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「問題解決」考④
前回は、私が経験的に獲得してきた「真の問題」を特定するための等身大のコツとして、「物事の濃淡を見極める」こと、そしてそのために直観と分析の双方を組み合わせて用い、直観力を高めていくことの重要性を説明しました。
今回は、「真の問題」を特定した後に、どのように解決に繋げていくのかを説明したいと思います。
ひとたび「真の問題」が特定されたら、問題解決の8割は完了していると言っても良いと私は考えています。問題「解決」という言葉から、「解決」するプロセスに本質があると考える人も多いと思うのですが、問題解決において重要なのは「問題の特定」です。何故なら、問題の特定が間違っていると、どんなに素晴らしい解決策を持ち出しても、そもそも問題にアプローチできていないので何も解決しないからです。故に、真の問題が特定されれば、問題解決は8割完了と言っているわけです。
「真の問題」を特定した後、解決に繋げていく上で押さえるべきポイントは2つあります。「実現可能性」と「仮説検証」です。
1つ目の「実現可能性」とは、文字通り解決策が現実に取り組み可能かどうかを考える、という意味です。あまりにもお金がかかりすぎたり、期間が短すぎたり、組織や人の能力を大きく超えていたりすると、より解決策があってもそれを実行することができません。いわゆる机上の空論に終始してしまい、結局問題が解決しなくなってしまいますので、「その解決策は実行可能かどうか」を軸に考えることが重要です。
解決策を考える上で、まず考えるべきことはその解決策が本当に問題を解決するのかどうかという点ではないか、と疑問に思うかもしれません。しかし、多くの場合それが論点になることはありません。ただし、「真の問題」がちゃんと特定されていれば、という条件付きではあります。
「真の問題」が特定されているということは、「このボタンを押せば問題の全体が改善する」ということが見えているということですから、複雑で難しい解決策をいくつも繰り出す必要はなく、解決策はシンプルかつ分かりやすいもの、ある種自明なものに落ち着くはずです。逆にいうと、そこくらい自然に解決策が導出されなければ、「真の問題」がきちんと特定されていないということになります。
故に、正しい問題解決のプロセスを踏んでいれば、「解決策の有効性」を問う必要性は低く、むしろ考えるべきなのは「解決策の実現可能性」ということになります。経営資源が無限であればありとあらゆる解決策が実現可能なのですが、どんな組織も資源は有限です。その有限な資源のなかで、解決策の有効性を落とさずに実現できる施策は何か、ということを問うのが、解決策を考える上での要所ということになります。
次に2つ目の「仮説検証」です。1つ目の「実現可能性」を検討して、実現可能かつ有効な施策を考案したとしても、それはまだ「仮説」の段階です。仮説の精度を上げるために、施策の実現可能性と有効性のバランスを検証していく必要があります。
この仮説検証、言うは易し行うは難しの典型例です。というのも、「真の問題」を特定する際に行なった「仮説構築→検証」プロセスは、基本的に紙や頭の中で完結する話ですが、解決策は実行を伴うものですから、おいそれと簡単に検証を行うことができません。
以前、「BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?」というメガプロジェクトを成功させるための要諦を示してくれている素晴らしい本を紹介しました。
解決策の検証については、この本に書かれていることが大きなヒントになります。この本では、プロジェクトの遂行というと「実行」に重きが置かれがちなところ、実は計画段階で綿密かつ徹底的に準備を行うことが、プロジェクトを成功させる上でもっとも重要な点だということが説明されています。
解決策を遂行することも、プロジェクトの遂行に他なりません。大規模に施策を実行する前の計画段階において、「計画通り進めれば絶対に期間内にうまくいく」というレベルにまで具体性を高めておくことが肝要です。そのためには、財務インパクトのような数値面のみならず、人間関係や組織の権力構造を踏まえたコミュニケーションプランを綿密に練り、どうやれば組織を問題解決のレールに乗せることができるかを何度もシミュレーションし、修正を重ねて「あとはやるだけ」の状態にまで持っていく必要があります。
こうして仮説検証を繰り返し、仮説の精度を高めて「この施策を打てば、真の問題を間違いなく解消することができる」という自信を持てるようにする。真の問題を解決していくフェーズは実行局面ですから、現実的な視点に立って実行可能性を追求することに重きを置く。これが押さえるべきポイントです。
問題解決の全体像は、今回までの4回で概ね説明しました。
次回は、問題解決の全体プロセスを踏まえた上で、問題解決と言語の関係性について説明したいと思います。