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初秋に紅く色づく「ホオズキ」

「酸漿根(サンショウコン)」として知られる生薬

9月は残暑の厳しい日もありますが、植物にとっては少しずつ秋から冬へと向かう準備が始まる時季でもあります。初旬頃から路傍や畑、庭などに生育するホオズキが紅色に変わり、緑と紅の見事なコントラストを見せはじめます。

夏の風物詩のひとつである浅草寺の「ほおずき市(鬼灯市)」で販売されるのは、ホオズキの中でもアメリカ原産の「センナリホオズキ」などです。この市は、1804年ごろに芝の愛宕神社のご神託によって雷よけ祈願で始まったのですが、現在は浅草寺の市のみが有名になりました。市が行われるのは浅草観音の結縁日で、この日に参詣すると人間の理想の寿命である46,000日(約127年)の功徳があるとされ、買ってきたホオズキを煎じて服用すると、子どもの虫を封じ、女性の癪(しゃく)に効くと信じられていました。

ホオズキは東南アジアの温帯、暖帯にまれに自生しますが、通常は観賞用に植えられた多年草です。初夏にナスの花に似た小さな白い花を咲かせ、後に球形の実を結びます。同時にがくが膨らんで果実を包み、徐々に広印形に生長し、やがて風船に似た袋の中の実も赤くなります。

『新訂牧野新日本植物図鑑』には、ホオズキ、瓔珞ホオズキ、千成ホオズキ、山ホオズキ、青ホオズキ、伊賀ホオズキ、裸ホオズキ、龍葵、照実の犬ホオズキの9種が収載されています。

植物名の由来は種々あります。『古事記』(奈良時代)には、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の目玉は赤加賀智(アカカガチ)のようだとありますが、「カガチ」とはこの頃のホオズキの呼び名でした。平安時代までは「奴加豆支(ヌカズキ)」、その後「酸漿(ホオズキ)」になっていきました。漢名の酸漿は酸味があって水分が多いことによります。別名には「灯籠草」「洛神珠」などがあります。中国には少女に絡む名が多く、「紅姑娘」「姑娘花」などの名があります。貝原益軒著『花譜』(江戸時代)には、「女児其なかごをさりて、好んで口中にふくみ鳴らす。或るいはふきあげて、たわむれんとす」とあります。ホオズキの名は少女が頬を突き出してホオズキ鳴らしをすることに由来するという説もありますが、『大和本草』(江戸時代)には、蟄(ホオ)という臭虫が好んでホオズキの葉を食べるからと書かれており、日本の植物分類学の父といわれる牧野富太郎博士もこの説を採用しています。

くさむらの 葉がくれなりし 酸漿も 秋づく色に ととのひにけり

土屋 文明

鬼灯の一つの花の こぼれたる

富安 風生

学名はPhysalis alkekengi。属名はギリシア語のphysa(水泡、気泡)で、膨らんだがくの姿に由来し、種小名はホオズキのアラビア語です。

薬用としては、7~8月の開花中に根茎を含めた茎葉を日干しにした生薬を「酸漿根(サンショウコン)」と呼び、咳止めや解熱、利尿に用いられています。

食用ホオズキは北アメリカ原産で、全体が黄白色です。そのままの姿で料理として食べたり、砂糖漬けやジャムにしたりすることもあります。ホオズキの味はほとんどなく、かすかな酸味と甘味があります。

花言葉は「自然美」「詐偽」です。

出典:牧幸男『植物楽趣』

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