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体力が落ちる30代以降の生存戦略

私は30代半ばに差し掛かっているが、20代前半くらいと比較すると体力が段々落ちてきている実感がある。運動習慣によって多少その傾向に抗ってはいるが、「年齢を重ねると体力が落ちていく」という基本傾向そのものを変えることは難しい。それ故、程度の差はあれど、30代以降は基本的に「歳とともに体力が落ちていく」ことを前提としてキャリアを考えることが重要になる。

体力が落ちるということは、仕事の成果を上げていくうえで非常に大きな枷だ。周囲が1日8時間働いている中で自分だけ12時間働けば、(あえて単純化すれば)1.5倍の成果を期待できるが、そういった「たくさん働く」というオプションを奪われるということに他ならない。仮に体力が落ちている中で無理して働いても、頭や体が正常に働かずにパフォーマンスが落ちてしまう。30代以降は、体力への依存度を薄めた成果の出し方が求められる。

「成果を出す」構造を捉える

体力への依存度を薄めつつ成果を上げていくためのキャリア戦略を考える上では、まずは「成果」とはどのような要素から生まれているのかの構造を把握しておくことが肝要だ。このテーマ自体が非常に複雑かつ難解で、人によって答えは異なるだろうが、ここでは一旦「成果=能力×体力×環境」という構造で考えてみたい。

「能力」「体力」「環境」という3つの係数を挙げているが、それぞれを簡単に説明しておく。

①能力:ある人が平均的に発揮できるパフォーマンス
②体力:①能力を継続的に発揮する力
③環境:置かれている状況による①能力の発揮しやすさの度合い

例えば、①能力:100、②体力:50、③環境:50、の場合には、100×50×50=250,000(成果)になる、というようなイメージだ。この数値をどのような基準で図るかによって各係数への数字の入れ方やスケールの置き方は変わってくるため、100や50といった具体的な数字には意味はない。ここで重要なのは、②体力の低下をカバーするには、①能力と③環境という2つの係数を動かす必要があるという点だ。

「環境係数」を動かすことの重要性

①能力の係数を動かすことのイメージは持ちやすいだろう。簡単な話で、自分の能力を引き上げていけばよい。世の中の職業人の多くは、①能力を上げることに強く着目している。書店のビジネス書コーナーに行けば、「イケてる仕事人」になるためのスキルやマインドセットを説いた本が無数に陳列されている。①能力の係数を動かすと一言でいってもその実は多様だが、能力を引き上げるための要諦や技法は既に相当語られていると言える(実践できるかどうかは別として)。

一方で、③環境の係数を動かす重要性については、①能力と比較して注目されにくい。これは何故かというと、「成果を出す」ということは「個人の力」に強く依存していると考えられる傾向にあるためだ。成果というものは、個人の中に存在しているものではない。仕事のできる人から勝手に成果がポンと生まれてくるわけではないのだ。

成果は、個人の中にある「存在」ではなく、「現象」である。「ある」ものではなく、「起きる」もの、「生じる」ものだ。仕事をする人がいて、その人が周囲の人や組織と何かを行い、その結果として成果が「生じる」。もちろん、仕事をしている人は成果を生じさせる重要な要素であるため、①能力は重要である。しかし、成果は現象だと捉えれば、③環境がそれと同等に重要だということに気づくだろう。一般的に想像されている以上に、環境係数は成果に大きく影響する。

「最大の成果が出せる環境」を絞り込んでいくことを、キャリア上の目的の1つとする

話を戻すと、30代以降は基本的に体力が落ちていく。故に、3つの係数のうち②体力以外の係数である、①能力と③環境の双方を動かしていくことが重要であり、③環境は①能力と負けず劣らず重要で、戦略上の大きなピースとして織り込んでいく必要があるということになる。

それでは、ここでいう「環境」とは何を指しているのだろうか。環境というと普通は「職場」や「タイトル」等を指すが、そういった客観的な切り分けを軸に環境を求めていっても、自分が最大の成果を出すことができる環境は見つからない。ポイントは、「自分が最大の成果を出せる独自の環境」を見つけていくということだ。

こういった環境は一石一朝では見つからず、時には自分から環境を構築していく必要がある。実際に打席に立ってみて、自分の仕事がどんな条件下だと高いパフォーマンスになるのかを把握し、試行錯誤しながらベストな環境を作り出していく必要があるのだ。「環境」よりも、「最適な条件設定」を見つけるといった方が近いかもしれない。自分だけに最適なデスク環境を作っていくようなものであり、「自分だけに向けられたポジション」を作ることが重要である。

そのためには、キャリアの中で何度かは方向修正を図る必要があるケースが多い。具体的には、チームや部署を変えたり、プロジェクトを変えたり、職種を変えたり、所属組織を変えたりするということになる。何度か方向修正を図りながら、徐々に自分だけのポジションを探り当てていくのだ。

自分の最適な条件設定を見つけていくことは、2つの大きなメリットがある。1つ目に、これは体力を要さない。複数の条件の交差ポイントに「立つ」ということであり、ただそこにポジションメイクすること自体が成果に結びつく。2つ目に、自分のキャリアの独自性につながる。自分で見つけた条件設定は、自分の作ったデスク環境が自分だけが使いやすいことと同じように、自分に対してのみ最適化されている。他の人が同じポジションに収まっても、(①能力と②体力に圧倒的な差がなければ)自分と同じパフォーマンスを出すことは難しいので、そのポジションは真似がされにくい。他の人にとっては意味が薄いが、自分にとっては意味があるというポジションを見つけることができれば、明確な独自性を打ち出すことができる。

30代以降は体力勝負では勝てなくなることを見越して、環境係数を動かす戦略を持つ。ライフイベントが増えてくる年代に差し掛かるからこそ、生産性を追求するべく環境係数を考慮するこういった考え方の重要性は高い。もちろん、体力が落ち過ぎないように運動したり食事に気を付けたりすることも大切だが、体力でゴリ押しする勝負から降りる決断も必要ではないかと思う。

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