者になる企業が出てきた場合には当該企業の審査を行ったり、その企業がサービスを展開するにあたって暗号資産の取扱いが出来ないとサービスを開始できないので、当該企業の取り扱う暗号資産の審査確認をする・・・など暗号資産審査が非常に複雑かつ時間がかかるものになっていました。

 このような現状を受け、昨年10月から既存暗号資産(つまり日本国内で既に審査が通っており、他社が取扱いをしている暗号資産)については、審査方法を見直して効率的な審査を実現することになりました。この方法をDCAIといいます。

 このDCAIにより既存暗号資産については審査の精度を維持しながらも、審査の効率化を実現させることが出来ました。

 これは、どういうものかというと、従来はA社が取扱いをしている暗号資産についてB社が取扱い申請をする場合にB社もA社同様の暗号資産審査の書類を提出する必要がありました。そして、JVCEAとしてはB社が提出してきた書類を全て読み込み、課題点がないかを検証していくことが求められました。

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 これは全ての暗号資産が対象であり、たとえばビットコインやイーサリアムなどほとんど全ての事業者が扱っている暗号資産であっても、それぞれの会社が「ビットコインとはこういう暗号資産で・・・」というレポートを提出し、そのレポートをJVCEAがチェックしていく必要がありました。これは事業者にとっても協会にとっても大きな負荷であり、こうした体制があったために審査時間も長くかかってしまうという課題がありました。

 他方でDCAIについては、既に提出をされている情報から差分が生じた場合について、その差分について入力をすればよいことになりました(もちろん、それ以外に別途自社で取り扱うことについての自社リスクの分析などは必要になります)。

 この手法を導入したことにより、暗号資産交換業者側としても既存暗号資産については審査書類の作成が効率的になり、また、JVCEAとしても審査確認すべき点が限定されるようになったために、審査精度を崩すことなく審査の効率化を実現することが可能になりました。

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 これはこれで一定の効果があり、昨年10月までに滞留していた暗号資産審査について、一定の量がこの対応変更により改善されつつあります。

 ただ、これで満足していては日本の暗号資産市場における出遅れを取り戻すことは出来ません。暗号資産審査タスクフォースとして、さらなる改善対応が出来ないかということを考え、アメリカで導入されているような「グリーンリスト」を日本においても導入出来ないかということになりました。

 グリーンリストの概要がこちらになります。

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 こちらに記載の通り、
 
 ①3社以上の会員企業が取扱いをしている暗号資産
 ②1社が取扱いを開始してから6か月以上の期間が経過している暗号資産
 ③その取扱いにあたって、協会が付帯条件を設定していない暗号資産
 ④その他、協会にて本リストの対象とすることが不適当とする事由が生じていない暗号資産

 についてはグリーンリスト対象となることになります。

 そして、このグリーンリスト対象企業になった暗号資産については、後述するグリーンリスト適用可能企業においては、JVCEAの審査確認を経ずして自社の審査を適正に行うことで、届け出のみで取扱いを可能にするというのが今回のグリーンリストの制度です。

 大事なことなのでもう1回言います。

このグリーンリスト対象企業になった暗号資産については、後述するグリーンリスト適用可能企業においては、JVCEAの審査確認を経ずして自社の審査を適正に行うことで、届け出のみで取扱いを可能にするというのが今回のグリーンリストの制度です。

 そして、大事なことをもう1つ言います。これはアメリカやシンガポールの話ではなく、日本の話です。

 現時点において当該グリーンリストの対象となるのは以下の暗号資産になります。

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  (注釈:当初発表時にはLINKが含まれていましたが、後日要件を満たしていない事が確認とれたためにLINKは対象外となりました)


 こちらに記載の暗号資産(LINKを除く)が現時点におけるグリーンリスト対象であり、今後、対象要件を満たす暗号資産が増えていけば、漸次増えていきます(なお、もし当該暗号資産に付帯条件などが付与される場合などが生じた場合にはグリーンリスト対象外になることももちろんあり得ます)。

 3月末時点においては、17種類の暗号資産がグリーンリスト対象になっています。これも非常に大きなことではないでしょうか。海外に比べて、日本の暗号資産交換業者は取扱暗号資産が少ないことが市場が活性化しない大きな要因の1つでした。

