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「問題解決」考③
前回は、表層から深層に潜り、「真の問題」を特定することの重要性とそのためのアプローチについて説明しました。そして、「真の問題」を特定することが問題解決の肝でありながら、同時に最も難しいプロセスであることも説明しました。
今回は、私が経験的に獲得してきた「真の問題」を特定するための等身大のコツを説明してみたいと思います。
私は、真の問題を特定する際に重要なのは「物事の濃淡を見極める」ことだと考えています。あるべき姿と現状のギャップから、表層的な問題を把握する。その表層的な問題の中から「この問題に重要なポイントが含まれていそうだな」とか、「この問題とこの問題を結びつけると、深層に潜れそうだな」といったように、バーと大量の情報が並んでいる状態から「濃い情報」を見つけるということが重要だ、ということです。
以前、佐藤可士和さんの著作である「佐藤可士和の超整理術」をご紹介し、佐藤可士和さんが問題解決に「引き算思考」を取り入れているということを説明しました。「物事の濃淡を見極める」ことも、引き算思考の1つです。「問題だ」と言われていることの殆ど全ては「淡い」情報、つまりはノイズです。真の問題を掴むためには、「濃い」情報、佐藤可士和さんの言う「本質」に繋がるような情報を見出す必要があります。
では、「濃い」情報をどのように見分けるのでしょうか。「直観」を使って、というのが答えです。本質を抜き出すための方法論が世の中では色々と語られていますが、そういった方法論は特定の文脈やケースにしか適用できません。何故なら、現実のあらゆる複雑なパターンを適切に処理できる、魔法のような方法は存在し得ないからです。
「直観」というと、何の根拠もなしに適当に判断しているように聞こえるかもしれませんが、直観は鍛えることができ、意識的トレーニングすればどんどん先鋭化されていくものです。以前、「データが溢れる時代における直観力の活かし方」という記事を書き、心理学における二重過程理論を軸とした直観を育む方法を説明しました。
二重過程理論というのは、人間には「システム1(早い思考)」と「システム2(遅い思考)」という2つの思考があるという考え方です。システム1はいわゆる直観、システム2は分析や論理的思考と言われるような、検証型の思考です。システム2を使って批判的に考えることを通じて、システム1である直観を鍛錬していくことができると私は考えており、それを上の記事で説明しています。
とはいえ、直観というものは間違いを含むことも多い。だからこそシステム2である分析・検証型の思考が役立つわけですが、このどちらも上手く活用することが、「濃い」情報を見極める上では重要です。
まずは、今の自分が持っている直観力で「濃い」情報、「本質」に迫る情報を掬い上げる。そして、自分の直観は正しかったかどうかを、データ分析やヒアリング、議論等を通じて検証する。もし間違っていたり、修正すべきポイントが見つかったりすれば、プロセスをやり直す。このように、いわゆる「仮説構築→検証」型サイクルをグルグル回していくことで、「真の問題」により早く辿り着くことができるのです。
そして、このプロセスを訓練し続けていくと、どんどん直観力が向上していき、パッと見ただけで精度高く「濃い」情報を見抜けるようなシーンが増えてきます。直観の精度が高いと、検証が必要な項目が少なくなり、いわゆる「手戻り」も減ってくるので、問題解決の生産性がぐんと高まります。
重要なのは、「網羅思考」を捨て、「直観で濃淡を見抜く」ことにチャレンジすることです。そうして「直観・仮説型」の思考に切り替えていくことが、真の問題を早く見抜き、手早く本質的な問題解決を行う上で見逃せない要素です。
次回は、「真の問題」を特定した後に、どのように問題解決に繋げていくのかを説明します。
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