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要領が悪い人になろう

要領の良し悪しについて、以下の様な記事があった。

この記事では、「要領が良い」という言葉はポジティブな意味でもネガティブな意味でも使われることがあるが、共通しているのは「仕事の優先順位をつける能力に長けている」ことだと説明されている。仕事の姿勢という観点では「要領が良い」ことはネガティブかもしれないが、おそらく仕事の能力という観点ではポジティブに捉えられることが多いだろう。

しかしもう少し中長期的な視点に立つと、仕事の能力という観点でも、要領が良いことが必ずしもポジティブなことではなく、むしろ要領が悪いことの方がポジティブに働く可能性がある。

要領が良いということは、「その時点における結論を出せる」ということ

先ほどの記事では、要領が良いとは「仕事の優先順位をつける能力に長けている」ということだった。仕事の優先順位をつけるには、当たり前のことだが、ある仕事は優先して取り組むべきで、別の仕事は優先して取り組まなくても構わないという判断を下せる必要がある。

しかし、本来的には「その仕事は優先して取り組むべきかどうか」は容易に判断することができない。例えば、ある企業が全然儲からない慈善活動に近いような事業を行っているとする。セオリー通りに考えれば、この事業は撤退すべきだ。儲からず、投資リターンが見込めないからである。

しかし、実はこの事業はかなりメディアに取り上げられることが多く、支援者も多いため、この事業をきっかけに同社を知って就職を希望する者や、一緒に事業をやりたいと言ってくる企業が多数存在するかもしれない。高い広告費を投じるよりも、この事業を継続して企業イメージと知名度の維持向上に努めた方が得策ということがあり得る。

ある面から見ると重要性が低かったり、優先度が低かったりする仕事も、別の面から見るとそうではない、というケースは世の中に多くある。そう考えると、「仕事の優先順位をつける」ことは実は結構難しく、本来的にはそう簡単に「要領良く」仕事を優先度分けすることはできないはずだ。

しかし、それでも優先度を決めるためには、その時点で見えている範囲で優先度の高低を評価するしかない。全知全能の人間はいないので、見えていないことがあるのは仕方のないことである。優先順位をつけるということは「その時点の結論を(一旦仮で)出す」ということに他ならないのだ

つまり、「要領が良い」とは「その時点の結論を(一旦仮で)出す」能力が高いことだと言える。これは確かに素晴らしい能力だが、ネガティブに働くこともある。

(一旦仮で)を忘れてしまう

上述の通り、本来的には優先度などそう簡単に評価できるものではない。物事を測るモノサシは、世の中に数多くあるのだ。故に、優先度をつける時には「その時点の結論を(一旦仮で)出す」の(一旦仮で)という部分を忘れないことが重要である。結論を出すときには何かを捨象している。捨象している部分を忘れないということである。

しかし、「要領が良いこと」がポジティブなことだと周囲に評価され、要領の良さが促進されると、捨象することが当たり前になってしまう。その時点で見えていないもの、考えても仕方がないものは捨て置いておけ、というわけだ。(一旦仮で)を忘れてしまうのである。確かにその方がその場では効率的なのだが、先ほど述べた通り「実は別の見方をするとより優先度が高い」という結論が得られる可能性は常にある

言い換えると、「手軽にわかる」という快感から抜けられなくなり、「わからない」という状態に耐えられなくなる、ということでもある。以前紹介した知的生活の方法(著:渡部昇一)において、わからないという宙ぶらりんな状態に耐えることを「自分をごまかさない精神」と呼んでいたが、これを経ないと本当の「わかる」に到達できない。

つまり、要領が良いと「結論が出せない」「わからない」という状態から離れてしまうようになり、短期的には効率的でも、長期的な視点に立つと複眼的に物事を判断したり、思考を深めたりすることを妨げてしまう可能性がある。

要領の悪さ=視点や思考を深めるための豊かな機会、と考える

要領が悪い人は仮の状態から抜け出せないので短期的には評価されないが、視点や思考を深める機会に満ちているとも言える。すぐには結論を出せないことを深く理解しているから、優先度が簡単に付けられないということだ。

ある程度長い期間「要領悪く」過ごしていると、物事を複眼的に見たうえで結論を出すことができるようになる。本当の「わかる」に到達する。

本当の意味で「要領が良い人」とは、この状態に到達した「元・要領が悪い人」のことなのかもしれない。物事は複雑で、そう簡単に割り切れない。それでも、現時点でのベストとして、一旦の結論を出さないといけない。それでも、常にそれは「仮」の状態であり、状況が変われば結論も変わり得る。そういったことを全て弁えた上で手早く結論を出し、優先度を付けられる人こそが、本来の意味での「要領が良い人」と言えるのではないかと思う。

若い時やキャリアの浅い時に、一般的な意味で「要領が良い人」になる必要はない。要領悪く過ごし、脱皮して「元・要領が悪い人」として、本当の意味での「要領が良い人」になる、というステップを踏むことが重要である。

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