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経営に活かしたい先人の知恵…その18


◆見識のない人間に部下を持たせてはならない◆



 中国の古典『書経』に「徳に懋(つと)めるは官に懋めしめ、功に懋めるは賞に懋めしむ」とある。
「徳」のある人間には官職(地位)を与え、仕事で実績を残した人間には金銭を与えるとの教えだが、これは西郷隆盛の「南洲翁遺訓」の第一に紹介されてもいる。

〝経営の神様〟のほか〝人事の名手〟とも呼ばれた松下幸之助さんは「人事の要諦は」と、聞かれた際、次のように答えている。「功労があった社員には賞(金品)で報いるべきで、地位を与えてはならない。地位を与えるには、地位に相応しい見識がなければならない」。

 地位を与えるとは部下を持たせること、見識とは、知識プラス判断力と考えればいいだろう。まさに『書経』の教えそのものだ。

 一般的には、仕事で功績のあった人間を昇進させ、部下を持たせる。いくら見識があっても、成果を出していない人間を昇進させるわけにはいかない。しかし、仕事ができるからといって、見識のない人間に部下を持たせてはいけない。なぜなら、そうした上司は、自分で仕事を牛耳ろうとして、組織が機能しなくなってしまうからだ。

 プレーヤーは、専門知識と実行力があれば成果を手にすることができるが、部下を持つ管理職はそれだけでは務まらない。プレーヤーとして功のあった社員を管理職に登用したいのなら、その職に求められる能力と、果たすべき役割を事前に教え込んでおく必要がある。管理職は、部下の持てる能力を引き出し育て、チームの業績を向上させる役割を担っているが、その見識を持っていなければ、到底できるものではない。

 昇進人事の難しさはドラッカーも指摘するところだ。あらゆる組織において、人材の最大の浪費は昇進人事の失敗であることを目にしてきた。昇進し、新しい仕事を任された有能な人たちのうち、本当に成功する人はあまりいない。無惨な失敗例も多い。もちろん一番多いのは、期待したほどではなかったという例である。その場合、昇進した人たちは、ただの凡人になっている。10数年にわたって有能だった人が、なぜ急に凡人になってしまうのか。私の見てきた限り、それらの例のすべてにおいて、昇進した者が、新しい任務に就いてからも、前の任務で成功したこと、昇進をもたらしてくれたのと同じやり方を続けている。その挙げ句、役に立たない仕事しかできなくなる。正確には、彼等が無能になったのではなく、間違った仕事のやり方をしているために、そうなっているのだ」(ドラッカー)。

 昇進人事を成功させるためには、見識のある人間を選び、その上で新しい任務が要求することを徹底的に教えてから、登用すべきなのである。


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