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スタッフとして優秀だったのに、職位が上がると成果を出せなくなる現象を自分の言葉で説明する
タイトルの通りですが、「スタッフとして優秀だったのに、マネージャーになったりと職位が上がると成果が出せなくなる現象」はよく聞く話ですし、自分が観測した範囲でも実際に割とよく起きる現象です。この現象が起きるメカニズムを考えてみたのでまとめます。
組織階層/職位と仕事の関係性
まず、職位が上がると仕事がどう変わってくるのかを考えてみます。当たり前のことなのですが、一般的には職位が上がるということは、組織階層を上ることに繋がります。スタッフ→チームリーダー→マネージャー→CxO…の様な形です(肩書はなんでもよいのですが)。
では、組織階層が上がるとどのように仕事が変化していくのか。組織階層が上がると、「仕事をするときに予め与えられる前提条件」がどんどん少なくなっていくということがポイントです。
トップマネジメント(社長やCEOと言われる人たち)の仕事を想像してみましょう。トップマネジメントは、自分に指示を与えてくれる人はいません。この仕事はこう進めたらいいよと教えてくれる人もいません。そもそも、自分の仕事を定義してくれる人もいません。自分は何をメインの仕事としたらよいのか、そしてその仕事をどう進めて、誰に任せたらよいのかといったことを、与件となるような要素が全く何もない中で全て自分で決めて仕事をしていく必要があります。
1つ階層が下がってCxOになると、トップマネジメントからテーマを与えられて、仕事を任されるわけですが、これはつまりトップマネジメントと比較すると1つ前提条件が付加されていることになります。言い換えると、トップマネジメントが「経営課題」を総体的に扱っているとしたら、CxOは「一段階分解された経営課題に取り組む」ということです。(実際には、CxOはトップマネジメントと同じ目線で課題を捉え、仕事に取り組む必要があると思いますが、議論を簡単にするためにそういった要素は除きます。)
1つ階層が下がってマネージャーになると、更に一段階分解されます。何階層あるかは組織の規模や性質によりますが、それ以降の階層も、1つ階層が下がるごとに課題が一段階分解されていくということは変わりません。
そして、課題が細分化していくにつれ、前提条件が増えていきます。上の階層が方向性を出して、下の階層に仕事を任せていくからです。一番下の方の階層にまで仕事が下りてくるころには、かなり前提条件が固まっており、やるべきことが明確になっているということが普通です。
仕事の性質が変わる
階層が下がるごとに、課題が細分化されて分担されていく。伴って前提条件が増えていく。では課題の大きさと前提条件の多さだけが問題ないのかというと、そう単純ではありません。
階層によって、仕事の性質が2つの軸で変化していくのです。1つ目は、「仕事や取り巻く状況の確実性」という軸です。前述した通り、トップマネジメントは前提条件ゼロの状態から経営課題を浮き彫りにし、自らの仕事を組み上げていかないといけません。つまり、「これをやっておけば確実、と言えるような仕事はない」ということであり、逆に言えば「不確実性を取り扱う仕事が求められる」ということになります。
一方で、階層が下がっていくと前提条件が増えていき、「これをやっておけば確実と言えるような仕事」が増えていきます。営業マネージャーを例にとって考えてみましょう。その営業マネージャーは、自らの担当地域で達成すべき目標が与えられていて、その達成のためにチームをリードすることが求められるとします。この時、「この地域で、この目標を達成すれば会社の成長につながる」ということは予め定められている確実性の高い部分であり、そのためにチームをどうリードするかはその営業マネージャーの裁量で判断していくべき自由演技の部分です。しかし、その会社のCEOであれば、「どの地域を攻めるべきか」「営業マネージャーを何人程度置くか」「どのような目標を与えるか」「そもそも、営業マネージャーを配置すること自体をやめるべきなのか」といったことをゼロから考えなければなりません。1つ1つの意思決定が会社の成長に繋がっているのかどうかを考えて判断するのは、トップマネジメント以外にできないからです。
2つ目の軸は、「前例への依拠度合」です。確実性の高い仕事は、再現性が高いとも言えます。再現性が高ければマニュアル化が可能です。つまり、確実性の高い仕事は「これを参照すれば仕事を進められる」という「前例への依拠度合」が高くなります。
一方で、トップマネジメントに近づけば近づくほど、不確実性を扱わないといけないですから、再現性が低くなります。つまり、マニュアル化が難しく、前例へ依拠できなくなってくるのです。前社長やCEOが経営の要諦や過去の経緯を踏まえたアドバイスをしてくれるかもしれませんが、経営という営みは文脈依存度が非常に高いですから、参考や学びにはなっても、そのまま活用できるということはまずありません。
これまでに説明したことをまとめると、以下の図の通りです。
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職位が上がると仕事ができなくなるメカニズム
ここまで読めばお分かりの方も多いかもしれませんが、職位が上がると仕事ができなくなるのは、「仕事の性質」が変化し、「仕事で求められること」が変わるからです。要は、「ゲームのルール」が変わるのです。
職位が低い時に求められるのは、「前例の踏襲や、ルール・マニュアルへの習熟」です。既に細分化された仕事が自分に降りてくるので、それらの業務をいかに再現性高く遂行するかが重要なわけです。
一方で職位が上がってくると、求められるのは「不確実な中で判断を行い、確実性の高い仕事を作っていき、細分化して下の階層へ任せていくこと」へと徐々に変わっていきます。
ここで重要なのは、仕事に求められるこの2つの考え方は、完全に逆ベクトルだということです。つまり、求められる仕事に応えていくための資質が全く異なるということです。
上述の事項を踏まえて私たちがやるべきことは、「不確実性が相対的に高い状態で求められる仕事をするために何が必要か」を常に考え、研鑽しておくことです。いわゆるビジネススキルは、階層が上がっていくとどんどん役に立たなくなることが良くわかります。反対に、階層の低い時には役に立たなかった「批判的思考力」や「仮説構築力」といった能力が、どんどん役に立つようになってきます。中長期的な視点でこういった能力の開発に自己投資しておき、自分の天井を引き上げ続けておくことで、職位が上がっても成長曲線を下げずにおくことができるのではないでしょうか。