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「問題解決」考⑤

前回は、「真の問題」を特定した後に、どのように解決に繋げていくのかを説明しました。前回までの4回で、私が考えている問題解決の大まかな全体像は説明できたと思います。

今回は、問題解決の全体プロセスを踏まえた上で、問題解決と言語の関係性について説明します。

もし「問題解決に長じるうえで鍛えるべき力は何か」という問いを受けたら、私は「言語力」と答えます。問題解決力と言語力は非常に密接に関連しているというのが、私の考えです。経験上、両者はほぼ正相関します。

ここでいう「言語力」とはどんな力かというと、「他者が発した言葉を正確に理解し、自分の思考を正確に言語化できる力」のことを指しています。文学的な素養があることや、語彙が多いこと、装飾的な表現に長けていることなどは、別の文脈では「言語力」の一要素を占めますが、問題解決との関係で語られる「言語力」には含まれません。言語を軸に、思考を正確に受け取り、正確に発する力だけを、ここでは「言語力」と表現しています。

それではなぜ、言語力が問題解決力とそれほど深く関係してくるのでしょうか。それは、人間にとっての言語というものの特殊性に理由があります。人間にとって、言語とは世界を認識するための唯一のツールです。人間は言語を用いて現実を恣意的に切り分け、整理し、認識しています。

そのことを認識したうえで、問題解決のプロセスをもう一度思い出してみましょう。

・あるべき姿と現状を把握する
・そのギャップとしての表層的問題を捉える
・表層的問題から「濃い」情報を取り出し、「真の問題」を特定する
・「真の問題」にアプローチでき、かつ実現可能な解決策を考案する

大まかには、問題解決はこの4つのプロセスで成り立っていると言えます。このうち、問題解決の急所は3つ目までの「真の問題」を特定するステップまで、ということもお伝えしました。「真の問題」がひとたび特定されれば、解決策は自然と導出されることがほとんどであり、あとは実現可能性の検証という実際的な面が論点となるからです。

3つ目までのステップで行っていることは、全てが「対象を明確化する」「対象を切り分けて把握する」という行為です。あるべき姿も、現状も、そのギャップとしての表層的問題も、真の問題も、どれも「目の前に転がっていて、自然と見えている」ものではありません。確かにどこかにはあるはずなのですが、岩石を削り出して彫刻を形作るように、切り出す・削り出すことが求められます。

つまり、問題解決において急所となる「問題の特定」とは、「目の前の世界に存在するが、はっきりとは見えていないもの」を「切り出す・削り出す」ことである、と言えます。それでは、この「切り出し・削り出し」は何をもって行うのでしょうか。そう、言語を用いて行うのです。曖昧なものを、言語を通じて限定していき、明確な対象として認識できるようにする。これが「問題の特定」に他なりません。

故に、問題解決とは多分に言語分析的である、と私は考えています。「これが理想だと思うんだよね」と、ある経営陣が発言したとします。あるべき姿を特定するための重要なヒントです。「これが理想」の「これ」とは何を示しているのか。なぜ「目標」や「やるべきこと」ではなく、「理想」という言葉なのか。「思う」という言い方をした理由は。なぜその発言に至ったのか。その全てを言語分析的に検証し、曖昧になっているものを解き明かしていく。これこそが、私の考える「問題解決プロセス」です。

私は、個人の大きなテーマとして「戦略/問題解決×哲学/言語」というものを掲げています。「戦略/問題解決」は自分が価値発揮すべきこと、そして「哲学/言語」はそのために用いるツールを指しています。その根底には、上で述べたように「言語というツールは、現実の問題を特定・解決していく強力なツールになり得る」という認識があります。

知識、データ、スキルを軽視はしておらず、むしろ重要な要素だと考えていますが、中軸には言語を据えて実際の問題を考えていく。これが私なりのアプローチであり、また多くの人にとっても役立つアプローチでもあると考えています。

雑駁ではありましたが、現時点で私が「問題解決」に関して考えていることは今回で一旦完結です。

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