監査法人を辞めて、素晴らしい環境の会社への転職に成功したのでまとめてみた
筆者の公認会計士としてのキャリアは今の自分の能力の礎となっており、決して否定するものではなく、筆者を支えてくれた監査法人・上司・同僚には感謝しかない。
今も公認会計士として働く同期にしばしば会うし、彼が誇りを持って仕事をしていることに対してはこの上ない敬意を持っている。
以下では、監査法人というザ・公認会計士的なキャリアから違う方向に舵を切った者がその判断に至る過程での思いを忌憚なく語っているのみであるので、その点について誤解のないように留意願いたい。
筆者が望む仕事・生活
筆者は証券会社を経て、公認会計士試験に合格し、監査法人で働いていた。
多忙な日々を送るうちに気づけば30歳を超えて、転職限界年齢を意識するようになった。
これまでを振り返り、この先を考えた結果、監査という仕事が自分の価値観に合致しておらず、一生続けることはできないと思った。
もちろん、当初は会計士としてのプライドもあったので、会計士らしいキャリアを想像したこともあった。
ただ、どうしても価値観が合わないのでモチベーションが湧かない。
能力や知識は努力次第でなんとでもなるが、モチベーションはどうにもならないので、絶対にこの組織でトップ層には入れないだろうと悟った。
そして逆に、次こそは自分の本当にやりたいことをやりたい、やらなければならないと思うようになった。
公認会計士のキャリアは、狭いようで広く、広いようで狭い。
MS-Japanやマイナビ会計士やRexなど、会計士の転職エージェントは色々存在するが、会計士のキャリアとして紹介されるのは大体同じような案件である。
監査しか経験のない者に提示される求人は、事業会社の経理・内部監査、証券会社の上場審査、税理士法人、税理士事務所、大監査法人・中小監査法人、財務アドバイザリー(FAS)などだ。
年齢次第では、上記の中からも選択肢は消えてゆく。
項目としては多岐にわたるが、やることという意味では一辺倒である。
要は、「決まり」に詳しくなって、それに従った処理をするか、それに従った処理がされているかを確認する仕事だ。
そういうのは正直もういいかなと思った。
筆者はもともと新しい・面白いモノ好きで、新卒採用で狙っていた会社群は主にエンタメ・アパレルなどで、クリエイティブでキラキラした仕事をしたいと思っていた。
色々あって全く違う方向に来てしまったけれど、年齢的にもそっち側に行ける最後のチャンスだと思った。
また、監査法人やFASを経験して、長労働時間にも限界を感じていた。
それでいて長期休暇も使えなかったし、有給もほとんど期限切れで失効していたし、問題が明るみに出るまでは残業代も一部しか付けられなかった。
毎日帰宅ラッシュに逆らって事務所に戻り、深夜まで作業するという日々を10年近く続けていた。
監査法人が入居するビルの飲食店のテナントでは、17時くらいから飲み会が始まるけれど、あれは一体どういう人たちなのだろうと思っていた。むしろそれが普通だとは思いもしなかった。
明らかに自分の労働形態がおかしいのだけれども、同じ仕事の人はみんなそうしているのでそれが当たり前で疑うこともなかった。
産業医面談でも異常性を指摘されても、逆に呑気な医者だと思っていた。
ところが、朝まで残業を連日繰り返すうちに、ある時体調を崩してしまった。
サビ残や有給を使えなかった悔しさや死を意識したりする中で、これを機に長時間労働はやめたいと思うようになった。
そして、望めば毎日「7時間」以上睡眠できる労働環境が欲しいと思うようになった。
また、それでいて収入は下げたくない、むしろ上げてゆきたいと思った。
欲張りすぎだろ!と思われるかもしれないが、運良くそれらの願望を叶える転職ができたので、転職に至るまでの経緯と結果・感想について以下にまとめてみた。
仕事の価値観に共感できなかった
筆者の受験生時代の公認会計士のイメージといえば、一等地のオフィス街で財務的な指摘・指導をする、いわゆる花形でキラキラした仕事だと思っていた。
