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お正月飾りに欠かせない「ウラジロ」

利尿剤やシダ細工にも利用

年の瀬になると、しめ飾りをはじめ、梅やフクジュソウの盆栽、ダイダイなど縁起の良い植物を飾って新年を迎える風習があります。古くから吉祥植物として親しまれてきた「ウラジロ」もそのひとつです。いつ頃からお正月飾りに使われるようになったのかという記録は残っていませんが、「裏を出そうか、表を出そか、おしめ飾りは、裏を出せ」という都々逸(どどいつ)風の言葉が残っていることから、古くから新年の飾りに用いられてきたことがうかがえます。
一般に、正月の門松は先祖の霊を招き寄せる「依り代」として知られています。ウラジロは群がって生育することが多いため、先祖の霊魂が宿っている場所と信じられてきました。お正月に御精霊様をお迎えするために、ウラジロの葉を折って門松に飾るようになったようです。
ウラジロには悪霊を払う霊力が宿っているとも信じられており、徳川家康の有名な「前立のウラジロ」のように、兜の前立に鉄で作ったウラジロがよく使われました。
また、葉柄の先端に葉が左右向き合って出るため、夫婦和合の意味もあり、白い葉裏は、ともに白髪になるまでの縁起とする説もあります。花言葉も、「永遠の契」です。

ウラジロは関東以南、新潟以西の暖地の山中に生えるウラジロ科の大型多年生草本で、やや乾燥した地に大きな群落を作ります。葉の表は濃い鮮緑色、裏面は葉から分泌された蝋物質により白色で、葉脈上に胞子嚢を持っています。針金のように細い葉柄は、光沢のある褐色です。葉の伸び方が独特で、葉柄の頂点から左右に二分して葉片がつき、その分岐点の頂端に芽が出るという特徴があります。翌年にはこの芽からさらに葉柄を伸ばし、その先端から左右に葉片を出すことを繰り返すので、大きいものでは高さ3mほどに成長します。繁殖する際は、茎を地上に出さず、地下茎を横に伸ばします。

ウラジロの名前の由来は、葉の表が濃い緑色なのに対して裏が白いことから「裏白」の漢字があてられました。「歯朶(しだ)」という呼び名もあり、歯を齢になぞらえ、齢が延びる長寿長命のめでたい植物であることを表しています。また、小葉が羊の歯に似ていることから「羊歯(しだ)」という呼び名もあります。今日では歯朶も羊歯もシダ類全般を指し、ウラジロに限定されません。『新訂牧野新日本植物図鑑』では漢名を示さず、別名「ヤマクサ」「ホナガ」「モロムキ」「ヘゴ」など、カタカナで表記されています。ヤマクサ=「山草」は山に生える草のような植物のこと、ホナガ=「穂長」は大身の槍の穂先のように長いこと、モロムキ=「諸向」は群落に育成する葉が一様に面を揃えて向いていたり、葉柄の先端の葉が左右向き合っていること、ヘゴ=「杪欏」は大形のシダを意味しています。
ウラジロが詩歌に詠まれるようになったのは、江戸時代以降です。

柱より 裏白の葉を 落としゆく 鼠けうとく 寒き明け方

与謝野晶子

名こそかはれ 江戸の裏白 京の歯朶

正岡子規

薬用には冬に地上部を採って刻み、日干しにしたものを煎じて利尿剤として用いられます。
ウラジロの主な用途は正月飾りですが、葉柄が針金のように硬く、光沢のある茶色なので、箸に加工されたり、菓子器、盆などのシダ細工にも利用されています。

出典:牧幸男『植物楽趣』

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