 当然、まだまだ改善していくべき施策はありますが、日本が世界に伍していくための大きな一歩になるのではないかと考えています。

 なお、このグリーンリストを利用できる企業にはいくつか条件があります。これは専門的なところを含むので、詳細は割愛しますが主な要件としては次のような条件になります。

 ①JVCEAの第一種会員企業であること
 ②金融庁からの報告徴求命令・業務改善命令または業務停止命令などの不利益処分が発出されていない会員企業であること
 ③会員として暗号資産を取り扱う業を利用者へ提供開始してから6か月以上の期間が経過している会員企業であること
 ④JVCEAがモニタリングや監査等をとおして、内部管理体制など、十分な経営管理態勢が認められると確認し、金融庁へその旨を報告する会員企業であること

 上記の要件を満たす暗号資産交換業者であればグリーンリスト制度を活用することが出来、また、自社が対象企業かどうかというのは近日中にそれぞれの会員企業に対してJVCEAから通知が行くこととなっています(なお、私自身はあくまでも暗号資産審査の全体的な改革のみに携わっており、個別の暗号資産審査やグリーンリスト企業を選考するところには携わっておりません。これらは全てJVCEAの複数の部署で審査を行い、取り決めをしています。そのため、どこの企業がグリーンリスト利用可能企業になったかというところは関与していません。あくまでもJVCEAによる公平・公正な審査が行われるべきなので、この点については距離を置いています)。

 以上が本日発表されたグリーンリストについての経緯および概要となります。

 2017年4月に世界で初めて、暗号資産(当時は仮想通貨)に関する法律が制定されたのが日本です。そして、2017年には世界全体のビットコインの出来高の51%以上が日本円で取引されるという時代もありました。

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 今、暗号資産はその中心が欧米になっています。ただ、まだゲームは始まったばかりだと考えています。

 NFTやメタバースなどこれから暗号資産・ブロックチェーンを活用した市場は様々出てきます。WEB3.0社会において日本がどのような戦略を取っていくのか、これは非常に重要なことであり、これからの戦略次第では再び日本が暗号資産・ブロックチェーンの一角を担うことが出来ると考えています(以前は「中心になれる!」と言っていたのですが、最近少し謙虚になって「一角を担う」と表現にしてみましたw)。

 税制改正や会計基準の整備、そして暗号資産・ブロックチェーン企業やエンジニアに対する様々な配慮などまだまだ日本として取り組むべき課題はあります。しかし、これまで大きな制約の1つとなっていた暗号資産審査について、少しでも改善に繋がる施策を発表出来たことは意義があることだと考えています。

 なお、暗号資産審査タスクフォースとしての取組みはもちろん、これで終わりではありません。今回のグリーンリストについては既存暗号資産について、その審査プロセスを改良するものですが、今後は日本初暗号資産であったりICO/IEOに関する見直しも図っていく必要があります。

 これらについても1つ1つ、取り組むべき点を取り組んで参ります。

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 また、最後に個人的に声を大にして言いたいことがあります。それは、今回のグリーンリストですが、これはJVCEAのメンバーの協力があって初めて実現をすることが出来ました。最近も一部報道にてJVCEAが業界の発展を阻害しているのではないかという指摘がありました。

 たしかに、以前にはそうした点があったことは事実かもしれません。ただ、私自身も副会長として携わるようになり、今回一緒に暗号資産審査タスクフォースとしてプロジェクトに関わるようになり、JVCEAの皆さんが日本の暗号資産市場を活性化するために動いているということを強く感じました。

 批判することは簡単ですし、また、実際にこれまで様々な制約があり国内市場が低迷していたことも事実です。ただ、批判からは何も生まれません。大事なことは現状分析をし、それに対して課題となる施策を講じていくことだと思っています。

 今回、暗号資産審査タスクフォースは私以外にFXcoinの大西知生社長やJVCEAの石川さん、田頭さん、伊藤さんと一緒に進めており、このメンバーがいたからこそ(そして、このメンバーを支えてくれている皆さんもいたからこそ)グリーンリストの実現が出来ました。また金融庁の方々も積極的なアドバイスや建設的なご指摘を頂いたために今回の実現に至ることが出来ました。多くの人の手により支えられて実現したのが今回のグリーンリストです。

 1つの大きな1歩ですが、まだたった1歩だと思っています。

 日本の暗号資産市場が健全に成長し、日本にとっても暗号資産・ブロックチェーンが貢献できるように、これからも出来ることを1つ1つ実現していきます。

 2022年3月22日 小田玄紀

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