最近は改善していると思うが、実際は1-3年目くらいは現場への調書や会計監査六法の発送・回収、残高確認状という債券債務の金額の確認(郵送)の作成・発送・回収・再発送、証憑突合というリストと証憑の金額の一致確認、内部統制監査という会社担当者が決まり通りに仕事をしているかのチェックなどがメインだった。
まさに「作業」であり、とっても地味だった。
その後、主査を担当するようになると経営者・監査役や事業部長などとのコミュニケーションが増えるので少しマシにはなったが、なんだかんだクライアントの会社で起きたことが財務諸表に正しく記載されているかどうかを判断する仕事以上にはならないので、フロントに立つようになっても地味だという印象は変わらなかった。
また、監査チームを背負うようになると、パートナー・クライアントの会合の日程調整、監査調書(ツール)の形式的要件の充足、チームのリソース確保、部下の未完業務の代行・完遂など、「作業」がどんどん増えてゆくし、誰にも頼れなくなってくるので、「孤独」という要素まで付加される。
その割には給与もそれほど上がらないので、中堅シニアスタッフくらいまでは割が悪くない仕事と思えていたが、段々とそうも思えなくなった。
大きなイベントといえば毎年の会計基準の改正であるが、これは主に海外に徐々に合わせてゆく変更であり、価値を生まずに工数ばかりかかる。
そもそも海外の基準を導入すればよかったのにとしか思えないし、こんなことのために大金を払って対応をしないと証券取引所に上場を維持できないなんてどうなっているんだろうか?と疑問が絶えなかった。
他にも制度という面で言えば、四半期レビューの導入により期末の有価証券報告書提出タイミングで次のQ1の四半期決算が始まる鬼スケジュールだし、作成書類も会社計算書類・決算短信・有報と同じようで違う書類を作らなければならないし、しかもそれらの作成が手作業なので、基礎資料のフォームはバラバラだし精度も担当者のレベルに大きく依存するし、IFRS採用企業は日本基準で計算書類を作った後にIFRS調整して短信と有報を作るという奇妙な制度だし・・・など、パッと思い当たるだけでも引くくらい鬱仕様が多い。
もちろん各社各様なのは監査していてわかってはいるものの、標準化・自動化により試算表まで作れば全種類の開示書類がかなりの割合で完成するくらいまで出来そうな気がしてならないし、とっくにその水準かその先に立ってる業界なんていっぱいありそうだ。
こういった共感できない「決まり」に従うだけの毎日に、徐々に嫌気が差してきて、いつしか仕事に行くことが苦痛になっていた。
クライアントと接していると、FA、アナリスト、コンサルタント、ファンドマネジャーなど、キラキラしているように見える「近そうな」仕事をしている人たちと接することもあり、そういう仕事に憧れたりもする。
筆者はVCの監査をするうちに新しいビジネスを生み出す投資先にハンズオンで関与し、うまくバイアウト・IPOできた時には巨額の報酬を得る仕組みを見て、コレだ!と思った。
しかし、少し調べたりエージェントに聞いたりした結果、会計士のキャリアの延長線上には無いことがすぐにわかった。
30歳も過ぎると転職市場でも既存の会計士キャリアをベースに評価されるのが通常であり、その外側の仕事に携わるチャンスがないわけではないが、エージェント経由で巡り合うことはまずないだろう。
VCもFASを経由すればワンチャンあるかも、という話を聞いて監査の後にまずはFASに移った。
しかし、そこで退職者の行き先を観察していると、きっと数年自分がここで仕事を続けても行きたい方向に行ける期待は薄そうだとすぐに悟った。
「ああ、もう自分はエージェントから提案されたコレらの中から仕事を選ぶしかないのか。だったら辞めてもそんなに変わらないじゃないか。」と絶望的な気分になった。
結局、今更仕事の方向性は変えられないものなのだろうか?
