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生薬百選50 天門冬(テンモンドウ)

今から10数年前のある日磯釣りをしていると、連れが一言「クサスギカズラがある」と発しました。クサスギカズラとは何か?と思い、後でインターネットなどで調べてみますと、本州から九州の海岸崖地に生育するユリ科の多年草、根は生薬として使われることがわかりました。そういえば私も伊豆〜沖縄の海岸で見たことがあります。見た目はまさに杉のような葉っぱのカズラで、弊社研究所の圃場(極寒の長野県)でも枯れずに生きています。ラテン名はAsparagus cochinchinensis Merrill (ユリ科)で、その名の通り野菜のアスパラガスの仲間です。芽生えの時期は写真右のようにアスパラガスによく似ていますが、大きくなるとクサスギカズラはツルになるので簡単にわかります。

生薬ではテンモンドウと言い、漢字は「天門冬」と書きます。何やら「毘沙門天」に似た何とも偉そうな(?)字で、北方の勇・上杉謙信と関係があるのかと思いきや、上で述べましたように南方系の植物ですので全く関係ないと思われます。生薬百選46で紹介した「麦門冬(バクモンドウ)」と同じユリ科で名前が似ています。漢方ではこの2つの生薬を併せ用いると作用が増強し合うということで、鎮咳、去痰効果を期待して「清肺湯」、「滋陰降火湯」に用いられています。また天門冬は酒に浸して用いるのに適した生薬の1つです。中国三千年の薬と薬法の集大成である「本草網目」中に69種の薬酒が収載されていますが、その中で「天門冬酒」として収載されています。日本では国の公定書である日本薬局方に収載されており、「本品はクサスギカズラAsparagus cochinchinensis Merrill (Liliaseae)のコルク化した外層の大部分を除いた根を、通例、蒸したものである」と記載してあります。

性状は「紡錘形〜円柱形を呈し、長さ5〜15cm、径5〜20mm、外面は淡黄褐色〜淡褐色を呈し、半透明でしばしば縦じわがある」とされておりまして、写真下のようにきれいな半透明のアメ色をしています。収穫したものは小さなサツマイモのようで、薄い外皮が付いています(写真下)。外皮を剥ぐと中は無色半透明ですが、そのまま乾燥すると白い不透明な塊となり、市販の生薬とはかなり外観が異なりました。加熱処理した後に乾燥すると半透明になるようです(写真上の右側は沸騰したお湯に1時間漬けた後に乾燥したもの)。

成分としてはサポニン類、β-シトステロール、でんぷん、多糖体、アスパラギンなどが含まれているとのことです。ちなみに、アスパラギンという成分はアスパラガスからはじめて単離されたためこの名がついています。

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天門冬(テンモンドウ)


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