生薬百選 96 杏仁(キョウニン)
今回は「杏仁」を取り上げます。アンズの果肉と核を分離し、硬い核を乾燥した後、割って仁を取り出し更に乾燥したものが杏仁です。生薬として使うときは「キョウニン」、菓子類など食品に用いる場合「アンニン」と読むのが一般的のようです。
アンズ(Prunus armeniaca L.:バラ科)の起源は中国西北部の比較的乾燥した地帯で、日本へは古く奈良時代に中国から伝わったとされ、「唐桃」とも呼ばれたようです。杏仁は主に薬用(咳止め薬)として利用されてきました。
成分としてはアミグダリン(Amygdalin)を3%程度含みます。咳を鎮める効果があることから、漢方処方では麻杏甘石湯や麻黄湯・大青竜湯・桂枝加厚朴杏仁湯などに配剤される重要な生薬です。特に桂枝加厚朴杏仁湯では発汗・発散作用がある桂枝、鎮咳・去痰作用のある厚朴・杏仁、鎮痛作用のある芍薬、他に生姜・甘草・大棗などを配合した処方で、咳や痰を伴うかぜや気管支炎に用いられます。アミグダリンは青酸(シアン)配糖体ですので注意が必要です。採油後の杏仁を水蒸気蒸留して得られるキョウニン水は日本薬局方収載の医薬品で、咳止めに用いられますが過剰摂取に注意が必要で、医師の指導の下で用いるのが適当です。
医薬として使われるアミグダリン含量の多い杏仁を苦杏仁(クキョウニン)と呼ぶのに対して、食品には杏仁(アンニン)、甜杏仁(テンキョウニン)または甘杏仁(カンキョウニン)と呼ばれるアミグダリン含量の少ないものを用いてきました。明治時代以降に南京・上海からの中国料理が庶民生活の中に浸透し一般化するにつれて、杏仁豆腐(アンニン豆腐)は中国デザートとして広く親しまれるようになりました。ベンズアルデヒドの香りが特徴で、今では中華料理に限らずポピュラーなデザートメニューとなっているのはご存知の通りです。もっとも、近縁種であるアーモンドやそのエッセンスを加えて作られた杏仁豆腐も多いようです。アンズの栽培は欧州に1世紀ごろ、北米には18世紀に広がったとされています。地中海沿岸、米国カリフォルニアが世界的な産地となっており、果肉を加工したさまざまな食品(ジャム、乾燥品、シロップ漬等)は私達を楽しませてくれています。
子供の頃、お祭りの屋台で買ってもらった「あんず飴」の甘酸っぱい味と口中に広がるアンズの香り、今でも忘れることはできません。我国では長野県千曲市(旧更埴市)が「杏の里」として有名です。3〜4月に濃いピンクの花が咲き、6月下旬〜7月にかけて黄〜橙色の果実を楽しむことができます。熟すとエステル香の極めて良い香りを放ちます。果実の生食はよく熟さないと酸味が強く香りも十分でありません。また丁寧に扱わないと褐変し易い果物です。
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杏仁(キョウニン)
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