引き続き会計士のキャリアの延長線上にあるものの中から少しでも理想に近いものがないかと検討すると、経営企画やCFOという仕事に興味が湧いた。
企画的な要素が含まれることで、財務スキルを活かしつつも「「決まり」に詳しくなって、それに従った処理をするか、それに従った処理がされているかを確認する仕事」を行う日々から脱却できるのではないかと思った。
少なくとも、それ「だけ」を行う毎日から脱却したい。
例えば以下の書籍にある通り、監査法人から事業会社の管理職・経営企画を経てCFOになるというルートが散見されるので、なんとなくこういったルートに乗るような転職のイメージを持った。
偶然にもFASの業務経験のお陰で経営企画職のオファーもちらほら来るようになったので、FASを挟んだ意味もあった。
組織構造にも不満があった
最近は監査法人の中枢を担ってきた人材の流出が目立つようだ。
おそらく理由としては残念ながら監査法人が人材をぞんざいに扱ってしまっているからであるが、ぞんざいに扱わざるを得ない理由は「儲からない」からだと思う。
上場企業等は法律に基づいて監査を受けないといけないので、渋々高い報酬を払って監査を受けている。
会計士は中立的な判断を求められるのにクライアントから報酬を得ている上に、「単価×時間数」の工数商売であるため、仕事の価値ではなく労働時間が増えると収入が上がるという超「歪」な商売だ。
前述の通り、会計士は公務員のような仕事で、何かを生み出す訳ではないので成果の優劣は観測し難い。
そのため、ある程度はリストラなどで人員数を調整しつつも、残った人を「ほぼ」年功序列で昇格させてゆくことが組織を円滑に動かすことにつながる。
しかし、最近は四半期開示・JSOXの導入に始まり、増加する企業の不正への対応、非財務情報の開示への対応などに追われて工数が増加して収益性が低下し、「ほぼ」年功序列を維持することができなくなってしまったようだ。
収益性の低いIPO監査業務などを放棄して中小監査法人に委譲したり、非監査業務の受注などで収益性の回復を図るも、それでもなお収益性が低いのであろう。
筆者の職場では2つ上の先輩あたりから昇格率が著しく悪化し始めた。
そんな中で、「能力は高いけれど評価されなかった人」がどんどん離職してしまっている。
苦行の末に無能扱いされても平気なドMも少なからず存在するが、淡白な組織構造・風土ゆえにロイヤルティなんてないのが当然だ。
能力が高い人が辞めると、他の能力の高い人のリソースを圧迫するため、連鎖的に離職が続く。
これにより、若手は仕事を教えてもらえず、中堅は業務が集中して精神的・肉体的に限界突破する組織になってしまったという話を最近はしばしば内部者から耳にする。
筆者は執筆時点の1年半弱前あたり(監査からは2年半弱)に転職を行なったが、まさにそういう変化を強く感じ始めた時期だった。
有能な先輩が離脱し、アレもコレも押し付けられるけど再配分する先はいない。肉体的にも精神的にも限界。
あと一押しで辞める決心が固まるというところで、チームのためにギリギリ耐える毎日だった。
期末監査も終わり、立ち止まって考えた。
筆者の評価は一般的ではあったものの、いの一番に昇格できるような評価ではなかった。
そんな中で、辞めるタイミングを逸したうだつが上がらない上司との会話などがきっかけになり、今が潮時だろうと思った。
ちなみに、残ることを選択した優秀な先輩方が未だ昇格できずに滞留している話を聞くと、本当に残念に思うし、やっぱり辞めてよかったなとも思う。
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転職とその後
筆者はCFOを目指すべく経営企画職をメインに転職エージェントを利用して仕事を探し始めたところ、ちょうど友人からとあるベンチャーでリサーチ、事業・経営企画職をやらないか?という紹介が入った。
自分が望んでいた方向であったので、すぐに話を聞くことにした。
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