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変革時にはデータよりも直感が頼りになる

前回の記事でも触れたように、変革とは既存のシステムが通用しなくなった時に、新しいシステムへと再構築することである。

この変革時には、データというものが役に立たないことが多い。ここでポイントとなるのは、データはヒストリカルなものであるということだ。過去の延長線上にある線形的な変化は予想できるが、非線形的な変化は予想できない。つまり、新しいシステムで発生する事象は、既存のシステムで蓄積されたデータから予測し得ない。

リーマンショックが発生した直後、2009年のWorld Economic Forumにおいて開かれた「Managing Global Risks」というセッションがあった。ここで、Goldman Sacksの社長兼COOであり、のちにトランプ政権にて国家経済会議委員長に指名されたGary D. Cohn氏が、次のような発言をしている。

Risk management is not a science. It’s an art form. It’s not a perfect art form and we all have to understand that.
The vast majority of risk models and risk decisions are all made on a histrical data. Historical data is only good as history and, as we all know, history does repeat itself but history reinvents itself every time.
So anyone who got caught and that includes everyone who is managing risk based on historical data, obviously had a problem.

(ChatGPTによる和訳)
リスク管理は科学ではなく、むしろ芸術のようなものだ。完璧な芸術ではなく、そのことを私たちは理解する必要がある。
リスクモデルやリスクに関する意思決定の大多数は、過去のデータに基づいて行われている。過去のデータは歴史と同じで、役に立つが、私たちが知っているように、歴史は繰り返されるものの、毎回新たに姿を変えて繰り返される。
したがって、過去のデータに基づいてリスク管理をしているすべての人、つまりリスク管理者全員が問題を抱えることになるのは明白だ。

Davos Annual Meeting 2009 - Managing Global Risks
https://www.youtube.com/watch?v=UUTAiLMsTMA&t=384s

つまり、ヒストリカルデータは強力だが、そこから想定されることから大きく外れる事象も起きうるということだ。金融業界にとって、リーマンショックは非線形的な環境変化だったが故に、それまでのリスクマネジメント策は役に立たずに終わった。その点を指摘した発言である。

ヒストリカルデータが役に立たない時、ある種の「飛躍」が必要になる。通常、飛躍は良いこととはされない。しかし、非線形的な変化は過去のデータからは直接的に導出できないため、変革時には飛躍がないと本質を捉えられない。

飛躍は直感から生まれる。これはいわゆるアブダクションが必要ということだ。(アブダクションについては別途詳述しようと思うが、一旦以下のリンクを見ておくと基礎的なことが理解できる。)

ヒストリカルデータから有効な示唆や予測が得られない世界線に立った時、無秩序にならぶ情報の中から本質的な情報を掴み取り、自ら秩序を作り出していく必要がある。この時、「過去どのような事例があったか」は参考にはなるかもしれないが、そこに答えはない。参考となる事例を参照しながら、自ら考えて秩序を作り出していくしかない。データやエビデンスを示してその秩序を作っていくことはできないため、方向性を示すときにはデータやエビデンスから「飛躍」し、「直感でやる」以外に方法がないのだ。

変革時には直感が頼りになるのだとすれば、準備すべきことも変わってくる。データに習熟することは重要だが、過去から飛躍して新しい解決策を創造していく力も劣らず重要ということになり、その力を鍛錬することが欠かせなくなるのだ。


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